第二十九話 王家の血脈、守護の獣
「父さん…母さん…」
呆然と立ち尽くすルークたちのもとに、皆が駆け寄る。心配そうな声が飛び交うが、頭に入らない。
「ルーク、ノエル、大丈夫か?」
問いかける大佐の言葉にも反応できず、黙り込む。
とりあえず話をしようと、奥のソファーへ促される。
大佐が、魔術で埃だらけのソファーを綺麗にしている様子を横目で見ながらも、どこか現実離れした光景に、思考が追いつかない。
ソファーに座り、一息つく。
グレインさんが、リュックから出した水筒を、ルークとノエルに渡してくれた。
「ありがとうございます。」
なんとかお礼を言い、ルークはお茶を飲む。
カラカラの喉が潤うのがわかり、喉が渇いていたことに気づいた。
「少し、落ち着いたか?」
その一言で、皆が待っていてくれたことに気づき、姿勢を正す。話さなければ、今、全てを。
そのとき、一陣の風が吹いた。
全てを吹き飛ばすような、そんな剛風。
風が止むと、部屋の中心には銀色の大きな狼がこちらを睨んでいた。
アルグレイ隊の皆は、隠していた暗器をそれぞれ手に持ち、鋭い目線を送っている。ルークたちの前には半透明の結界が張られていた。
対するルークとノエルは、ソファーに座ったままだ。
どちらも、動かない。
──沈黙が、場を制していた。
先に動いたのは、狼だった。
「誰だ、王の間を穢すのは」
低い声が、響き渡る。ビリビリとした重圧が空気を振るわせ、天井近くに残っていたガラスがパリンッと砕け散った。
──そのとき、大佐が動いた。
結界を解除し、前に出ると、膝を着く。
誰も、何も発さない。命を掛けると言っている先輩たちでさえ反応できない、自然な動作。まるで、それが当たり前のような──
「お久しぶりでございます。レオン・アルグレイです。」
その名を聞いた途端、狼が発する重圧がふっと掻き消えた。
「アルグレイ?ほぉ、お主、アルグレイのとこのチビか。よく生きておったな。親は?」
「傷が元で亡くなりました。ですが、王子夫妻は無事に逃げられました。…今は亡くなってしまわれましたが…」
「そうか……死んだか。人間は、儚いものよ。」
目を細め、切なげな光を宿す狼は不思議な雰囲気がした。
初めて会ったはずなのに、初めて会った気がしない。
「だが、そこにいる二人には、セオとエリシアの匂いがするぞ?」
「気のせいか?」という声と共に、狼が首を振ると、ルークとノエルの身体がふわりと浮き、大佐の横に着地する。お尻を打って、地味に痛い。
「彼らは、王子夫妻の子どもです。
私も先ほど知りましたが。」
──そういえば、大佐は以前、
旧王家に仕えていた騎士の家だと、
大佐の両親は王子夫妻を護衛していたと、
そう言っていたのではなかったか。
「そうか……巡り合わせも面白いものよ。
お前ら、セオドールとエリシアの子か。
そっくりだな。ん?瞳は妖精が変えておるのか。
して、妖精はどこにいる?」
「ここにいます…」
シルフィがノエルの服のポケットからぴょこっと顔を出す。
「ほう。しかと勤めを果たしているようで結構。して、もう一匹は?」
「遅れましたー!ここです!ここにいますっ!」
ドーンとルークの胸に飛び込み、はぁはぁと息を切らしているミアは、見たことがないほど焦っている。顔に「ヤバい」と書いてある。
「なんだ、お前の妖精は偉く落ち着きがないな。躾がなっとらん」
ふんっと狼が鼻息を飛ばすと、「ごめんなさーい!」と言いながら、なぜかミアだけが飛ばされていった。
「まぁいい。ちゃんと守っているようだからな。このくらいにしといてやろう。して、レオン。」
「はっ」
「今からどうするんだ?」
「先ほど判明したばかりですので、まだ本人たちの意志を確認してはおりませんが。
この国の現在の在り方は争いを引き起こします。
私個人としては、その在り方を、兄弟と共に変えたいと思っております。」
「そうか。そうしたいならそうするが良い。
我は人の営みには関与せん。
だが、今は妖精の扱われ方がぞんざいすぎる。自然を壊し、命を粗末にする。気に食わん。
そうだな…ここに居るのも少し飽きた。セオドールとエリシアの子なら、ついて行ってみるか。」
「はっ!…ですが、そのお姿は少し目立ちすぎるかと。」
「そうか…それは不味いな。
姿を消すと、面白くない。これでどうだ?」
狼が宙返りをすると、大きめの小型犬くらいの大きさに変化する。毛並みがサラサラしていて手触りが良さそうだ。
「大丈夫かと。」
「ふんふん。なら良い。喋り方もこっちの方が楽でいいからな。」
低く気品のある声は、姿に合わせたのか高くなり、口調も軽いものとなっている。可愛い。
「おいっ、名前はなんだ?」
トコトコとルークとノエルのところへやって来ると、ふんふんと匂いを嗅いでいる。
「ルークです。」
「ノエルです。」
「嘘つけ、お前女じゃないか。なんで男の格好している?」
大佐以外のメンバーの目が、溢れんばかりに見開かれる。
ルークとノエルは正体を見抜かれたことに驚き、他の皆はルークが女の子だったことに目を見開いた。
「……ルシア
それが、本当の名前です。」
「ほう、ルシアにノエルな。
あやつらはやはり、センスがいい。
我の名はフェル。フェンネルのフェルじゃ。
…エリシアが、付けてくれたんじゃ。
フェルって呼ばせてやってもいいぞ。」
ほれ、呼べ。というように、銀のしっぽが期待するように左右に揺れている。とても可愛い。
「…フェル?」
名前を呼ぶと、ブワッと毛を逆立てて、ルークの胸に飛び込んできた。
「しょうがないからな!一緒に行ってやろうぞ!ルシア!ノエル!」
千切れんばかりに尻尾を振るフェルの毛を優しく撫でる。
見た目通りサラサラした毛並みは、太陽の光を浴びてキラキラ煌めいていて、とても柔らかく、優しかった。
「我が、お主らを守ってやろう!なんでも言え!二人の子ならば、お主らも我の友じゃ!」
と嬉しそうに笑うフェルも、きっと一人で寂しかったのかもしれない。
この城に一人きりは、寂しすぎる。
──こうして、アルグレイ隊に
フェンネルのフェルが加わった。
この出会いが、兄弟の運命を変え、
大佐の誓いを揺るぎないものとした。
この魔法は、王国の未来すら動かしていく。
──それは、まだ誰も知らない。
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