第五話 焔の中の真実
「どう思った?」
ベッドに腰掛けたノエルにルークは尋ねた。
「んー。なんとも言えないけど、悪い人たちではなさそう……かな。でも自信ない…」
案内された部屋は一つしかベッドはなかった。
病み上がりのノエルがベッドを使い、ルークはソファーで寝ることにした。
ソファーは、グレイン軍曹が運び入れてくれた物だ。ノックがして扉を開けると、ソファーを担いだグレイン軍曹が立っていた。そして、「これで寝ろ。」と言い放ち、ソファーを置いて出ていった。
正直、とても驚いたし、少し怖かった。
「軍人ってもっと嫌な奴らばかりだと思ってた。」
ルークがポツリと呟いた声は、思った以上に部屋に響いた。
実際、今まで会ってきた軍人はそうだった。あからさまに子供だと見下し、孤児だと分かると蔑まれた。恐らく、彼らは少し変わっているのだろう。
「誤魔化すのは無理があるな…」
「そうだね…僕が言っちゃったから…ごめんなさい。」
「ノエルは悪くねぇよ。あの手腕じゃ、遅いか早いかだけの違いだ。」
流石のルークも、知らないふりをするのは無理だと分かっていた。とどめは今日の副官だ。
彼等はきっと、いくらでも今日の尋問の中で鎌をかけることは出来たのだ。
それをしなかったのは、彼らの優しさだったのか。
もしかしたら、ルークたちが話すのを待っていてくれたのかもしれない。
「強制してくれた方が、楽なこともあるんだな。」
ルークはため息を吐いた。
これから中佐との話し合いがある。
吉と出るか凶と出るか…
だが、ルークは負ける気はしなかった。
いつだってなんとか乗り越えてきたのだ。
今回だってきっと大丈夫。悪いことにはならない。そんな根拠のない自信があった。
⸻⸻
コンコン
人の個性はノックにも出るらしい。中佐のノックは、低く落ち着いていた。
「どうぞ。」
「私だ。話をしたい。下のリビングで待っているから兄の方だけ降りてきてくれ。」
中佐はそう告げると、ゆっくり遠ざかり、階段を降りていった。
ノエルと顔を見合わせる。
「行ってくる」
ルークはノエルに向かって囁いた。
「気をつけてね」
というノエルは消えそうな声を出し、泣きそうな顔をしていた。
その顔にルークは笑いかける。"大丈夫だ"そう伝えるように。
「取って喰われはしねーよ。
それなら、とっくに喰われてる」
ルークはくしゃくしゃっとノエルの頭を撫でた。
「じゃ!行ってくる!」
元気の良い軽い足取りで、ルークは部屋を出た。
パタンとドアの音が後ろで響く。ドアにもたれかかり、深呼吸をする。
1、2、3。パチリと目を開け、気合を入れた。
行ける、大丈夫。
──俺らは、負けない。
ルークは静かに、一歩を踏み出した。
⸻⸻
「お待たせしました」
「いや、疲れてるところ悪かったな」
なぜか中佐にお礼を言われ、拍子抜けする。てっきり魔術のことを詰問されると思って気合を入れていたのに、少し気が抜けた。
椅子を引き、中佐の対面に座る。木でできた椅子は、少しルークには高かった。
「君たちは、なんで軍が嫌いなんだ?」
そう中佐に切り出され、ルークは目をパチクリさせた。この人には驚かされてばかりだ。そんなこと聞かれるなんて思わなかった。
「なんで嫌いだと思ったの?」
ルークがずっと感じていたことだ。中佐はルークたちが軍を嫌いだと夕食の席から決めつけていた。どうして嫌いだと思うのか、不思議だった。
だって、ルークは一度も嫌いだなんて言っていないのだ。
その問いに、中佐は苦笑をして答えてくれた。
「君たちは、多分、魔法が使えるだろう。
反応から言って、恐らく、弟の方も使えるんだろうとは思っている。
そのあたりの機微には聡いつもりだ。
君は、俺の顔を見た時、『見つかった。』そう唇が動いた。その時は何のことか分からなかったが、きっと魔法を使えることを隠して、軍から逃げていたんだろうと気づいた。
真っ青な顔をして、こちらを見ないようにしていたからな。分かりやすかった。
だが、君たちは孤児だ。
魔術が使えるなら軍にいる方が確実に良い暮らしが出来る。名誉も権力も手に入る。
知っての通り、マレディア王国で魔術が使える人間は貴重だからな。簡単な魔術が使えるだけでも重宝される。
それでも、孤児で居続けた理由があったはすだ。
夕飯を取りながら、理由を考えていたが。軍が嫌だった。そう考えると辻褄が合う。
私は、軍人だ。だが、君たちを拾ったからには責任を持とう。それが、私の生き方であり、信念だ。
そのためにも、何故、軍が嫌いかを教えてほしい」
ここまで馬鹿正直に言われるとはルークも想定外だった。正直やりにくい。ルークは素直にぶつかってこられる方が苦手だ。素直になりたくなるから。
真正面からぶつかってくる中佐に、ルークも姿勢を正して答えた。
「軍人は…俺らのこと蔑んできたから、嫌いだ。」
「そうか…悪かった。」
「なんで?中佐は関係ないじゃん。中佐はちゃんと話を聞いてくれる。」
「それでも、同じ所属の奴が嫌な気持ちにさせたのだろう。幼い君たちがそこまで嫌がるようになることを。だから、悪かった。」
「いいよ。今は嫌な奴ばっかじゃなくて、軍の中にもそうじゃない人達がいるってことは分かったから。」
「そうか。感謝する。」
どこまでも対等に向き合ってくれる中佐に、隠している自分のほうが馬鹿らしくなった。
どうせ知られるなら、こんな人のほうがいいのかもしれない。
自分が悪く無いとしても、悪かったと言ってくれる、この人なら。
ルークは一つ深呼吸し、覚悟を決めた。
「もう一つある。軍が嫌いな理由。」
「…なんだ。」
唇が乾燥してのどが渇きを訴えた。
浅くなる呼吸を必死で整える。
言える。
⸻言え。
ノエルは息を吸い込み、言い放つ。
誰にも告げたことのない秘密を⸻
「俺らは、軍に焼き尽くされた村の生き残りだ」




