第三十話 妖精たちと歩む道
「はい!話についていけません!」
誰も何も発せない、どこか緊張感を帯びた空気の中。期待を裏切らずに、ビシッ!と手を挙げ、空気をぶった斬ったのは、リア先輩だ。
いつも頼りになる大佐は膝を着いたまま固まっているし、フェルは尻尾をフリフリさせながら抱きついているし、ルークとノエルは言葉を発せずにいる。
誰も収拾をつけられない状況だった。
そこへ、リア先輩が口を開いた。
状況を打破してくれたリア先輩に、心の中で手を合わせて拝んだ。
「たいさーー、たすけて。」
「どうにかして!」という念を込めて大佐を見つめると、やっと再起動したらしい大佐が立ち上がった。ぽんぽんと軽く膝を払い、一つ呼吸を置いた。
「フェル様、どこか話をできるところはありますでしょうか?」
「この格好だし、フェルでいいよ?普通に話して?」
「で、ですが!」
「はなして?ね?」
フェルの目がスッと細められ、心なしか気温が下がる。
「フェル、こわい。」
「むー。」
不貞腐れているフェルの頭を優しく撫でると、途端に尻尾がゆるく揺れる。なかなか単純だ。段々と扱いが分かってきた。
「ね、フェル。話せるとこある?」
「んー。王子夫妻の部屋なら比較的綺麗かも?っていうか、どこでもルークの魔法で綺麗にしちゃえばいいじゃん」
「確かに。できる?ミア」
「あったりまえー!」
いつのまにか頭の上に乗っていたミアに聞くと、元気いっぱいな返事が返って来た。
「よし!じゃ、行こう!」
尻尾をフリフリさせながら歩くフェルの先導のもと、王子夫妻の部屋へ移動する。王子夫妻ということは、父さんと母さんの部屋だ。
「ここじゃ!」
フェルが示した部屋は、上品な色合いで纏められているシンプルな部屋だった。だが、決して冷たい印象ではなく、どこか温かい。村で生まれたルークは、この部屋を知る訳はないのに、なぜか懐かしい気持ちになる部屋だった。
「よし、やれ、ミア」
指示するフェルに、少し困った顔をしながらミアがルークを見る。ルークが使わなければミアは自分で魔法は使えないのだ。
「はいはい、いくよ、ミア」
すっと手を伸ばし、ミアに願う。
「お願い、ミア」
「よしきた!おまかせ!」
部屋中を飛び回ったミアが羽をキラキラさせると、部屋の中はみるみるうちに綺麗になり、先ほどまで誰かが生活していたような空間となった。今にも父さんか母さんが扉を開けて出てきそうだ。
感傷に浸っていると、「これは見事だな」とみんなが感心しながら部屋の中に入っていき、慌てて追いかけた。何もしていないはずのフェルが、一番得意げな顔をしている。
「ほれ、座れ」
我が物顔でソファーを足で指す。ルークがソファーに座ると、当然のように膝の上で丸くなる。
本当に犬みたいだ。ついつい手で撫でてしまうと、気持ちよさそうに目を細めている。
全員がソファーに座ると、大佐が話を進めてくれた。
「聞いてもいいか、ルーク。そのミアとか、シルフィとかは、君たちの妖精ってことでいいのかい?」
「はい。あ、そうか。見えてないのか」
今も元気に上を飛び回り、名前が出てからはテーブルの上で腰に手を当てて自分をアピールしているミアだが、ルークとノエル、フェル以外には見えていない。残念な子である。
「んー。俺たち、誰もいないところに話してるように見えるの?」
「残念ながら。先程も、君が魔術を使ったようにしか見てなかった」
うんうんと同意するように、皆も頷いている。しょうがないことなんだけど、とても寂しい。こんなに可愛くていい子な二人を、他の人は見ることが出来ないのだ。
「ね、フェル。なんとかならない?妖精のこと見えるようになる魔法とかないの?」
「そんなものない…と言いたいが、方法がないとは言わんぞ」
「え!?あるの!?」
「全員が見えるようにはならんがな。ここにいる人数くらいなら、出来るじゃろう。要は、魔法はイメージじゃからの」
そう言って、フェルがやり方を教えてくれる。
ルークとノエルはそれぞれ、ミアとシルフィに魔法を頼む。
「ミア、お願い」
「シルフィ、お願い!」
「「はーい!」」
声を揃えた二人は、キラキラと舞いながらみんなの上を飛び回り、光を振りかけた。
光が消える際、ミアとシルフィの身体が強く光り、光が収まる。
「わ!かわいい!」
「これは…凄いな。」
全部の妖精が見えるようになる訳ではなく、ミアとシルフィが許可を与えた相手にのみ、マナを使うことで見えるようにするという裏技的な魔法をフェルが教えてくれた。
昔、父さんや母さんたちも信頼できる人には使っていたらしい。
だが注意点もあり、「妖精たちが見えるようになると妖精たちに害を加えることも出来るようになる。信頼できる人間以外には絶対使ったらダメなのじゃ。」と教えてくれた。
そのときのフェルの顔は今にも泣きだしそうで。もしかしたら、魔法が使える筈の王家が崩御してしまったのは、それが原因だったのかもしれない。
でも、震えた声を出すフェルに、ルークは何も聞けなかった。きっとそれは、他の人達も同じだろう。
ルークもノエルも、アルグレイ隊以外の人には使わないことにした。ミアとシルフィを危険に晒すわけにはいかない。
「めちゃくちゃ…可愛い…」
ミアとシルフィが見えるようになったリア先輩は、手で口を抑えて悶えながら、ウィル先輩をバシバシ叩いている。
ウィル先輩は相当痛そうだが、ウィル先輩はウィル先輩で二人の可愛さにやられているらしく、ノーリアクションだ。固まっている。
「この子達が…妖精なのか…」
大佐は、少し噛み締めるような反応をしていた。 長年探し続けていた王族が最も身近にいて、かつ妖精の姿を見ることができるようになったのだ。
その表情は、大佐のこれまでを物語っていた。
「ふふん、このミア様の可愛さに溺れなさい!」
「すみません、普通の妖精はこんな傲慢じゃないんです」
「だれが傲慢よ!」
「なんだか、ルークとノエルの小さい版みたいだな…妖精って契約者に似るのか?」
観察していたヴァイスさんが失礼極まりないことを言っている。それに全員が頷いて同意しており、ルークは肩を落とした。
「そろそろ、話を進めろ」
妖精たちばかりが注目されて面白くなくなったのか、尻尾をパシパシ打ちつけているフェルを撫でて機嫌を取る。
「んで?なんだったっけ?」
「んー。どこまで話した?」
「妖精のとこで止まったよ」
「あー。なるほど。」
それから、妖精の話、魔法と魔術の違い、焼かれた村の話、性別の話。そして、マレディア王国の王族、そして息子の話──
村の話になると、みんな唇を噛み締めて、自分のことのように悔しそうな顔をしてくれた。それだけで少し心が軽くなった気がした。
──こんなにも寄り添ってくれる仲間がいる。
「頑張ったねぇ、ルークァァ、ノエルゥゥ」
リア先輩が抱きついて来て、頭を抱えられる。繰り返し頭を撫でられていると、いつの間にかその手は増えていて、ルークとノエルは全員から撫でられていた。
「お前ら、頑張りすぎなんだよ」
「少しは大人を頼れ」
「私たちはそんなに頼りないかね?」
はじめは、ルークとノエル、二人で歩いた道。
真っ暗で、何もなくて、光が見えないそんな道。
いつのまにか、
アルグレイ隊のみんなが横にいて、
ミアとシルフィがいて、フェルが増えた。
これから先は、大丈夫。
なんだって、超えていける。もう、怖くない。
もう二人だけではないから。
最強の仲間が、側にいる──
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