第三十二話 旅立ち
その日、フェルンベルクの空は雲一つない快晴だった。
波乱の職場旅行を終え、帰宅したアルグレイ隊は、視察に出るための引継ぎに追われた。
何せ、フェルンベルクの住民管理、警備、経理を一手にアルグレイ隊は行っていたのだ。
大佐を含めても五人という少数精鋭で。
それでいて、ほぼ定時に帰っていたアルグレイ隊の優秀さに、士官学校卒業後、引継ぎ作業に加わったルシアとノエルは舌を巻いた。
ちなみに、大佐の後を引き継ぐ中佐は、王都から10人の部下を引き連れてやって来た。その者たちの部下も含めると、30人を超えるらしい。
それだけの人数を、どこに住まわせるのかは謎だ。
後で知ったが、同じ隊で一緒に官舎に住んでいたのはアルグレイ隊のみらしい。大佐とヴァイス先輩がルームシェアしていたところに、元ゴロつきだったグレインさんが転がり込み、双子も一緒に住むと言い始めたことで今の広い家族用の官舎に移ったらしい。独身寮もあるのに何故?と思っていた疑問がやっと解決した。
ルークがルシアに戻る問題は、意外とあっけなく片がついた。元孤児であったルシアが、トラブルを避けるために男として生活しており、そのまま軍に入ったため、他の誰も知らなかった。それが正式配属される際、改めて書類を記載したところ発覚。報告したということにしたらしい。
ルシアが特級魔法使いだったことも大きいという。
特級魔法使い、便利すぎないか?と思ったが、国内でも特級魔法使いは、姉弟も含めて6人しか居ないらしい。様々な優遇があることに、やっと納得した。
そんなこんなで、職場旅行から半年後。
アルグレイ隊は、無事、旅立ちの日を迎えたのだ。
⸻⸻
「フェル、ばいばーーーい!」
「リアちゃんいつでも帰ってきてねー!」
「レオン様、お元気でー!」
ルシア達が散歩という名の巡回に連れて行った結果、あっという間に街のアイドルとなったフェルは、アルグレイ隊の中でも最も惜しまれ、沢山の人が門まで見送りに来ていた。
アルグレイ隊としてはこっそり旅立つつもりだったが、瞬く間に街の人に広まった。犯人は、司令部のお掃除のおばちゃん達経由である。
お陰で、フェルンベルク中の人が集まったのでは?というくらいの人だかりだ。
「行ってきまーす!」
ぶんぶんとリア先輩が手を振り、大佐達が手を挙げると、わっと歓声をあげる。泣いているお姉様方もいた。
本当にアルグレイ隊の皆は好かれていたんだなぁと、ルシア達はしみじみした。自分たちもしっかり惜しまれる中には入っていることには気づいていないところが、ルシアとノエルの鈍感なところである。
「ねぇねぇ、ノエル、皆にお別れしていい?」
「いいわね!それ!私もするわ!」
妖精たちが二人の耳元でこしょこしょと囁き、大きく頷いた二人は、両手を上に掲げる。
「お願い!リア!」
「頼んだよ、シルフィ!」
小声で呟いた二人が手を掲げると、花吹雪があたり一面に舞い踊り、細やかな霧が空気中に散らばる。散らばった霧は太陽の光を浴び、綺麗な大きな虹をフェルンベルクの街に架けた。
それを見た街の人たちは、一際大きな歓声を上げる。
「ありがとうー!行ってきまーす!」
「行ってらっしゃーい!」
その日、フェルンベルクの街は夜まで明かりが消えなかった。街のために働いてくれた若い軍人たちの旅の安全を願い、飲み明かしたという。
⸻⸻
「ずっと気になってたんだけどさー。」
森で魔獣を倒した際に出来たグレインさんの擦り傷を、水魔法で治療をしていたルシアは、ミア先輩に声をかけられ、顔を上げた。
不思議そうな顔で覗き込んでいるミア先輩は、治療中のグレインさんの傷の周りで、クルクル回っているミアを見つめている。
「なに?ミア先輩、どうしたの?」
ルシアは、ここ半年のアルグレイ隊の指導により、徐々に男言葉から丁寧な言葉遣いに変化してきていた。長年蓄積した習慣はまだまだ抜けないが、その度に厳しい指摘(主にノエルによる)が入るのだ。嫌でも矯正される。
「その魔法使う時の言葉さ、必殺技!みたいな感じに出来ないの?いっつも、『お願い、ミア』とかじゃん?もっとカッコいい感じだといいのに。なんか、勿体無い」
思いもよらない提案を受け、ルシアは目をパチクリさせ、ノエルと視線を合わせる。そんなことは、考えたこともなかった。
「別に想像を汲み取るだけなんだから、別に言葉はなんでもいいわよ、私たちは」
「魔術名のような形で名前をつけたらイメージもしやすいし、ミアやシルフィという名も、ただの発動記号だと捉えられていいかもしれない。」
大佐の提案に、思わず頷く。確かに。
アルグレイ隊以外の人たちにはミア達の存在は見えないし、教えるつもりはない。対外的にはあくまで、ルシアとノエルは魔術を使っているように見せているのだ。
「何がいいかな。やっぱ、ウォーターミア、とか?」
「なんでも良いんじゃない?言いやすければ」
「語尾につける言葉は、威力を強化する為などと理由付けすればいい。どうせ誰も分からない。」
「何も知らない奴らが、適当につけ始めたらそれはそれで面白いな」
後世の魔法使いたちが聞いたら頭を抱えそうな単純な理由で、語尾に妖精の名前をつけることで魔法を誤魔化すこととなった。
こうして、魔法使いたちの間で、自分が考えた言葉をつけることが流行り始めるのだが、真実はアルグレイ隊のみが知るのであった。
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