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妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む  作者: 月焔 レイ
第一章(3)【士官学校卒業】
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第二十九話 王家の血脈、守護の獣


「父さん…母さん…」


 呆然と立ち尽くすルークたちのもとに、皆が駆け寄る。心配そうな声が飛び交うが、頭に入らない。


「ルーク、ノエル、大丈夫か?」


 問いかける大佐の言葉にも反応できず、黙り込む。

 とりあえず話をしようと、奥のソファーへ促される。

 

 大佐が、魔術で埃だらけのソファーを綺麗にしている様子を横目で見ながらも、どこか現実離れした光景に、思考が追いつかない。


 ソファーに座り、一息つく。

 グレインさんが、リュックから出した水筒を、ルークとノエルに渡してくれた。


「ありがとうございます。」


 なんとかお礼を言い、ルークはお茶を飲む。

 カラカラの喉が潤うのがわかり、喉が渇いていたことに気づいた。


「少し、落ち着いたか?」


 その一言で、皆が待っていてくれたことに気づき、姿勢を正す。話さなければ、今、全てを。


 そのとき、一陣の風が吹いた。

 全てを吹き飛ばすような、そんな剛風。


 風が止むと、部屋の中心には銀色の大きな狼がこちらを睨んでいた。


 アルグレイ隊の皆は、隠していた暗器をそれぞれ手に持ち、鋭い目線を送っている。ルークたちの前には半透明の結界が張られていた。

 対するルークとノエルは、ソファーに座ったままだ。


 どちらも、動かない。

 

──沈黙が、場を制していた。

  先に動いたのは、狼だった。


「誰だ、王の間を穢すのは」


 低い声が、響き渡る。ビリビリとした重圧が空気を振るわせ、天井近くに残っていたガラスがパリンッと砕け散った。


──そのとき、大佐が動いた。


 結界を解除し、前に出ると、膝を着く。

 誰も、何も発さない。命を掛けると言っている先輩たちでさえ反応できない、自然な動作。まるで、それが当たり前のような──


「お久しぶりでございます。レオン・アルグレイです。」


 その名を聞いた途端、狼が発する重圧がふっと掻き消えた。


「アルグレイ?ほぉ、お主、アルグレイのとこのチビか。よく生きておったな。親は?」

「傷が元で亡くなりました。ですが、王子夫妻は無事に逃げられました。…今は亡くなってしまわれましたが…」


「そうか……死んだか。人間は、儚いものよ。」


 目を細め、切なげな光を宿す狼は不思議な雰囲気がした。

 初めて会ったはずなのに、初めて会った気がしない。


「だが、そこにいる二人には、セオとエリシアの匂いがするぞ?」


 「気のせいか?」という声と共に、狼が首を振ると、ルークとノエルの身体がふわりと浮き、大佐の横に着地する。お尻を打って、地味に痛い。


「彼らは、王子夫妻の子どもです。

 私も先ほど知りましたが。」


──そういえば、大佐は以前、

  旧王家に仕えていた騎士の家だと、

  大佐の両親は王子夫妻を護衛していたと、


  そう言っていたのではなかったか。


「そうか……巡り合わせも面白いものよ。


 お前ら、セオドールとエリシアの子か。

 そっくりだな。ん?瞳は妖精が変えておるのか。

 して、妖精はどこにいる?」


「ここにいます…」

 シルフィがノエルの服のポケットからぴょこっと顔を出す。


「ほう。しかと勤めを果たしているようで結構。して、もう一匹は?」


「遅れましたー!ここです!ここにいますっ!」


 ドーンとルークの胸に飛び込み、はぁはぁと息を切らしているミアは、見たことがないほど焦っている。顔に「ヤバい」と書いてある。


「なんだ、お前の妖精は偉く落ち着きがないな。躾がなっとらん」


 ふんっと狼が鼻息を飛ばすと、「ごめんなさーい!」と言いながら、なぜかミアだけが飛ばされていった。


「まぁいい。ちゃんと守っているようだからな。このくらいにしといてやろう。して、レオン。」


「はっ」


「今からどうするんだ?」

 

「先ほど判明したばかりですので、まだ本人たちの意志を確認してはおりませんが。

 この国の現在の在り方は争いを引き起こします。

 私個人としては、その在り方を、兄弟と共に変えたいと思っております。」


「そうか。そうしたいならそうするが良い。

 我は人の営みには関与せん。

 だが、今は妖精の扱われ方がぞんざいすぎる。自然を壊し、命を粗末にする。気に食わん。

 そうだな…ここに居るのも少し飽きた。セオドールとエリシアの子なら、ついて行ってみるか。」

 

「はっ!…ですが、そのお姿は少し目立ちすぎるかと。」


「そうか…それは不味いな。

 姿を消すと、面白くない。これでどうだ?」


 狼が宙返りをすると、大きめの小型犬くらいの大きさに変化する。毛並みがサラサラしていて手触りが良さそうだ。


「大丈夫かと。」

「ふんふん。なら良い。喋り方もこっちの方が楽でいいからな。」


 低く気品のある声は、姿に合わせたのか高くなり、口調も軽いものとなっている。可愛い。


「おいっ、名前はなんだ?」


 トコトコとルークとノエルのところへやって来ると、ふんふんと匂いを嗅いでいる。


「ルークです。」

「ノエルです。」

「嘘つけ、お前女じゃないか。なんで男の格好している?」


 大佐以外のメンバーの目が、溢れんばかりに見開かれる。

 ルークとノエルは正体を見抜かれたことに驚き、他の皆はルークが女の子だったことに目を見開いた。


「……ルシア


 それが、本当の名前です。」

 

「ほう、ルシアにノエルな。

 あやつらはやはり、センスがいい。

 

 我の名はフェル。フェンネルのフェルじゃ。

 

 …エリシアが、付けてくれたんじゃ。

 フェルって呼ばせてやってもいいぞ。」


 ほれ、呼べ。というように、銀のしっぽが期待するように左右に揺れている。とても可愛い。


「…フェル?」


 名前を呼ぶと、ブワッと毛を逆立てて、ルークの胸に飛び込んできた。


「しょうがないからな!一緒に行ってやろうぞ!ルシア!ノエル!」


 千切れんばかりに尻尾を振るフェルの毛を優しく撫でる。

 見た目通りサラサラした毛並みは、太陽の光を浴びてキラキラ煌めいていて、とても柔らかく、優しかった。


「我が、お主らを守ってやろう!なんでも言え!二人の子ならば、お主らも我の友じゃ!」


 と嬉しそうに笑うフェルも、きっと一人で寂しかったのかもしれない。

 この城に一人きりは、寂しすぎる。


──こうして、アルグレイ隊に

  フェンネルのフェルが加わった。


 この出会いが、兄弟の運命を変え、

 大佐の誓いを揺るぎないものとした。


 この魔法は、王国の未来すら動かしていく。

  ──それは、まだ誰も知らない。


本日より三連休期間中は一日二回投稿します。

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毎日朝6時40分、休みの日は7時40分に投稿しています。

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