第三十九話 妖精の住む塔
「それでは、お気をつけて。ご武運を。」
ロイスさんに見送られ、アルグレイ隊の一行はアイゼンシュタットの街を後にする。
汽車に乗ったルシア達を見送るロイスさんは、その姿が見えなくなるまで、騎士の礼を崩さなかった。
あのあと、大佐とロイスさんを中心に、今後の方針の擦り合わせが行われた。ロイスさんは商会長ということもあり、物資面や経済面からの支援もしてくれるらしい。
戦力的な意味でも、政治的な面でもアイゼンシュタットが加わったことは、非常に大きな意味を持った。
見つけたペンダントは、ルシアの服の下に隠されている。過去の遺物が守っていたことから、「王族の品を受け取るわけにはいかない」と固辞された結果だ。
そして、折れてしまったグレインさんの剣だが……経緯を聞いたロイスさんは、屋敷に飾られた一本の剣をグレインさんに差し出した。
その剣には、ブルーの宝石が埋め込まれており、装飾的にも武器としての性能も文句のない逸品であった。どうやら、過去にドワーフたちから授けられた一品らしい。
そんな立派な物は貰えないと一度は返したグレインさんも、「この剣の価値が分かる人には使ってもらえた方が剣も幸せだ」と笑うロイスさんに、お礼を言って受け取っていた。
グレインさんの折れてしまった剣は、ドワーフ達がどこかへ持って行った。ミア曰く、直ったら返してくれるらしいと、その言葉を聞いたグレインさんは嬉しそうに目を細めていたのが印象的だった。
こうして、王国復興への旅路は、大きく一歩前進したのである。
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「次は北?」
「北なんだが…今の我々が北に行くと、下手をすると遭難して死ぬこともあるからな。次の目的地は、山の奥にある。」
「じゃ、どうする?」
「そうだな…どこか見たい場所がある者はいるか?」
大佐の問いかけにうーん……と考え込む一同。
「何かしたいことがある者は?」
「…過去の遺物が見たい。気になる!」
「過去の遺物か…そうそう見つかるものでもないしな。ここ周辺で知られている遺物と言ったら、海岸沿いにある遺跡くらいか?」
海岸沿いに、過去の遺物と見られる塔があるらしい。
その塔には様々な仕掛けが施されており、怪我人が絶えなかったことから、随分前に封鎖された、曰く付きの塔だ。
登った者曰く、登っているはずなのに上へ進めない。そして何かに阻まれ、いつの間にか塔の外に居るらしい。過去に調査も行われたが、誰も解明することができず、そのまま封鎖となった、という話だった。
その話を聞いて、わざわざそんな場所には行きたくない。と反対したのはルシアとノエルの姉弟だけで、他の皆は乗る気になってしまった。
過去の遺物が見たい、とは言ったが、そんな展開は望んでいなかった。
一人、一人、肩を落とすルシアであった。
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「おおー!雰囲気ある!」
「これは……出そうだな。」
「出そうって何が!?」
「何がって、それしかないだろう。」
怖がる姉弟を面白がるように、大人たちは煽り立てる。アルグレイ隊の目の前には、石壁に蔦が絡みつき、不気味な雰囲気を醸し出す塔が、そこに立っている。
微かに雪が積もっている様子がまた、不気味さを増していた。
「っていうか。国内視察はいいの!?一応任務だろ?」
「心配するな。そちらについては私とヴァイスで定期的に報告書はあげてある。軍事と魔術の視点から考察をしているから十分だ。」
「なにそれ……」
どうにかしてルシアは逃亡しようとしたが、あえなく失敗した、
嫌がる姉弟の首根っこを掴み、ズンズンと双子は塔に向かい歩いていく。その後ろを、他のメンバーも笑いながら追いかけた。
"ギィ"と音がして、軋んだ扉が開く音が、塔の中に響き渡る。
その音を聞いて、ルシアの足はさらにすくんだ。
「ほー。いるな。」
「だから居るってなにが!?」
「落ち着け。お主には分かるじゃろう?」
「大丈夫よ、ルシア。悪い子じゃないわ」
フェルとミアに宥められ、辺りを伺うが、ルシアには何も分からない。
「なにが?」
「まだわからんか。お主には。」とフェルにため息を吐かれるが、分からないものは分からない。
「感覚を研ぎ澄ましてみよ。見るな、感じよ。ノエルもだ。」
フェルの言葉に、目を瞑る。
ガタガタと窓を揺らす海風、微かに聞こえるカモメの声、動かない空気。
アルグレイ隊のみんなの息遣いが微かに聞こえる。
──満ちていく静寂。
"ふわっ" と、なにか温かいものがルシアの頬を撫でた。
それは、上から下に吹き下ろしたような春のような風だった。まだまだ冬の寒さが強いこの時期に感じる温度ではない、なにか。
「なんか、あったかい?」
「これは、風?でもちょっと甘い匂いもする?」
ノエルの言葉に気を付けてみると、確かに甘い匂いがする。だが、ルシアにはこの匂いに嗅ぎ覚えがあった。
「ミア、ちょっと来て」
手招きし、ルシアのそばに寄ってきたミアを捕まえ、匂いを確かめるように嗅ぐ。嗅がれたミアは、くすぐったそうに身を捩った。
同じ匂いだ。甘く、優しい匂い。
「ミアと同じ匂い…?」
「うそだー。シルフィ来て?」
くんくんとシルフィを匂ったノエルが、「確かに似てるかも?」とコテンと頭を傾げた。
その様子を見たアルグレイ隊のみんなも嗅いでいるが、皆はミアたちの匂いは分からないらしく、頭を傾げている。
「お主たちは、魔法でミアたちを見ることができているだけだからな。匂いまでは分からんぞ」
そんなことがあるのか、と目から鱗が落ちた。まぁ匂いがわからないからと言って困ることはないが。
「それならこの匂いの正体は、妖精?」
塔の上を見上げながら、フェルに呼びかけた声に合わせ、他のみんなも上を見上げた。
塔の中は階段が巡り、上の方には部屋があるらしい。階段の最後に微かに扉のようなものが見える。
「会いに行ってやれ。お前らを待っとるじゃろ」
誰がいるか、フェルには予想がついているらしい。だが、教えてくれるつもりもないようだ。フェルの様子からすると、悪い子ではなさそうだ。まぁ、妖精に悪い子はいないのだろうけど。
「ん、行ってみる」
階段の一段目に足をかけると、"コツン"と反響した。ルシアは先の長い階段を見て、小さなため息を吐いた。
そのときだった。塔の上階から、かすかな笑い声が落ちてきた。
本日、無事に最終話まで書き終えることができました!
ちょうど物語としては折り返し地点ですが、完結まで書き上げておりますので、安心して読んでいただければと思います。
完結記念(私だけですが)として、本日はもう一話投稿します!
本作は「王国奪還編」となります。続編も執筆中ですので、楽しみにしていただければ幸いです。
皆様のおかげで、20日という短い期間で初作品を書き上げることができました。ありがとうございました。
今後とも、よろしくお願いいたします!




