第二十六話 軍からの辞令、残された時間
「フェルン兄弟。学長室まで来るように」
「イエス、サー」
体術大会を終えた1ヶ月後、夏も終わりに近づき、街路樹が街を彩り始めた季節。
その呼び出しは、唐突だった。
「お前ら、なんかした?
休学だったりしてー、優等生たちが揃って呼び出しなんて怪しいなー」
「何もしてねぇよ。俺らが聞きたい。」
ニヤニヤし、頬杖をついたアッシュの頬を思いっきり摘んでやる。「痛い痛い痛い」と騒ぐので離してやると、真っ赤になった頬を擦っていた。
流石にやりすぎたか……と少しだけ反省する。
「ま、行ってくるわ。行こうぜ、ノエル」
「はーい。」
早く行かなければとルークとノエルは足早に教室を出た。
「失礼します、お呼びに従い参りました!ルーカス・フェルンです。」
「同じく、ノエル・フェルンです。入室、宜しいでしょうか。」
「入りたまえ」
兄弟が入室すると、そこには学長と大佐の姿があった。
ルークは思わず声をあげそうになるが、ぐっと飲み込む。なにかあったのか。
唾を飲み込み、拳を握りしめた。
「取り敢えず楽にして。叱るために呼んだのではないよ。安心しなさい。」
学長の言葉に従い、僅かに身体の力を抜き、兄弟は二人の前に並ぶ。
「ルーク、ノエル。君たちに総司令部より、辞令が下った。今から読み上げるため、よく聞くように。」
その言葉に姿勢を正し、ノエルと共にルークは敬礼を取る。敬礼した二人を一瞥し、大佐は淡々とした聞き取りやすい声で告げた。
「『ルーク・フェルン及びノエル・フェルン。
二人を、正式に特級魔法使いと認める。
また、士官学校の成績及び、魔術の技能を高く評価し、四年間の士官学校を特例で二年とし、本年度の卒業を命じる。
両名は、卒業後、見聞を広めるため、アルグレイ隊と共に各地を巡り、アルグレイ国軍大佐と共に魔術を活用した国家戦略の立案を行うこと』
──以上だ」
「イエス、サー!」
内容はまるで理解できていないが、刷り込まれた反射でルークは返事をした。隣のノエルもまったく同じ表情を浮かべており、少しだけ安心する。
「取り敢えず姿勢を楽にして掛けなさい。
話をしよう。」
学長の言葉に従い、ソファーに腰を下ろす。応接用のソファーは深く沈み、姿勢を保つのには不適だった。
柔らかい感覚は、今のルークの不安定な気持ちを表しているようで不快だ。
「先ほどの辞令のとおり、特例として君たちは士官学校を今年卒業する。
教官たちには私から説明し、特殊プログラムを組んで座学だけでも詰め込めるよう調整する。
実技に関しては、教えることがもう無いと教官から報告が上がっているから大丈夫だ。」
学長から告げられた言葉に、なぜ大佐が執務室ではなく士官学校で話をしたのかを理解した。
大佐は、出来る限り俺たちに学ぶ機会を与えてくれるつもりだ。その調整をしに来てくれたのだろう。
「格段のご配慮、感謝いたします。」
「ありがとうございます。」
「いやいや、カーティア姉弟のときにも天才だとは思ったけど、君たちは双子以上だ。
そして、それに胡座をかくこともない。
実習や行事で君たちを見るのは、私の密かな楽しみだったのだが。
国軍命令なら仕方がないね。頑張んなさい。」
「はっ!ありがとうございます!」
全く関わりのない学長だと思っていたが、意外と見られていたのかもしれない。ルークとノエルを見つめる目は、温かい光を宿していた。
こうやって、学長は軍人たちを見送ってきたのだろう。この士官学校から。
「卒業後の話については、アルグレイ隊を交えて話す。夕飯後に情報共有の時間を作るから、調整するように。
卒業まであと四ヶ月ほどだ。短い学生生活となってしまったが、楽しみなさい。」
「はっ!ありがとうございます!失礼します!」
敬礼をして校長室を後にする。
全く整理はできていないが、進むしかない。
取り敢えず、アッシュたちと会えるのがあと四ヶ月だと言うことが分かった。
──それが何よりも、寂しかった。
⸻⸻
「なんだよっそれ!」
二年で卒業することを校庭の片隅で告げられたアッシュとリオは、驚愕に目を見開いたまま動かない。
混乱を防ぐため、周りに公表はせず、卒業後に教官から卒業したことだけを告げることになった。「お前らの成績なら誰も文句は言わん」と教官には言われたが、無駄に絡まれるのも面倒だ。
今は、そんな時間も惜しい。
そんな連中に時間をとられるくらいなら、アッシュとリオ、四人で過ごす時間を大切にしたかった。
「だから、二年で卒業すんの」
「それは聞こえたよ!分かったよ、そこは!」
「じゃ、いいじゃん」
「良くねぇよ!寂しいだろ!そんなの!」
ストレートなアッシュの言葉に胸が抉られる。アッシュは、ルークが言いたくても言えない言葉を素直に口にする。
それは、彼の美点だった。
「寂しく…なりますね……」
リオは小さい身体をさらに小さくし、しょぼくれている。その姿を見て、ルークまで泣きたくなった。
「でもさ、会えない訳じゃないから。」
「そうそう。電話だって、手紙だって送る。ちゃんと連絡するから。」
「たまに、帰ってくるからさ?」
「俺らのこと、そんなに好きなのかよ?」
ルークたちが笑って慰めると、アッシュは唇をきゅっと噛み締める。そして、目を潤ませながらアッシュは飛びついてきた。
「好きに決まってるだろう!
かっこよくて、涼しい顔してなんだってこなして、天は何物を与えてんだって思うのに!
それなのに血も滲むような努力をしてて!
必死に足掻いてる俺らのことを笑いもせずに、一緒に馬鹿笑いしてくれて!
そんな奴らを、嫌いな訳ないだろう!」
「ばかぁぁぁ」と言いながら、号泣するアッシュにノエルと共に抱きつかれたまま茫然としていると、普段は絶対にそんなことをしないリオまでもが、一緒になって抱きついてくる。
二人につられて、馬鹿みたいに泣いた。
声を張り上げて、小さな子どものように。
校庭の隅で話した意味がないくらい、どうしたんだと学校中から注目を浴びた。分かってはいたけれど、涙は止まらなかった。
泣いても、泣いても、泣き足りなかった。
だけど、心は少しだけスッキリした。
泣きすぎて頭は痛かったけれど、
気持ちは良かった。
たくさん泣いたルークたちは、顔を見合わせて酷い顔になったお互いの顔を見て、腹を抱えて笑った。
ルークは、忘れない。
大きく揺れる夕陽も、
遠くで響いた汽笛の音も。
彼らと過ごした、あのきらめいた日々を
──ルークの、ルークだけの、宝物だ。
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