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妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む  作者: 月焔 レイ
第二章(2)国内視察─アイゼンシュタット
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第三十八話 嵌ったピース


 グレインさんの様子を見守り、再びゴーレムへ視線を戻す。


「宝石…なの?」


 ゴーレムのコアとなっている赤い宝石。光を反射させ、キラキラと光り輝いている。

 ルシアがゴーレムからコアを外すと、その体は崩れ落ちた。だが、不思議なことに宝石は再生した。


「再生…した?」

「ほう。マナの結晶をコアとしておったのか。なかなかの技術じゃの。

 ルシアが触れたことで、コアがマナを吸収し再生したのじゃろう。」


「え!?じゃあ、ゴーレム、再生する?」


 ギョッとして、ルシアがコアを放り投げかけると、フェルは「あほう」と呆れた声を出す。

 

「お主がたった今外したのじゃ。再生する訳がなかろう。」

「良かった…」


 危機が去ったためか、フェルはくるりと宙返りし、元の大きさへ戻った。「疲れたのじゃー」と欠伸をしているが、さっきまでとの威厳の差が激しい。


「このコア、持っていったほうがいいかな?」

「他に何もなさそうだが…このゴーレムはなぜここに居たんだろう。」

「何か意味があるってことだよね。」


 ルシアは辺りを見回してみたが、特に何もない。とりあえず調べてみようと、全員で四方に散って探索することになった。


「ここの壁に、穴があるよー?」


 リア先輩の声が洞窟に反響した。その声に反応し、みんながリア先輩の元へ集まる。


「穴とはどれのことだ?」

「これ?なんか穴が空いてるし、周りに文字が書いてない?読めないけど」

「ほう。これは妖精の文字じゃ。」

「そんなのあるの?」

「そうじゃ。もう使われなくなって久しいがな」


 疲れたのか、ルシアの頭の上に乗って移動していたフェルが懐かしそうに目を細める。リアとシルフィは肩を竦めているあたり、二人は読めないらしい。


「なんで書いてあるの?」

「暗くて読めないのじゃ。」

「これなら読める?


 ……ライト。」


 ルシアは初級魔術を使い、辺りを照らした。


「この間こっそり練習して、水以外もある程度できるようになったんだ!実戦ではまだまだだけど。」


 とルシアが胸を張ると、「練習してどうにかなるものでも無いのだが……」と大佐は呆れ、「僕も練習しなくちゃ!」とノエルは両手を握りしめていた。


「ふむ。『資格あるものよ、魔石を嵌めよ』と書いてあるな」

「魔石って、これ?」

「そうじゃないか?」


 ルシアが持っていた石を壁のくぼみにはめると、"ゴゴッ"という音を立てて、壁が動いていく。

 開けた空間には、中央に大きな赤い石のはまったペンダントが鎮座していた。

 ブリリアントカットが施され、僅かな光を浴びた宝石は、光を閉じ込めているようでいて、内側から脈打つようにも見える。


「ほう。これは見事だな。」

「装飾品の価値なんて全く分かりませんけど、これが価値あるものだということは分かりますね。歴史的にも、宝石的価値でも」

「……これ、どうするの?」

「取り敢えず、中佐の元へ持っていくべきか?」

「そうしよう。」


 誰が手に取るかという無言のやり取りが交わされ、自然とルシアに視線が集まる。


「……私?」

「それしかなかろう。」


「早よとれ」と頭に乗ったままのフェルから前脚で頭を叩かれ、ルシアは渋々手を伸ばす。


 "しゃらり"という微かな音がチェーンから漏れた。その大きさに反し、ネックレスは非常に軽い。


「取り敢えず首からかけて、服に隠しておきなさい」


 大佐に促されるまま、首に掛けようとしたが、うまく留められない。すると、すっと寄ってきた大佐が髪を分け、ネックレスをかけてくれた。


「まるで誂えたように似合うな」


 ルシアの金髪にシルバーのチェーンが隠れ、赤い宝石は、まるで元からそこにあったかのような輝きを放っていた。


 ⸻⸻


「本当に…実在していたとは………」


 そのままアルグレイ隊の一行は、中将の屋敷へ戻り、ルシアはネックレスを中将に差し出した。


 ちなみに、地下からは二人ずつフェルの背中に乗り、地上へ登ってもらった。移動集団として使われたフェルは、やや拗ねていたが、ヴァイスさんに特大パフェを約束されてからはご機嫌である。鼻歌まで歌っていた。


「このネックレスのことをご存知で?」


「アイゼンブルクで伝わっていた言い伝えです。

 口伝よりも御伽話に近い部類の……

 『妖精に愛された王族しか入れぬ間には、赤いネックレスが眠る』と。

 アイゼンブルクの女性は、一度はそのネックレスを掲げられることを夢見るものです。」


 その言葉に、机に置かれたネックレスに視線が集まる。確かに、光を閉じ込めて光るネックレスは幻想的でこの世のものとは思えない光を放っていた。


 そして、椅子から立ち上がり、ざっと膝をついた中将はルシアを見上げる。

 それはまるで、忠誠を誓う騎士の姿そのものであった。


「我がアイゼンブルク家。

 姫様のお力にならせていただきたい。

 

 どうか今度こそ、アイゼンブルクの力をルミナリア王家のためにお使いください。」


「ありがとう、アイゼンブルク中将。」

「どうか、ロイスと呼んでいただければ。」

「歳上の人にそれはちょっと…」

「しかし!」

「それじゃあ、ロイスさんって呼んでもいい?これからは、同じ方向を目指す仲間として。」


「……あなたも、王と同じことを仰るのですね」


「王というと…ルシア達の祖父か?」


 大佐の声に、ロイスさんは小さく頷いた。


「そうです。私は以前、ルミナリア王に命を救われたのです。そのとき、ルミナリア王に忠誠を誓いました。

 そのとき、王は今まさに、姫様が仰られたことをまったく同じことを仰られたのです。」


「優しすぎる王でした…お守りすることもできず、ただ悔やむばかりの日々で…その結果が、この有様です」


 そう言葉を吐き出すロイスさんの顔は後悔に塗れている。


「ロイスさんは守れてないなんてことないよ。このアイゼンシュタットの民を守ってるじゃん。

 この都市に降り立った時、みんな幸せそうだった。それは、ロイスさん、貴方がこれまで守った結果でしょ?」


 ルシアの言葉に、目を見張ったロイスさんの顔は徐々に歪み、くしゃり、と崩れた。


「王も、きっと同じことを仰られるでしょうな。

 貴方は紛れもなく、ルミナリア王族の方です。


 そんなあなた方だからこそ…私は。……


 大佐。貴方の描く未来に、私も加わらせて頂きましょう。今度こそ、王家のお力になってみせます」


 そう言い切った顔に、後悔の色は無かった。未来を見据える為政者の瞳に、再び光が宿ったのである。


 大佐へ差し出された手は、力を強く握り返された。

 その上に、ルシアとノエルの手が重ねられる。


「みんなで。」

「うん、皆で未来を作ろう」


 "パチン"


 どこかで鉄が弾ける音がした。

 

 それはどこか、ジグソーパズルのピースが嵌まる音にも似ていた。

 

 王国の未来へ繋がるピースが嵌った瞬間だった。

 

 

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