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妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む  作者: 月焔 レイ
第一章(2)【士官学校編】
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第十八話 芽吹いた心


 校外学習から帰宅し、執務室に顔を出すと、

 ルークはそのまま中佐に、応接室へ連れていかれた。


 扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。


「それで?」


 応接室で向かい合う中佐の目は氷のように冷え切っていた。思わずルークは息を詰める。


「えっと…ブラッドベアーがクラスメイトを襲っていて…」


「ほう。君は、自分なら魔術を使えるからなんとかできる、なんてまさか言った訳じゃないだろう?

 軍人が銃器装備をした上で分隊で討伐を行うブラッドベアーを。


 まさか一人でどうにかしようなどと、無謀な考えはしていないな?」


「はい…すみません…でした。」


 息を吐く中佐に、思わずルークの身体が竦む。淡々と話す中佐の言葉に、普段の温かさはない。


「私はな、魔術を使ったこと自体を咎めているわけじゃないよ。それは分かっているか?」


「…え?」

「その顔だと分かっていないな。」


 またため息を吐かれ、じわりと目の奥が熱くなる。

 何も言えずに黙っていると、「一旦座りなさい。」と応接用ソファーに促された。


 アメジストの瞳にじっと見つめられ、居心地が悪い。


「それで?君は何が悪いと思ったんだい?」

「魔術、使ったらダメだって言われてたのに使ってしまったから、隠しておけって言われたのに。」


「違うだろう。私が怒っているところはそこではないよ。

 そして、多分それはアルグレイ隊全員の共通する思いだ。


 私たちが士官学校から緊急で電話を受け取って、どれだけ焦ったか。

 君にはわかるかい?」


「ノアでさえ顔色が変わっていたよ」と苦笑する中佐の顔には、心配の色が浮かんでいた。


 怒っているわけでは…ない?


「軍人でさえも苦戦するブラッドベアーを君が倒した。

 そういう一報だったんだ。怪我の有無は分からなかった。


 双子など、車で飛び出そうとするのをノア達が必死で止めたほどだ。抑えるのに苦労した。カイルでさえ、落ち着きがなかったんだ。」


「…君たちはな、本当に愛されているんだ。それを少しは自覚しなさい。」と中佐の大きな手が伸びて来る。温かな手が、そっと頭を覆った。


「ルーク、いや。今はあえてルシアと呼ぼうか。

 ルシアとノエルは、確かに強い。体術も優れているし、魔術に関してはもう私を超えるかもしれない。


 だが、それでも、君たちはまだ12歳なんだ。

 守られるべき年齢なんだよ。」


「それを、どうか覚えておいてくれ」


 中佐の掠れた声が響き、ゆっくり引き寄せられたルークの身体は、ポスンと中佐の胸に収まった。


「今度は、ノエルと話すから。呼んでおいで。魔術については、後で二人揃って話をしよう。」


 そっと背中を押され、ルークは執務室に戻る。


「ノエル、次だって。」


 ノエルは、すでに一旦皆に叱られ、安堵された後らしい。珍しく、目尻が赤くなっていた。


「うん。」とトボトボと応接室に向かう背中をルークは見送る。


 パタンとドアが閉まった。


 それと同時に、ドスンと衝撃が来た。


「あんたたちはー!!!本当に!心配したんだからね!」


 息が詰まるほどの勢いで、リア先輩が抱きしめてきた。

 震える腕で、さらに強く抱きしめられる。


 「良かったよ、生きてて。ほんと。」


 ポロポロと泣くリア先輩に、呆然とする。

 "失うこと"を当たり前のように語っていた人たちが、自分の身をここまで心配してくれるなんて。


「あんまり、無理しないように。正義と無謀は、似ているようでまったく違う。

 今回は結果的に良かったけど、いつ命を落としてもおかしくはなかった。そこは、理解していてね。」


 真剣な光を宿したヴァイスさんが、リア先輩に抱きしめられたままの俺を見つめ、静かに語りかける。その瞳の中には、心配の色しかなかった。


「ごめん…なさい。」

「無事ならもういいよぅ。もうしないでねぇ。」


 自分のことのように泣くリア先輩をルークは抱きしめ返し、一緒に泣いてしまった。


──嬉しさと悔しさが同時に込み上げて泣いたのは、これが初めてだった。


 ⸻⸻


 みんなから撫でまわされた二人は、再び中佐に呼ばれ、応接室にいた。


「それで。魔術の件だが、二人とも出来るようになったのか?」

「あー、俺はできます。ノエルも多分、説明したら出来るようになります。

 おそらく、同じ程度の威力です」

「そうか。まぁ…隠せることでも最早無くなったな。」

「すみません。」

「いや、優秀なことは謝ることではないよ。ここからは私の仕事だ。腕がなるね。

 この件は、士官学校も絡んでしまったから恐らく王都まで報告がいく。場合によっては、国王陛下の耳にまで届く大案件だ。特級絡みだからね。

 そこは、覚悟しておきなさい。


 だが、初めに伝えたとおり、君達はもうアルグレイ隊の一員だ。

 そして、私の夢には必要不可欠な人員でもある。

 全力で守るから安心しなさい」


「…夢?」


 不思議そうな声をあげたノエルに、中佐が眉を上げてルークを見る。


「なんだ、ノエルに言ってなかったのか。


 ノエル、私は、いずれ軍のトップを目指す。


 この意味が、分かるね…?」


 ハッと息を呑んだノエルは、目を見開き、頷いた。


「どうしても、しなければいけないことがあるんだ。


 そのために、私はトップを目指す。

 力を貸してくれ。」


「…僕が出来ることであれば。」


「それで構わないよ。君たち兄弟は全く同じ返事を返すんだな」


 中佐は楽しそうに笑って、くしゃくしゃと二人の頭を撫でる。


「叱るばかりで誉めてなかったね。

 よくクラスメイトを守った。方法は褒められないが、その信念は誇るべき事だ。


 そして、魔術も。よくそこまで開花させた。見事だ。

 

 ──ルシア、ノエル。

   君たちはアルグレイ隊の誇りだ。」


 告げられた言葉に、視界がぐらりと揺れる。


 教官からも、帰ってからも、叱られてばかりだった。

 でも、今の一言でちゃんと中佐は認めてくれているんだと改めて感じることができた。

 誇りだと⸻そう言ってくれた。


 中佐のために、なにかしたい。

 ルークの胸の奥で、確かな想いが静かに芽吹いた。

 

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