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妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む  作者: 月焔 レイ
第一章(2)【士官学校編】
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第二十三話 ほどけた夜の約束


「おーい、ルーク?おーーーい」

「ん?なに?」

「何じゃねーよ。最近おかしいぞ?大丈夫か?」

「何がだよ。普通だろ?」


 講義の合間の休憩時間。


 アッシュが兄に絡む姿を横目で見つつ、ノエルはため息をつく。


 あの日を境に、兄の目は変わった。

 大佐と話をして帰ってきたあの夜から。


 何をしていても楽しそうで、いつも好奇心旺盛だった兄は、どこか自分を戒めるようになり、あまり笑わなくなった。


 大佐と話した内容は聞いた。後日、自分も呼ばれて説明を受けた。驚いたし、そんな大切なことを隠していた兄に腹は立ったが、自分が守られていたのだと納得はしている。


 でも今は、自分をあまりにも追い詰めすぎだ。

 あれでは、心が壊れてしまう。


 分かっているのに、どうすることも出来ない自分が歯痒い。


「やっぱり、大佐に頼るしかないのかな…」


 これ以上、おんぶに抱っこは避けたかったけれども、自分では解決できそうにない。


──兄の心を動かせるのは、大佐なのだ。


 ⸻⸻


「ルークの様子がおかしい?」


「そうなんです。あの夜から、思い詰めたような顔をすることが多くて。張り切ってるならいいんですが、少し自分を追い詰めているように見えて。」


「家では普通だからあまり気づかなかったな。君の姉は、なんだかんだで隠すのが上手いからね。教えてくれて助かった。話をしてみるよ」


「すみません。僕で解決できれば良かったんですが……"大丈夫"の一点張りで、頑固で…」


「いや、君の前では年上でいたんだよ。そこは彼女なりの甘えだと思って、甘えさせてあげなさい。」


「そう言ってもらえると助かります。それじゃあ、よろしくお願いします。」


 扉の前で一礼し、部屋から出る。


 兄がお風呂に行っている隙を見計らって、大佐に話をしに来たのだ。


「大佐、人が居ないときには頑なに”彼女”って呼ぶんだよな。無意識なのか意識的なのか…」


 大人の考えることは、分からない。そこにどんな意味が含まれているのか。

 まっ、僕には関係ないしいっか。人の恋路に首を突っ込むもんじゃないよね、と切り替え、シルフィと遊ぶことにした。


 今日も僕のシルフィは可愛い。


 ⸻⸻


「ルーク、ちょっといいか?」


 次の晩、早速大佐は時間を作ってくれたみたいだ。兄が部屋に呼ばれて出ていく。

 

「大佐、頑張れー!」

 

 妖精たちと共にエールを送る。

 どうか、頑固な兄が素直になれますように。


 ⸻⸻


「最近、様子がおかしいぞ?大丈夫か?」


「え?何が?俺おかしい?なんかよく言われるんだよね」


「無意識…か?」


 息を吐き出した大佐は、「やれやれ」と肩をすくめている。

 その様子にルークはイライラした。どいつもこいつもなんなんだ。


 そんなルークの様子を見て、大佐はまた口を開く。


「どこからどう見ても、普通ではない。気を張り詰めすぎだ、馬鹿者。」


「馬鹿ってなんだよ…」


「そんなんじゃ、上に上り詰める前に倒れてしまうだろう?まだまだ先は長いんだ。張り切るのはいいが、少し肩の力を抜きなさい」


「それは分かるけど、肩に力なんて入れてないって」


「そうか。なら、最近食事を美味しいと思ったことはいつだい?」


「え…いつ…うーん。」


「ほら、そういうところだよ。今日の晩御飯は美味しかったな。ノエルのクリームパスタは絶品だ。」


 そう言われてみれば、ご飯を美味しいと思った記憶がない気がする。いつもの自分ならあり得ないことだ。

 ここ一年、毎日ご飯が美味しいと幸せに感じていたのに。


「そうは言っても、肩の力の抜き方が分からないんだろう?君は、頑張り屋さんだからね。」


 優しく細められた大佐の瞳は、何もかもを見透かされるようでルークは少し居心地が悪い。

 どうして大佐は、こんなになんでも分かるんだろう。


「そうだな。張り切りすぎると、いいことは決してない。物事には順序がある。一つ一つ、積み重ねて、たどり着くものだ。」


「それは…分かってる…」


「そうか。それは良かった。

 私の場合はね、最終的な目的は軍のトップに立ち、国民の生活を守ることだ。

 

 だが、まだ力が足りない。だから、今は力を蓄えるときだ。

 

 情報と、人材と、魔術──

 私には、全てが足りていないからね。」


「大佐でも…足りないの?」


「そうだよ。全然足りない。


 足りないからどうしようかと思っていた時に、同じ方向を向いて歩いてくれる君たちが来てくれた。力を貸してくれると言ってくれた。


 今はまだまだ力が足りない。だが、確実に進んでいるだろう?」


「俺は……大佐の力になれてる?」 


「なれているとも。

 私が大佐になった最後の一押しは、君たちを見出して、私の部下に加えたことだ。

私の力ではないよ。君たちが、私を押し上げてくれた。


 だが、私はそれを、情けないとは思わない。


 私は自分の力だけで上に行こうとも、夢を叶えようとも思ってないからね。


──夢は、皆の力で叶えるんだ。」


 大佐の言葉は、いつも素直にルークの胸に響く。

 いつの間にか、俺は全てを背負って歩こうとしていたのかもしれない。

 けれど、俺には共に歩く仲間がいる。共に目指すアルグレイ隊の皆がいる。大佐がいる。


 ──一人じゃないんだ。


「その顔だと、もう大丈夫そうだね。」


 ほらまた。分かったような顔をしている。

 この大人には、敵わない。


「迷ったら、いつでもおいで。

 その代わり、私が助けて欲しい時、助けてくれ。

 私はすぐに、助けを求めるぞ?」


 冗談めかした顔をする大佐に、肩の力が抜ける。


「ほんと敵わない、大佐には。」


 吐き出すように言った本音は、掠れていた。


「当たり前じゃないか。

 私は君より13年も長く生きているんだ。君に負けたら私は泣くよ?

 既に魔術では負けているのに、もう少しくらい大人ぶらせてくれ。」


「そろそろ寝なさい、明日も学校だ」


 優しくそっと頭を撫でられ、背中を押される。


「ノエル、ルークが夜ふかししないように見張ってくれ」

「分かりました。ありがとうございます。」


 部屋まで送り届けた大佐は、ノエルにウインクを残して帰って行った。

 大佐がウインクなんて珍しい。


 ルークが目をパチクリさせてると、「ほら、早く寝るよ」とノエルに急かされた。

「ん、分かった。」とモゾモゾとベッドに潜り込むと、すぐに電気が消される。


「明日からも頑張ろうな、ノエル」

「明日もきっといい日になるよ、兄さん」


 変わらない挨拶。いつもの挨拶。

 そういえば、この挨拶も最近は忘れてしまっていた気がする。


「ごめん、ノエル」

「なにが?」

「夜の挨拶、忘れてた。」

「今更気づいたの?重症だね、ばーか。」


 ノエルが大佐になにか言ってくれたのかもしれない。優しい弟のことだ。そんな気がする。


「ありがとう。」

「これからも、一緒だよ。おやすみ。」


 しばらくすると、ノエルの規則的な呼吸音が聞こえてきた。

 ミアたちが遊んでいるのか、月光に照らされて妖精の羽がきらきら揺らめいている。


 ルークは瞼を、そっと閉じた。

 なんだか、いい夢が見れる気がした。


【御礼】


ここまで読んでくださりありがとうございます!

あまり後書きに書くのは良くないと思うのですが、今回だけ。


ブクマや評価、リアクションを送ってくださる方々、本当にありがとうございます。

そして、レビューありがとうございました。


モチベーションがあがり、3月の毎日投稿分は書き終わることが出来ました。感謝しています!

完結まで絶対に書き切ります。


もう少しストックが溜まったら、更新スピードも週末中心に上げる予定です。


明日からはまた一日一回、朝の投稿になります。

よろしくお願いします!

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