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妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む  作者: 月焔 レイ
第一章 (1)【幼少期〜軍属編】
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第四話 疑念の食卓


「気まずい……」

 

 ルークとノエルは、黙々とシチューを口に運んでいた。

 

 カチャカチャとカトラリーの音だけが、ダイニングに響いている。

 

 無言な中佐に、時々話しかけてくれる副官。警戒するように、ちらちらと視線を送ってくる双子。

 初めは人懐っこいように見えた双子だったが、それは、中佐と副官に対してだけだった。兄弟に対しては警戒心の塊で、話しかけてもこない

 無視すればいいのに、やはり気になるのだろうか。ちらちらと視線だけは送ってくる。気まずいことこの上ない。


 そして、帰宅後に少し遅れて帰ってきたカイル・グレイン軍曹という男の人。アッシュグレーの髪は無造作に流され、少し怖そうな雰囲気の人だ。「こんにちは」と言った後は終始無言だ。


 話すのは、兄弟に質問を投げかけるヴァイスだけだった。


「二人はどこに住んでいるの?」

「僕らは孤児院です。幼い頃から孤児院にいたので。」

「何歳?」

「12歳と11歳です。」

「そっか。その歳なら修行中って感じかな?何をしているの?」

「親がいないから修行先も良いところはないし、この体格だから力仕事は雇ってもらえなかった。今はノエルと、街の外の森に薬草を取りに行ってる。」

「森の外に?危なくないかい?魔物も時々出るだろう?」

「あんまり魔物は出ないので、大丈夫です。」


 どこまで話して安全か。どこからが危険か。

 にこやかに話しかけてくるヴァイスを邪険にもできない。

 加減が難しい。ひたすら疲れる。早く終わりにしたい。


「……じゃあさ、なんで喧嘩になったの?」


 確信を突く突然の質問に、中佐の肩がピクリと上がった。だが、視線はシチューに落とされたままだった。

 

「あー……なんでなんだ?」

 

 ルークがノエルに尋ねた。

 よく考えたら、喧嘩の理由をルークは知らない。気づいたときにはノエルはすでに殴られていたのだ。


「うーん。前に兄さんが反撃して、返り討ちにした八つ当たり?いきなり殴られてビックリしたよ。」


 痛かった……と思い出したように右脇をさすっているノエルを横目に見る。この流れはまずい。

 ルークが話題を変えようと口を開いたそのとき、ヴァイスに先を越された。


「え、大丈夫だったの?その後、刺されたって聞いたけど」

「全然大丈夫です。今は痛くないですし」

「……ってことは、やっぱり刺されたのは事実なんだね」


 してやったり。とクツクツ笑っているヴァイスを、ノエルは呆然とした顔で見つめた。


 見事な誘導尋問だった。当たり障りのない言葉で誘導し、口を滑らされた。もう誤魔化せない。


 どうしよう。どうしよう。


 無駄な思考を繰り返していると、一切を傍観していた中佐が口を開いた。


「ノア。からかいすぎだ。


 君たちが、何をそんなに警戒しているかは知らない。なぜ軍を毛嫌いしているのかも分からない。


 だが、今は業務時間外だ。取り調べ中ではないので調書には載せない。話す気があるなら、明日話しなさい。」


「そうだよ。あまりにも口を開かないので、意地になってしまっただけ。ごめんね。」


 悪戯っぽく笑うヴァイスに、なんと返せばいいか分からず、ルークたちは俯いてしまう。


 この人たちは大人だ。そして、今まで接して来た軍人や、あの村を焼き払い、両親を殺したあの男とは違うのかもしれない。


 僅かだが、こびり着いた軍への先入観が少し剥がれ落ちる音がした。


 ⸻⸻


「ごちそうさまでした。」

「ありがとうございました。」


 ルークとノエルは頭を下げた。


 雰囲気はどうであれ、シチューは美味しく温かかった。無言な時間が多かっただけで、孤児だからと言って兄弟のことを蔑む視線も感じられなかった。それはこの街でも珍しいことだった。


 彼らはただ、兄弟の人となりを見ていただけなのだ。


「明日も取り調べだ。今度は兄弟揃ってだな。どうするか考えておきなさい。私はしつこいぞ。」


 中佐のアメジストのような不思議な輝きを纏った視線が、身体を貫く。鋭いのに怖くはない。

 なぜか、背筋がピンと伸びた。


「後で、君と話がしたい。時間を作ってくれるか」

「……分かりました。」


 ルークがそう答えると、中佐は答えを待たずに背を向け、階段へ消えていった。

 軍曹もいつの間にか姿を消している。

 残された兄弟と副官、双子も動き出した。


 ヴァイスが双子に声をかける。


「ごめんけど、リアとウィルは片付けまでお願いね。俺は二人を部屋とお風呂に案内するよ」

「えー。しょうがないですね」

「今度、当番変わってくださいね」


「分かった、分かった。」と返すヴァイスは、双子と本当に仲が良かった。

 友達でも兄弟でもない、不思議な距離感だ。


「仲、いいんですね……」


 ポツリと漏れたルークの独り言は、ヴァイスの耳に届いたらしい。


「仲が良い…とは違うかな?僕らは軍人だからね。僕らは命を賭けている。

 その"相手"が同じだから、どちらかというと、運命共同体?」

「……軍、というと国王ですか?」

「ふっ、冗談。」

「……は?」

「あ、今のここだけの話ね。言っちゃダメだった」


 バッテンと口の前で指を交差させるヴァイスの様子は、口を滑らされたわけではなさそうだった。確信犯的にに口にしたのだろう。


「じゃ、誰に?」

「僕らは、"レオン・アルグレイ中佐"に、命を捧げたんだよ」


 「あの人のためになら、僕は死ねる。」そう笑うヴァイスにルークは少し怖くなった。


 それと同時に、この頭が切れる副官に、そこまで言わせる中佐のことが酷く気になった。


「長話はここまで。ほら、部屋に行くよ」


 背中を翻し、二階に上がっていくヴァイスの背中を兄弟は黙って追う。ギシギシとたわむ階段の音が響いた。


──怖いのに、温かい。

 不思議な空気が、この家には流れていた。

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