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第三十一話 姉へ還る日



 ひとしきり大人組が姉弟を撫で回したところで、一旦今後の話に戻る。


「今後の方針だが…」


 そう切り出した中佐の声は普段よりも低く、重い。これからの方針に、王国の未来が掛かっていると言っても過言ではないのだ。


「今後、私はこの国を変えていくために本格的に動いていく。そのためには軍のトップ、つまり現王政を崩御させる必要があるだろう。

 そして、そのための正当性が必要となる。

 

 ルーク、ノエル、君たちはこれからどうする?」


 大佐の問いかけに、ルークとノエルは困惑する。


「どうするって…一緒にやるけど?」


「そうではなく…


 ルミナリア王族の末裔であることが分かったんだ。君たちの意志次第では、ルミナリア王国の復興も不可能ではない。」


「うーん……

 あんまり実感ないっていうのが正直なところではあるけど……

 

 今の王族が崩御した後に、上に立つ奴は必要だし、正当性は必要だと思う。国が荒れると、この土地に住む国民が困る。

 そのために俺たちの立場が役に立つなら、俺はルミナリアの王族として先頭に立つ。……と俺は思ってるけど……ノエルはどう思う?」


「僕も兄さんと同じ。

 僕たちに出来ることがあるのであれば、その責任は果たしたいと思います。そしてそれは、僕たちしか出来ないことです。」


「そうか。

 君たちにばかり重責を掛けるようだが、そう決意してくれるなら嬉しく思う。

 だが、無理はしないように。私たちも全力で支えるし、決して二人だけではない。

 背負うことはなにもないんだ。」

 

 アルグレイ隊のみんなも深く頷いてくれている。

 ミアとシルフィも「お任せあれ!」と胸を張っている。フェルは「わしも力にはなるぞ」と、てしてしと膝を叩いてくれる。


──その気持ちが、とても嬉しかった。

 

「分かった。」

「ありがとうございます。」


「よし。それでは、丁度軍からの指令もある。各地を巡り、魔術を活用した国家戦略の立案を行うという程で地盤を整えていこう。

 これから忙しくなるぞ。よろしく頼む」

「イエス、サー!」

 

「そして、ルーク。君にはもう一つ、決めなくてはいけないことがあるが。」

「ん?なに?俺だけ?なんかあるっけ?」


 全くもって心当たりがない。なんかあったっけ?という顔で皆を見ると、呆れたような表情が返って来た。


「ルーク。先程、全員に女性だということがバレた訳だが。今後はどうする…?」

「あ、そういえばそうだって。どうする……どうする?」

「僕に聞かないでよ、兄さん…」


 そうは言われても、男で過ごすのが当たり前になりすぎて、どうするかと言われても困る。というのが正直なところだ。


「難しく考えなくてもいいんじゃない?タイミングってあるし」

「そうそう。ルークが良い方でいいんだよ」

「まぁ、あれだね!ルークが好きな人出来たときにアプローチしにくいとか、そのくらいじゃない?」

「え、ルーク好きな人いるの?」

「いないよ、今はそれどころじゃない。」


 カーティア姉弟の鋭い指摘に、無駄に冷や汗が出るのでやめてほしい。絶賛心の底に沈め中の案件です。


「どうせ、兄さんは自分じゃ決めれないんだから、僕が決めてあげるよ。兄さんは姉さんに戻る!はい、決定ー!」

「なんでだよ!勝手に決めんなよ!」

「理由その1 お店に置いてある可愛い雑貨、欲しそうに見てるのに見て見ぬ振り。本当は戻りたい気持ちもあるんじゃない?」

「なっ!そんなことっ!」

「理由その2 正式に軍属になってから女だと分かってしまった場合、相当まずいことになるのでは?と思うのですが僕だけですか?」

「…それは…」

「まぁ確かに。」

「理由その3 最近成長して、女の子っぽくなってきました。いつまで隠せると思っているんでしょうか? 」

「私もそれは思っていたな。」

「大佐までっ!!」


 見事なまでにノエルに逃げ道を潰され、今までの支援者であった大佐にまで同意されてしまえば、ルークに逃げ場は残されていない。


 とどめの一言は、ノエルの本音だった。


「姉さん。今まで逆によく頑張ったよ。

 もう隠す理由も無いでしょ?


……僕は、また"姉さん"って呼びたいよ。」


 その一言に、ルークの心は決まった。ずっと握っていた何かを、手放す勇気を持てた。


「うぅ…分かった…よ…格好は男のままでもいいだろ?」

「ま、そこはおいおい…ね?話し方は改めなよ?」

「ボーイッシュっぽい感じならいいんじゃない?」

「……っていうか、皆軽蔑しねーの?女なのに男だと偽ってたのに怒ったりとか…」


「なんで?ルークはルークじゃん。

 変わらないよ。」


 何を当然のことを、という表情を浮かべ、他の皆も頷いている。


「そっか……そっかぁ。」


 自分が悩んでいたことを全てどうでもいい小さなことであったように思え、悩みはぶっ飛んだ。


「ん、分かった。ありがとう。

 これからは、"ルシア"としてよろしく!」

「当然!こちらこそよろしく!ルシア」


 ミア先輩に「女の子だー!言われてみれば身体柔らかー」と抱きつかれ、頬擦りされる。それを、皆は温かい目で見守ってくれた。



 その光景を、ノエルは一歩引いたところから見つめていた。


 今日、ノエルの夢が叶った。

 "兄"を、"姉"に戻すことができたのだ。

 

「長かったなぁ…」


 ため息のように漏らした声が、後ろにいた大佐には届いたらしい。


「よく、頑張った。」


 ぽんぽんと優しく撫でる大きな手に、目を細める。


「姉さんのことは、まだ認めてませんよ?」

「それは残念だ。気長に攻めるとするよ」


 悪戯の気持ちで大佐の顔を覗き込んで投げかけると、以前とは違う答えが返って来て、目をパチクリさせる。


「あーあ!もうやってらんないっ!」


 馬鹿らしくなる。馬に蹴られてしまえ!そんな気持ちで、みんなに囲まれて笑顔の姉さんのところに行き、抱きつきながら、大佐にあっかんべーをお見舞いしてやった。大佐は苦笑いをしている。どこまでも大人だ。ムカつく。


「まだ!絶対!あげないんで」

「はいはい。分かった分かった。」


「なんの話?」と首を傾げる姉さんは可愛くて、頭をぐしゃぐしゃにしてやった。


──これから先の姉さんを見守ることが、楽しみだ。

ここまで読んでくださりありがとうございます!


感謝の気持ちでもう1話おまけで投稿です。

もしよろしければ、ブクマ等頂けましたら幸いです。

今後ともお願いします。

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