第二十四話 士官学校体術大会 前編 ─熱気の号砲─
「今年は、体術大会を行うこととなった。
後日、クラスごとに予選を行う。気合を入れて準備をするように。
なお、来賓として、司令部よりアルグレイ隊の皆様が来てくださることになっている。
心して臨むように。以上、解散!」
「イエス、サー!」
教官の言葉に、クラスが浮き足立つ。校外学習以来のイベントだった。
勢いよく席を立ったアッシュは、一目散にルークのもとへ駆けて来た。
「おい、ルーク!知ってたのかよ!?」
「知るわけないだろ!初耳だよ!」
「体術大会だって……僕、無理だな…」
「うーん、リオには確かに向いてないかも…?」
「リオはその分、筆記試験上位なんだから大丈夫だよ」
四人で騒ぎながら帰宅の準備をする。
久しぶりの楽しそうなイベントに、ルークの心も浮き足立つ。
「ルークさん!僕、負けませんから!では!」
「お、おう…」
言い放って去っていくクラウディオの背中を、ルークは唖然として見送った。
見送ったルークに、アッシュが声をかけた。
「モテモテじゃん。ルークに助けられてから本当に変わったよな、クラウディオ。
勉強も真面目になって、成績も上がってるって教師陣も感心してたぜ?」
ルークの背中を叩くアッシュの手が地味に痛い。
「そうなの?良かったじゃん。」
「興味なさすぎるだろ…」
「だって俺関係ないだろ…」
ルークは鞄を肩にかけ、ノエルたちと共に教室を出る。
体術大会か……負けられないな。
今日から鍛え直すか、と静かに気合を入れた。
⸻⸻
夕食中、ノエルが体術大会についての話を切り出した。
「そういえば、皆さん、体術大会のこと知ってたんですか?」
「あ、やっと聞いたんだ!当たり前じゃん!スケジュールの調整苦労したんだからね!絶対二人とも本戦進んでよ?」
「え…クラスで三人らしいんですけど…」
「なに?私たちが応援行くのに出ないっていうの?」
「リア、応援じゃない。仕事だ。」
「心の中で応援する分にはいいでしょっ!」
「頑張ってな、二人とも」
「ありがとうございます、グレインさん」
「ちょっといいとこだけ取らないでよグレイン!」
楽しそうに笑っているルークとノエルに、大佐が真面目な声で切り出した。
「まあ、二人とも私の推薦で入っているんだ。分かっているな」
「イエス、サー!」
低く響いた声に慌てて敬礼すると、それを見た大佐は吹き出した。
「冗談だ。せっかくの行事なんだ。楽しんで来なさい。」
……どうやら冗談だったらしい。
だが、大佐の顔に泥を塗る訳にはいかない。
ルークたちは大佐の推薦で入ったのだ。ルークはノエルと目線を交わし、明日からの猛特訓を誓った。
⸻⸻
「これより、体術試験のクラス予選を行う。
フェルン兄弟を対戦させると勿体無いため、担任の独断と偏見で二人は別のトーナメントに組み込んだ。
このクラスから優勝者を出したいからな。
他の者はくじを引け!制限時間1分!始め!」
教官の私情により、ルークとノエルは別々のトーナメントに振り分けられた。正直、ルークたちは助かった。兄弟で潰し合うのは勘弁である。
三つのトーナメントに分かれ、各優勝者が本戦に出場するようだ。
クラスメイトが、「フェルン達と当たりませんように」と必死に祈っているのが他人事のルークには地味に面白かった。
「よっしゃー!当たりっ!」
「俺、ルークと一回戦だ…辞退したい…」
「なんでノエルの組なんだよぉぉ」
各地で様々なドラマが巻き起こっており、なんだか楽しそうだ。
俺もそっちに参加したかった。と、少し不貞腐れる。
そして、阿鼻叫喚の理由がルークたちなのは、全く納得いかなかった。
「よし、決まったな!では、これから予選を行う。
各自、決まった場所に移動して予選開始だ。
審判には教官たちが応援で入るので、指示に従うように」
教官の指示によりクラスが移動を開始した。
どうやらアッシュは無事、当たり組(俺とルークがいない組)を引き当てたらしい。
「行ってくるぜ!」とアッシュは元気に駆けていく。「いや、俺も行くんだけど…」とルークはその後ろ姿を追った。
「お願いします!」
「お願いします。」
ルークの対戦相手は対戦前から既に震えていた。
まだルークは何もしていないにも関わらず。
「はじめ!」
「やぁー!!!」
突っ込んで来た相手の腕を掴み、ルークは上体を逸らした。相手の腕を払い、組み敷く。わずか数秒。
「そこまで!」
「ありがとう…ございました…」
「ありがとうございました。」
肩を落として退場していく相手の背中を見送り、少しだけ胸が痛んだ。
まるで俺が虐めているような気分になり、いまいち喜べない。
そんな予選を繰り返し、あっという間にルークの本戦出場は決まった。
「まじかよ…全員10秒かかってないぜ…」
「もはや化け物…」
「おい、誰が化け物だ。人間だって。」
「ひぃっ」
「ひぃじゃねぇ!!」
負ける訳にはいかないため、一切手を抜かずに対戦した結果、ルークはクラスメイトたちから遠巻きに見られる事態に発展し、頭を抱える。
そこへ、ご機嫌なアッシュが帰ってきた。
「勝ったぜー!本戦出場だ!」
「俺…お前が友達で良かったわ。」
「なに?なんかあった??」
ルークがアッシュに予選の様子を話すと、アッシュはなぜかクラスメイトの方に手を合わせる。
「おい、何してんだよ。」
「ルークと戦ってくれた勇者たちに敬意を表している。」
「誰が魔物だ。」
「お前だろ、魔物の方が可愛いかもしれん」
「ふざけんなっ!」
アッシュと戯れあってると、ノエルが帰ってきた。
「その様子だと、アッシュと兄さんも勝ったんだ。良かったね!僕も勝ったよ!
あ、クラウディオ君が兄さんと戦えなくて悲しんでたよ。」
こうして無事、俺のクラスからの代表は俺、ノエル、アッシュに決まったのだった。
⸻⸻
夕食後、無事に本戦へ進めたことをアルグレイ隊のみんなに報告した。
すると、リアたちはルークたちをそっちのけで賭けをし始めた。
「ねーねー、どっちが勝つかな?ルーク?ノエル?」
「ルークは直感型、ノエルは頭脳型だからな。決め難い…」
「二人で良くやってるし、野生の勘が効くルークの方が勝つんじゃないか?」
「いや、その分、分析できているノエルの方が有利かもしれない。」
目の前で賭けをし始める上官たちを見て、ルークは少し複雑な気持ちになった。
「とにかく頑張りますので、お手柔らかにお願いします」
「よろしくお願いしますー」
ルークとノエルの二人は苦笑しながら頭を下げ、部屋に戻るノエルの後をルークは追う。
これ以上聞いていたら、精神がもたない。
──逃げるが勝ち、である。
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