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妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む  作者: 月焔 レイ
第一章(2)【士官学校編】
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第二十七話 士官学校卒業──月下に揺れる恋心


「それじゃ、な。」

「おう、元気で。卒業おめでとうな。」

「身体気をつけてね!」

「うん。」


 校門で見送るアッシュとリオに背を向ける。

 背後で、アッシュが鼻を啜る音がした。

 

 振り向くことはできない。

 ルークとノエルは社会への一歩を踏み出した。


 ⸻⸻


 別れたはずの4人は再び肩を並べて歩いていた。

 

「なーんか、締まらねぇよなぁ」

「まぁ、会うのは分かってたから」

「そうだけど、格式美ってやつだろ?旅立つ奴と、見送る仲間ってやつはさ」

「そうだけどさー」


 いつもの、ご飯屋。いつものメンバー。

 そして、いつもの打ち上げ。


 ルーク達は卒業祝賀会と称して、アルグレイ隊と共に来ていた。


「ルークゥ、ノエルゥ、卒業、おめでとー!」

「ありがとう、リア先輩。お酒くさい。」

「またまたぁ。明日からずーっと一緒だね!」

「リア、酔いすぎ。こっちこい。」


 ルークに抱きついていたリア先輩が、ウィル先輩に剥がされて説教をされている。

 変わらない光景に、少しだけ肩の力が抜けた。


「なぁ、ルーク。ちょっと…外いい?」

「なんだなんだ、告白か?決闘か?」

「ノア、茶化すな。行ってこい、アッシュ、ルーク」

「はーい」


 真面目な顔をしたアッシュの後ろを追って、外に出る。

 春の風が吹き始めた夜の街は、まだ少しだけ肌寒い。


「んで?どした?」


 声をかけても、アッシュの足は止まらなかった。


 周りを見まわし、「ここら辺でいっか」と呟いたアッシュが止まったのは、人気がない静かな夜の公園だった。


「どした?なんかあった?」

「んー。まぁ。あったな。」


 街灯の下に照らされたベンチに腰を下ろしたアッシュとは、目が合わない。


 何を考えてるのか、ゆらゆらと街灯の光を反射したアッシュの瞳は、何かを迷っているようだった。


「どしたんだよ、お前らしくないなー。」

「ま、座れよ」


 ぽんぽんっと隣を叩かれ、座れ。と促されたため素直に座った。だが、黙りこくったアッシュはなかなか話を切り出さない。


 仕方がないので空を見上げると、大きな満月が浮かんでいた。明るい月が、滲んで見える。

 あまりのきれいさにポツリとルークは声を零した。


「月、綺麗だな。」

「ん?月?ああ、満月か、今日。」


 満月のたびに、この日のことを思い出しそうだ。


 四人で過ごした学舎を一足先に卒業して、大好きな人たちと馬鹿騒ぎした夜。


「ルーク、あのさ。」

「ん?」


 覗き込むように顔を向けると、アッシュの熱い瞳に囚われた。


 吸い込まれたように、動けない。



「俺さ…お前のこと、好きなんだ。」

「は?……は??」


 なにを言っているんだ?

 すき?…好き?

 ……こいつが?誰を?


「いや…でも、俺、男…」

「お前、女だろ?」

 

「……っ、いつから気づいてた?」

「……確信はなかった。けど、今の反応で分かった」


 はぁーーーっと大きな息を吐いたアッシュは、両手に顔を埋めて帰ってこなくなった。


 ──終わった。

   吐きそうなのは俺の方だ。


 この様子だと、確信はなかったのだろう。

 つまり。ルークは、自爆した。


 お互いに肩を落とすと、アッシュがうめく。


「お前なぁ…俺がどんだけ悩んだと…」

「ごめん…??」

「謝んな。まぁ、どっちでもいっかと思ってたよ。最近は」


 脱力したように、ベンチに背を預け、満月を見上げるアッシュの顔は、先程までの思い詰めたものではなく、どこか吹っ切れたものだった。


「なんだかなぁ。好きなんだって気づいたら、お前、卒業しちゃうんだもんなー。

 

 切なかった、俺の初恋――」


「なんか…ごめん…?」


「だから謝んなっ!!!」


 「別に謝って欲しい訳じゃねぇ。」とアッシュが蹴飛ばした小石は、コロコロ転がってゴミ箱に当たり、カツンと甲高い音を立てた。


「何で気づいた?」

「んー?恋のパワー?ってのは冗談…でもないか?

 目で追ってたらさ、なんとなく。

 こいつ、女じゃね?って思うことが最近増えた。」

「そっか…最近かぁ…」

「んー。そうだな。体術大会後くらいからか?」

「っそ。」


「…お前さぁ、好きだって言ってんの。俺は。」

「うん、それで?」

「それでって…お前なぁ…」


「だって、付き合って欲しいとか、そういうんじゃないだろ。お前のは。」

「そこまで分かってんのか…」

「そりゃな。二年も毎日一緒にいたらな…」


 アッシュは、ただ聞いて欲しかっただけなのだろう。

 ルークに、自分の気持ちを。

 そしてそれは、ルークにも分かることだった。


「ありがとうな。」

「ん。どういたしまして。

 俺を惚れさせるなんて、凄い女だよ。」

「今はな、恋してる暇じゃないから。」

「え?なに?俺、勝手に振られる感じ?」

「いや、そんなつもりねーけど。」

「そーですか。」


 二人で、同じ月を見上げる。


 アッシュは立って。ルークは、ベンチで。

 それが、二人の距離感だった。


「帰る…か。」

「そうだな。みんな心配する。」


 ご飯屋に向けて、ゆっくりと足を進める。


「ルーク」

「ん?」


 呼ばれた声に振り返った瞬間、引っ張られた腕。

 触れた熱、唇ギリギリの頬。


「…は?」

「別に、諦める訳じゃねーから。

 いつか、な。


 考えといて。


 あ、今、返事はすんな。」


 そう言って、足早に店の中に消えていこうとするアッシュを慌てて追いかける。

 店に入ろうとしたアッシュの足が突然止まる。鼻の先が背中にぶつかりそうになって、文句を言おうとしたが、アッシュは何かを見ていた。


 アッシュの目線の先には、店の壁にもたれている大佐が立っていた。


「……青春だな。」

「覗き見っすか。性格悪いっすね、国軍大佐ともあろう人が」


 なんだかアッシュにしては態度が悪い。

 いつもキャンキャン子犬のようにはしゃいで、憧れていたのに。今では威嚇した室内犬のようだ。


「君らが勝手に見せつけたんだろうが」


「酔いを覚ましに外に出たら、ちょうど帰って来ただけだ」と言う低い声は、確かに少し酔っているのだろう。いつもより掠れていて、色っぽい。


「……この子は、私のだ。」


 そう言って、大佐はルークの手を引っ張った。


 今日はよく手を引っ張られる日だ。

 

 温かな体温と、ほのかなハーブの香りが全身を包む。

 懐かしい香りがする、胸の底に沈めた、宝物の匂い。


「君には、渡せないな?」


 低く掠れた声が、耳元で鼓膜を震わせた。背筋がぞくぞくする。


「…消毒。」


 顎を持ち上げられ、強引に顔を向けさせられる。

 喉が上がって、苦しい

 息を吸おうと開いた唇を、柔らかな熱が塞いだ。

 

 熱くて、少し苦い、お酒の香り。


 ――キス、されてる?


 目を見開くと、至近距離に見える大佐の顔。

 世界から、大佐以外の全てが消えた。


 音も、匂いも、熱も。全部。

 世界が、止まった。




「こら!大佐!酔いすぎです!」


 いきなり、ペリッと勢いよく剥がされる。ルークは、ヴァイスさんに首根っこを掴まれた。

 

 正直、助かった。


「なかなか二人とも帰ってこないし、大佐は涼みに行くって言ったっきり戻らないし。様子を見に来たら何してるんですか!

 部下へのセクハラで訴えられますよ」


「邪魔するな、ノア」

「はいはい、行きますよー」


「とにかく、お前には、やらん。」


 アッシュを一瞥した大佐が、そう言い捨てて戻ってくるのが見える。


 ごめん、アッシュ。

……無理だ。こんなの、受け止めきれるわけない。

 今日は、もう寝る。


 ヴァイスさんの首にルークは巻きつき、そのまま背中におぶさって眠ることにした。

 誰かが騒いでいるが、知ったものか。


 遠くで、皆がはしゃぐ音がする。


 きっと、今日のことは忘れない。

 大きな満月を見るたびに思い出すだろう。


 四人で過ごした学舎を一足先に卒業して、大好きな人たちと馬鹿騒ぎした夜。


──苦いお酒の味と、ハーブの香りを。

 

 

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