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第二十八話 廃都に眠る面影


「ドキドキ!わくわくっ!社員旅行ー!」

「社員じゃないだろう?」

「えー。じゃ、なに?」

「んー。隊員旅行?」

「なんか違わない?隊員って仕事っぽいじゃん?雰囲気的に。」

「確かに。」


 今日もリア先輩、ウィル先輩は楽しそうだ。


 現在、ルークたちはルークとノエルの卒業祝い兼正式入隊祝いとして、アルグレイ隊で旅行に来ていた。

 ルークとノエルにとっては、初めての旅行だ。


 ちなみに、スケジュールを調整したヴァイスさんはかなり苦労したらしく、他のみんなも一週間くらいまともに帰ってこなかった。

 大佐に至っては、今朝帰ってきたくらいだ。

 来る途中の列車では、皆深い眠りについており、非常に静かだった。


 祝賀会の翌朝、目を覚ましたルークに対して、大佐はいつも通りだった。

 何事もなかったかのように…もはや夢だったかのように。

 

 ヴァイスさんから気遣われなかったら、夢だと思っていただろう。「大佐からキスされていたが大丈夫だったか?」なんて確認は要らなかった。夢だと思わせてくれたままでよかった。本当に。


⸻⸻


「着いたよー!旅館!んーと。鍵ね!

 ルークとノエル、ウィルとグレイン、大佐とヴァイス中尉ね!私ひとり!いえーい!」

「こら、リア、呼び方。」

「あ、ごめんなさい。カイルに、レオンに、ノアね!」


 ……そう。この旅行ルール。

 全員の名前を呼び捨てにすること。


 誰だ、そんなルール考えたのと当初は思ったが、意外なことにヴァイスさんの発案らしい。


「親睦深めるのにいいでしょ?ほら、レオンなんて、呼ばれなさすぎて役職が名前になってるじゃん。たまには呼んであげなきゃ可哀想だって。」という謎理論のもと、上官命令で決行された。

 

 変わらないのは、普段も全員名前で呼んでいる大佐だけだ。納得はいかなかったがしょうがない。


 でも、よく考えたら、名前を呼ぶ上官は珍しい気がした。それが、大佐の人の心の掴み方の一つなのかもしれなかった。


「いくよ!ルーク!」

「はーい!」


 部屋に荷物を置いて、今日は城に行くのだ。本物の廃城である。


 旧ルミナリア王国の首都、ルミエラ。

 フェルンベルクからもほど近く、かつては妖精の力を持って栄えていた、らしい。

 ルミナリア王家が崩御したことで、今は廃城となり、ルミエラは辛うじて貿易港と漁港が残っている。だが、魚は美味しく、遠くから見る古城は見事なため、そこそこ人気な観光地らしい。


 そんな古城は、普段は立ち入り禁止だ。今日は、大佐が兄弟の卒業祝いということで、許可をもぎ取ってくれたとのことだった。王都からの面倒な依頼と引き換えに。

 そのお陰で大佐は殆ど帰ってこなかったんだから、少しだけ申し訳なく思う。


「初めて入ったー!」

「リアは来たのも初めてだろ。」

「そーでした!レオンは?」

「私は昔住んでいたからな。10歳まではルミエラに住んでいた。崩御と同時に、両親がフェルンベルクへ引っ越したんだ。」

「へー。そうなんだ。知らないこといっぱいですね」


 ドクン、と心臓が変な音を立てる。

 そうだ。ここは大佐が幼い頃住んでいた場所だ。


 楽しい思い出もたくさんあるだろうか。両親との、思い出も。今日は、そんな場所にたどり着けるだろうか。辿り着けたら、いい。


「廃城となってから殆ど人の手が入ってないからな。床などが抜ける恐れもある。気をつけろよ」

「はーい。」


 恐る恐る足を進めた城の中は、意外にも綺麗に保たれていて、少し埃が被っている程度だ。

 まるで時間が止まったかのように、少し煤けたカーペット、倒れたテーブル、ついさっきまで使われていたかのような食器などが、そのまま残されていた。


「ミア、ミア」

「なーに?ルーク。どしたの?」

「ミアって来たことあるの?」

「ないわよ。だって私がこっちに来たのは、ここを妖精たちが去った後だもの。」

「ん?妖精たちが去った後って?ここに妖精たちがいたのか?」

「そうよ。妖精が見える人間と一緒に妖精が居るんだから、当たり前でしょ。」

「ふーん。そうなんだ。」


 それぞれ散らばって探索していることをいいことに、ミアを呼び出して妖精たちのことを聞いてみる。

 「リア先輩じゃないけど、知らないことがいっぱいだ。」とルークは思った。

 きょろきょろと見回していると、ミアがルークに話しかけてきた。


「残ってる子たちもいるみたい!ちょっと挨拶してくるわ!」


 そう言うと、ミアはすーっと飛んで奥の方に消えてしまう。1人になると心細くなり、ルシアはみんなのところへ小走りで戻った。


「なんか面白いのありました?」

「んー?奥の方、なんか王の間?みたいなところがあったよ」

「へー。行ってみましょう!」


 みんなで一緒に、ヴァイスさんが見つけた王様の部屋に向かう。“王”という響きに、胸が高鳴る。


 キィっという音ともに、重厚な金属の扉がゆっくりと開く。中には赤いカーペットが広がっており、中央には謁見用と思われる椅子が鎮座している。


「おー、すごーい」

「ねぇねぇ、たい、じゃない、レオン、マレディア王国の謁見室もこんな感じ?」

「そうだな。私も数えるほどしか入ったことはないが、こんな雰囲気だった気がする。あちらの方が無骨だった気はするが。」


 マレディア王国の王と聞いて心臓を鷲掴みにされ、息が詰まる。今日は不意打ちが多い日だ。

 こんな楽しい日なのに、わざわざ嫌な気分になる必要はない。頭を振り、奴らのことを追い出した。


「ねぇねぇ!奥に肖像があるよ!」

「綺麗な王様と王妃様だったんだねぇ」

「王子と王子妃?か?も綺麗な人だな。」

「王子様と王様の金髪と金の眼、キラキラしてて宝石みたい!」


 みんなが無邪気に集まっていた大きな肖像画が目に入る。


 ──その瞬間、時間が止まった。

 

 ルークとノエルは、動けなくなった。


 「……なんで、」


 ポツリと呟いたルークの声が響く。


 息の仕方が分からない。

 目の奥は熱くなり、耳の奥がキーンとする。


「おい、どうした、ルーク、ノエル」


 呆然と立ち尽くす二人を不審に思った皆が振り返るけれど、反応することなんてできなかった。


「父さん……母さん…」


 ポツリと、零れ落ちた言葉の欠片……

 誰に拾われることもなく、染み込む涙。


 姉弟が決して忘れることのない、

 写真なども焼き尽くされ、一枚も残っていない人たち。


 大きな肖像画に描かれた四人の男女。


──記憶に残る優しい笑顔のまま微笑む

  父と母の姿が、そこには描かれていた。

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