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妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む  作者: 月焔 レイ
第二章(2)国内視察─アイゼンシュタット
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第三十七話 妖精に愛された者が開く扉

 

 宿に戻り、待機していたリア先輩たちに情報を共有する。

 早速明日、証を探しに行くこととなった。


「その王族の間って私たちも一緒に行ってもいいの?」


 リア先輩の疑問に「確かに……」という沈黙が落ちる。その沈黙を破ったのは、フェルだった。


「ダメじゃないぞ。」


 その返答に、ルシアは目を瞬かせた。

 

「え、フェルってもしかして場所知ってる感じ?」

「昔行ったことはあるが、場所は忘れたのじゃ」


 その返答に、全員の肩が落ちた。

 だが、フェルが行ったことがあるのなら、確実に存在はするのだろう。それだけでも希望が見えた。


「よし!みんなで行こう!」

 

 ここぞという時のルシアは運が強い。


 ミアが死にそうなノエルを助けてくれ、そこを大佐が拾ってくれた。今回もきっと大丈夫。

 ルシアには、アルグレイ隊やミアたち、フェルが一緒にいるのに出来ないことなどあるはずがないという確信があった。


 空からは柔らかな雪が、舞い降りた。


 ⸻⸻

 

 次の日。

 

 気合いを入れて鉱山に来てみたはいいものの。鉱山など全員が初めて足を踏み入れるようなものだ。手掛かりなしでは厳しく、ルシアたちは早速壁に直面していた。


「んー。どこだろう?フェル分かる?」

「分からんのじゃ。鉱山なんてどこも一緒じゃ」

「そうだよねー。」


 最もなフェルの言葉にルシアも頷く。そこへ助け舟を出したのはミアだった。


「ねぇねぇ、ドワーフたちに聞いてみる?」

「あ、その手があったね」


 ミアとシルフィがドワーフたちを集め、情報を聞いている。

 ふんふんと頷いた二人は、びしっと指をさした。真下を。


「鉱山の奥深くにあるらしいわ!」

「ドワーフや僕たちなら空間移動で行けるんだけど。ノエルたちは無理だよね…」

「うーん…どうするか。」


 困ったときはとりあえず、大佐とヴァイスさんを見つめてみる。見つめられた二人は、困った顔をしていた。


「取り敢えず、先へ進もう」


 解決策は出ないまま、大佐の声で奥へ進むこととなった。


 ⸻⸻


 奥に進むにつれ、設置されたランプは少なくなり、暗さを増していく。暗くなる炭鉱路に、頼りになるのは自らが持つランプと、ほのかに光る妖精たちの光だけであった。


 "ピチャン"と、どこからか水が落ちる音と、アルグレイ隊が歩く足音だけが響く。どこか異質で、不思議な空気に包まれていた。


 "パリン"


 突然、何かが割れる音が響いた。


 音に反応し、各自武器を構える。しかし、襲ってきたのは思いもよらない事態だった。


 ふっと、床が消え失せた。

 確かにあった筈の地面は、跡形もない。


 突如襲う浮遊感に、誰もが声を発することが出来ず、ただ、アルグレイ隊は暗闇へ落ちていく。

 かろうじて、近くに居る者の手を握り、離れるのを防ぐので精一杯であった。


 ⸻⸻


 落ち続けた先に、光が見える。

 落下地点を確認し、ルシアの顔から血の気が引いた。


 ルシアとノエルが叫ぶのはほぼ同時だった。


「ウォーター!リア!お願いっ!」

「シルフィー!グロウプランツ!」


 ルシアとノエルの声に応え、二人の体にしがみついていたリアとシルフィが魔法を発動する。


 地面は水塊とどこからか現れた植物に覆われ、落下したアルグレイ隊の身体を優しく受け止めた。


「た、たすかった…こえ…出なかった…」

「ありがとう、ルシア、ノエル。助かったよ、ミア、シルフィ」

「どういたしまして!私たちも流石に焦ったわ」

「落とされるとは思わなかったね…」


 確かに、ドワーフたちは真下だとは言っていた。だが、辿り着く方法が落下だとは聞いていなかった。


 どうやら、中将の言っていた"妖精に愛された者だけが開くことのできる扉"とは、地面のことであったらしい。出来ることならば、先に教えて欲しかった。お門違いだと分かっていても、恨みがましい気持ちになるのは仕方がないだろう。


 無事に辿り着いた一行が一息つこうとしたそのとき、張り詰めた空気へと突如として一変した。


「全員、散会しろッ!」


 大佐の声に反応したアルグレイ隊の面々は、素早く四方に散らばる。その直後、鋭い風切り音と共に、大きな剣が振り下ろされた。


「ほお…こんなところに過去の遺物があったとはの。」


 そう呑気に感想を述べているフェルは久しぶりに大きくなり、ルシアとノエルを背中に乗せている。

 大佐の声に反応しきれなかった二人は、フェルに背中に担ぎ上げられたのだ。


「ありがと、フェル」

「二人を守るのは我の趣味だ。礼などいらん。」


 大きくなったからか、聞き慣れた声よりも低い声を響かせ返事を返すフェルは、威厳に満ちている。

 やはり、フェルは伝説の精霊、フェンネルなのだ。


「あれって、過去の遺物なの?」

「左様。妖精魔法を応用し、マナを吸収することで動いておる。ゴーレムみたいなものだ。コアを破壊しなくては倒せないな。」


 その会話を聞いていたアルグレイ隊の雰囲気は、また一段と鋭くなる。

 ヴァイスさんの鋭い声が飛んだ。


「ウィル、ミアのサポート。ミアは鉱山内での発砲は危険なため発砲は禁止。攻撃方法は任せるが、遠距離からの攻撃をメインで任せる。」

「イエス、サー!」

「カイルは近距離での戦闘を任せる。」

「イエス、サー」

「大佐は結界でサポートをお願いします」

「分かった。」

「ノエルとルシアは自由に動いて。僕たちでサポートする。自由に魔法を使って!」

「イエス、サー!」


 各人に的確な指示を下し、役割が明確になっていく。

急な戦闘とは思えない落ち着きようだ。やはり、経験の差が違う。彼らは、戦場慣れしている。


 埋められない差にルシアは唇を噛み締めるが、今はそんなことをしている場合ではない。


 敵を見定めたように、剣を構えるグレインさんにゴーレムが……跳んだ。


 その動きは巨体に似合わず、素早く、軽やかで攻撃は、重い。


 "キンッ"という鈍い音を立て、グレインさんは自らの剣を受け止める。だが、ゴーレムにジリジリと押し込まれ、"ガキン"という嫌な音を立て、グレインさんの剣が折れた。


 愛剣が両断されるのを目を見開き見つめ、動けなくなったグレインさんにゴーレムの剣が迫る。


「リア、左」

「おっけい!」


 リア先輩とウィル先輩が投げたナイフがゴーレムの両足の関節部分にそれぞれはまり、ゴーレムが体勢を崩す。

 その隙に、大佐がグレインさんの前に結界を張り、ゴーレムの剣を弾いた。


「シルフィ、グロウプランツ、拘束して!」

「了解!」


 ノエルが両手を突き出し、光が満ちると、生まれた蔓性の植物がゴーレムに巻きつき拘束した。


「姉さん!」

「ん!ウォーターカッター、ミア!」

「任せて!」


 水の斬撃がゴーレムに飛ぶ。その斬撃はゴーレムの首を両断した。


 "ゴロン"とゴーレムの首が地面に転がる。


「やった!?」

「あほう、コアを破壊せよといっただろ。」


 肩の力を抜いたルシアを叱咤するように、フェルの声が空気を揺らす。その言葉が示すように、ゴーレムは再び周囲の石を集め、再生し始めた。


「ゴーレムのコアってどこにあるんだよ!?」

 思わずルシアの言葉も荒くなる。


「コアといえば、中央であろう。しょうがないの。」

 

 そう言ったフェルが鋭く咆哮すると、再生中のゴーレムの胸にヒビが入る。ほのかに明るい洞窟内の光を受け、キラリと輝く赤い物体が見えた。


「あれか!」


 一同の心が一つになる。誰がどう動くか、手に取るように分かった。


 シルフィとノエルがゴーレムを床に押さえつけ、リア先輩とグレインさんが大佐の結界魔法を蹴り、宙を跳ぶ。

 ウィル先輩のナイフがゴーレムの両手を地面に縫い付けた。


 短剣を使い、リア先輩がゴーレムの身体を覆う岩を払い、コアを露出させる。大佐の剣を空中で受け取ったグレインさんが、貫いた。


 "パリン"という音が響き、ゴーレムが静止した。 

 しばらく様子を伺うが、再生する様子はなかった。


「倒したみたいだな。」


「久しぶりの強敵だった。」と首を鳴らす大佐に、「不意打ちはやめてほしいですね。」とヴァイスさんが漏らす。

 

「グレイン、大丈夫?」

「ああ。だが、もうダメだな。」


 リア先輩の心配そうな声に、そちらを向くと、愛剣を拾い上げ、ゆっくりと刃を撫でているグレインさんが目に入る。共に戦ってきた愛剣には、思い入れもあるだろう。それだけに、なんと声をかけていいか分からない。


 暫く目を瞑っていたグレインさんだったが、切り替えたように剣を鞘に戻し、腰へ戻した。


"カチャン"という音が、寂しげに静寂に響いた。


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