第五十二話 夜明けの別離と最初の関門
※混乱を防ぐため、会話のみ名前は変化させます。
よろしくお願いします。
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夜明け前のまだ薄暗い時間。
小屋の前に立つヴァイスさんを、全員が見つめていた。
「それじゃ、また」
「気をつけろ。絶対に、生きるんだ」
大佐の力強い言葉に、ヴァイスさんが頷く。
軽く交わされた抱擁にルシアは目を奪われた。
二人の絆の深さを、垣間見た気がした。
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一歩、一歩、小屋から遠ざかる。
後ろ髪を引かれ、振り返りそうになった身体をルシアは必死に抑えた。
振り向くな。
前を向かなくてはならない。
これから先を、ヴァイスさんに託されたのだ。
溢れそうな涙を、ルシアは必死に上を向いて堪えた。登り始めた朝日はぼやけて見えなかった。
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しばらくの間、全員が無言でひたすら足を進めた。
街道へ出る直前、声を潜めた大佐が口を開いた。
「歩き方も変えろ。軍人のそれは目立つ」
その一言で、全員の背筋がわずかに緩められる。
やや気だるげな歩調へ変化し、揃っていた足音がばらける。それだけで、幾分雰囲気も緩んだ気がした。
「ここからが本当の戦場だ。気を引き締めろ」
その声に、歩調はそのままに雰囲気のみが引き締められた。
太陽が登り、生き物が慌ただしく動き出した気配がした。
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「意外と順調だね」
宿のベッドの上で、リア先輩が身体の力を抜く。ほとんど会話もないまま黙々と歩くアルグレイ隊は、ある意味異様に映ったかもしれない。
だが、どのようにボロが出るか分からない状況に口を開く気にはなれず、結局無言で歩き続けた。
「王都以外はそんなにまだ手が回ってないのかな?」
二人きりとなった部屋で少し肩の力を抜いたルシアも首を回す。普段しない歩き方に気を遣ったせいか変な場所に力が入り、なんだか肩が凝った。
「このまま、無事に抜けられたらいいね」
そんなルシアの声を遮るように、雑なノックの音が響く。アルグレイ隊にこんなノックをする人はいない。二人は鋭く目線を交わし、得物を後ろ手に隠す。
扉の前に立ったリア先輩が、ゆっくりと扉を開いた。
そこには、宿の主人が立っていた。
「軍の人たちがやって来て全員を下におろせということです。一階へお願いします」
主人は慌ただしく言い残すと、次の部屋へ回るのかこちらの返答も聞かずに、去っていく。
身体を硬くした二人は、視線を合わせ小さく頷いた。
──追っ手だ。
ゆっくりとした足取りで一階へ降りると、宿に泊まっていた全員が下に降りて来ているため人がひしめき合っていた。
部屋の隅にアルグレイ隊のみんなを見つけ、そちらに足を進める。
「来たか」
大佐がルシアたちを確認し、手招きをする。
「ここはウィンが応対する。楽にしてろ」
「分かりました」
軍人たちから隠れるように、大佐の後ろへ身を滑り込ませた。迂闊なことを言いそうな自分は隠れているのが正解だ。
次々と確認が進んでいき、あっという間にルシアたちの番になった。
「次」
短く告げられた言葉に、ウィル先輩が前に出る。
誰とも視線を合わないように、ルシアは下を向いた。
「冒険者の一行です。パーティー名は"夜明けの月"。目的地は南のミリアです」
ニコリと微笑みながら答えたウィル先輩は、普段の気だるげな雰囲気は微塵も感じさせない。どこからどう見ても気さくな冒険者の青年という雰囲気だった。
「どんな活動を?」
「魔獣狩りを中心に、時々遺跡等にも潜っています。たまに商会の護衛もしていますね」
「そうか。行っていい」
そつなく答えたウィル先輩の言葉に、軍人はあっさりとルシアたちに背を向けて、次の集団に向かって歩いていく。
チラリと見た書類には、ルシアたちの外見の特徴等が示されているのが見えた。外見を元に探されているのであれば気づかれる可能性は限りなく低いだろう。
部屋へ戻るために階段を登るみんなの背中を追いかけながら、ルシアはほっと息を吐いた。
一旦大佐の部屋に集合した一行は、扉が完全に閉まり、廊下に人の気配がないことを確認したグレインさんの頷きを見て、張り詰めていた空気が緩んだ。
「ウィル……やるじゃん」
「ウィンだろ……」
「あっ、いっけない!」
ウィル先輩の肩を叩いていたリア先輩が「間違えた」と舌を出すのを見て、普段の雰囲気が戻ってくるのをルシアは感じた。
その様子を横目に、ノエルが大佐には話しかけた。
「リストは髪色などの特徴が書かれていましたね」
「写真など早々に手配できるものではないからな。手配書などは外見が中心となる。ミアたちのお陰だ。だいぶ楽ができそうだな。
ありがとう、ルシア、ミア、ノエル、シルフィ」
お礼を言う大佐に、「私たちは何も……ミアとシルフィのおかげです」と手を振りルシアが否定すると、「そんなことはない。君たちあってのことだよ」と大佐がかすかに笑った。
ずっと難しい顔をしていた大佐の顔が少しだけ緩むのを見て、ルシアも頬を緩める。
思い詰めた表情をしているのが気になっていたのだ。しょうがないことだとは理解しているけれども。
東への道のりはまだまだこれからだが、とりあえず第一関門は突破したと言っていいだろう。
静かに、夜が更けていく。
ジリジリとした焦燥感は、消えないままに。
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