第三十三話 色づく王都
響き渡る汽笛の音。立ち上る蒸気。
マレディア王国王都、グランディア。
その駅のホームにアルグレイ隊の姿はあった。
「着いた!」
ホームに降り立ったリア先輩が伸びをし、嬉しそうな声を上げた。
リア先輩に続いてホームに降り立ったルシアも、伸びをして凝り固まった身体を伸ばしながら、乗ってきた汽車を見上げた。
王国に張り巡らされた汽車は、かつて、研究肌であったルミナリア王族の一人が、マナを吸収する形で永続的に作動するよう開発した遺物らしい。
現在は修理して使うのがやっとなのだと、ヴァイスさんから車内で教えてもらった。
遺物と聞くだけで、ルシアの胸は少し高鳴る。
孤児であったときには勉強できなかった反動で、士官学校に入ってからはあらゆることを吸収し続けてきた。
将来時間ができたときは、色んなことを研究するのもいいな、と今も現役である遺物を前に、ルシアは未来に思いを馳せた。
「ルシアー?行くよー!」
「はーい!」
なかなか来ないルシアを振り返り、待っていてくれるアルグレイ隊のもとへ小走りで向かった。
季節は、秋。ルシアは、15歳となっていた。
⸻⸻
アルグレイ隊は、旧ルミナリア王国時代の臣下がどこに散らばっているかの情報を求めて王都にやって来た。
今は手に入れた地図と資料を見比べながら、行き先の検討を行っている最中だ。
「やっぱり、初めに向かうなら東かな?行ったことないし。」
「東なら、アイゼンヴァルトとの国境付近かな。アイゼンヴァルトの国境には、鉱山が多いから。鉱山の方に行ってみるのも面白いと思う。」
「ほう。東か。あちらにはドワーフの中でも酒が好きな職人気質の奴が集まっていたはずだ。あいつらの酒はうまいのじゃ。」
「意外とフェルっておっさんくさいよね。」
「なんじゃと?酒と甘味は世の中の最大の楽しみじゃろ?」
尻尾で床を叩きながら主張するフェルは、意外と欲に塗れている発言が多い。主に、食欲と睡眠欲だが。
「南の海沿いも捨てがたいよねー、やっぱり海鮮!」
「お前ら…遊びに回るんじゃないんだぞ。」
嬉しそうなリア先輩を、ヴァイスさんが軽く諌めた。
「でもさ、思ったよりも情報って集めるの難しいね。表に出さない情報は本とかには載ってないし…」
ルシアの声に、静かな沈黙が流れた。
旧王国関連の情報の少なさに、一同は頭を悩ませていた。
「それってさ、ドワーフたち使ったらダメなの?」
「ん?ドワーフ?」
「そう、ドワーフ。ドワーフたち!集合!」
ミアが号令をかけると、沢山のドワーフたちがあちこちから集合してきた。
久しぶりに集まったドワーフたちを見て、ルークとノエルは目を丸くした。
他のメンバーはドワーフが見えていないため、何が起きたか分かっていない。
「そういえば、最近見ることが少なかった気がするな…」
「言われてみれば…?」
「そりゃそうよ!この子たちにとっては、私たちは上司みたいなものだもの!」
「へー。」
そうなんだ、と頷くルシアたちは、完全に他の人たちを置いてけぼりにしていた。
一方のドワーフたちは、大佐の頭によじ登って遊んでいたりして、自由奔放だ。その光景を目にしたルシアは笑いを堪えるのに苦労した。
「そろそろ説明を求めても良いか?」
痺れを切らした大佐がルシアに尋ねる。
「あ、ごめんごめん。そこらへんに沢山、5センチくらいの小人が居るんだよ。ドワーフっていうんだって。たぶん、俺たちにしか見えないんだけど。んで?このドワーフがなんだって?」
ルシアが答えると、ミアが大佐に補足をしてくれた。
「その子たち、人のお話を聞くのが好きだから、情報を集めてくるのが得意なの。人には聞こえないけど、私たちはわかるから、集めたい情報があれば集めて来させるわよ。」
ミアの言葉に大佐たちは絶句した。
「なんだ、その能力は…反則じゃないか。」
「ただし、今は妖精の力自体が弱まってるから、そんなに遠くまでは集めれないけどね。近くまでは移動しなきゃダメ。」
「十分すぎるだろう。では、リアとシルフィに依頼しても良いか?ルシア、ルーク?」
大佐は必ずリアやシルフィに頼み事をするときにはルシアたちの意志を仰いでくれる。
そういうところなんだよな…と苦い想いを噛み締める。初恋を抑え込むのは、なかなか大変なのだ。この半年だけでも相当苦労した。
「もちろん良いよ。皆で集めた方が効率いいし。ミア、シルフィ、頼んでもいい?」
「もちろん!役に立てるわね!」
「やったね!」
パチン、とハイタッチしている二人はとても可愛いが、やろうとしていることは全く可愛くない。各国の諜報部員も真っ青だ。
「それでは、東から行ってみるか。」
大佐の言葉にいち早く反応したのはミア先輩だった。
「はーい!まずは王都観光から!」
「だから一応任務な、これ。」
「せっかく国内回れるなら楽しんだもん勝ちよ!」
「それもそうだな。」
リア先輩の強い主張により、次の日は王都観光に決定した。
⸻⸻
次の日。
「可愛いー!」
「いいじゃん!姉さん!!」
「本当にこれで回るの…?」
男性陣を置いてけぼりにし、リア先輩とノエルに引き摺られるようにルシアが連れてこられたのは、お洒落な洋服店だった。
街の女の子が着るような、涼しげな可愛いワンピース。裾にはフリルが入っている。ワンピースを手に持たされ、強制的に試着室に押し込まれたルシアは、幼い頃ぶりにスカートを履いた。
なんだか、落ち着かない。恐る恐る顔を出すと、上を飛んでいたミアにカーテンを全開にされた。
「可愛い!やっぱり素材がいいからなんでも似合うわ!」
「せっかく髪も伸びてきたんだし、髪もセットしちゃおう!」
そう張り切る二人と、なぜかお店のお姉さんも加わって、あれよあれよという間に髪の毛のセットまでされてしまった。
10分後。鏡の前には、ボブの髪をふわふわにセットされた自分の姿があった。
「ほんっとうに可愛いです!」
お店のお姉さんに両手をぶんぶんと握られ、「楽しんでくださいねっ!」と送り出された。
「……今からどうするの?」
「取り敢えず、一度宿に戻るわよ!」
「戻るよ!」
「戻ろう!」
もはやルシアはリア先輩とノエルにされるがままとなっていた。
ルシアは引き摺られるようして、宿に連れて帰られる。
「たのもー!」
「たのまれるのじゃ!」
宿に到着し、バーンと男性陣の部屋のドアを開け放ったミア先輩の声にフェルが返事を返す。
開け放った勢いのままミア先輩は、ルシアは背中を勢いよく押し、部屋の中に押し込んだ。
「うわ!」
倒れ込むように部屋に入ったルシアが転げそうになったところを「おっと。」としっかりとした腕が受け止めた。
「ほう。可愛くなったじゃないか。」
顔を上げると、そこにはアメジストの瞳の持ち主、大佐の顔が至近距離にあった。
「な、な、な!」
大佐とのあまりの近さに固まっていると、
「まるで別人ですね」
「すごく可愛いじゃん、ルシア」
「可愛いのじゃ!ルシア!流石じゃ!」
とみんなが口々に褒めてくれる。その声に、ルシアはますます顔があげられなくなった。
「うぅ…」
思わず目の前のものに顔を埋めると、ふわりとハーブの匂いが強くなった。
その匂いにルシアは我に返った。
今、ルシアがいる場所は、大佐の腕の中…ではなかったではあろうか……
向き合えない事実にルシアの身体が硬直した。
こんな距離、耐えられるはずがない。
その様子を見ていたアルグレイ隊は、突然今日の予定を口にし始めた。
「それじゃ!みんなで美味しいものでも食べに行こう!」
「そうですね!甘いものでも!」
「甘味じゃ甘味じゃ」
「俺らは武器でも見てくるか。」
「旅用の靴とかも買いたいですね」
「じゃあ、大佐!姉をお願いします!」
ヒラヒラと手を振ったノエルは、無情にもドアを閉めてしまった。
"バタン"という音が部屋に響き、二人きりになってしまった。
部屋に沈黙が落ちた。
ルシアの心臓が口から飛び出そうだった。
暫く黙っていると、大佐の声が部屋に響いた。
低くて柔らかい、優しい声だ。
「可愛いな。本当に。お洒落させてもらったな。」
あやすように大佐から頭を撫でられ、子供扱いされているようでルシアはムッとするが、何も言い返せない。
「離せよ」
「離せじゃなくて、離して。だろ?」
お仕置きだ、とでも言うように、腕にギュッと力を込められ、必死に保っていたなけなしの空間がなくなる。
「は!な!し!て!く!だ!さ!い!」
「良かろう。」
ふっと笑うように息を吐き、両手を挙げて離れていく大佐の姿に、どこまでも自分が子供で嫌になる。そして、そんな大人な大佐に溺れていく。
当初の鎖なんて、あっという間に壊されてしまった。この恋心とどう付き合っていくか。にルシアは目標を変えていた。
「それで?どうする?何がしたい?」
「何がしたい…うーん。ってか、二人なの?本当に?」
「そうみたいだな。ノエルに頼まれたから」
「調子いいなー。全く。」
しょうがない、と言う態度を崩さないようにしながらも、ルシアは嬉しくてしょうがない。乙女心は複雑なのだ。
「あ、そうだ。この間、可愛い文具を見つけたんだ。買いに行っていい?」
「文具か?珍しいな。私もペンが壊れたところだったんだ。買いに行こう」
ルシアの提案に大佐が同意する。
二人で出かけるなんて、まるでデートのようだ。
ルシアの心を映すかのように、街に植えられた木々は、王都の街に静かな色づきを添えていた。
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