第十六話 校外学習、明かされた魔法
「くれぐれも勝手な行動はしないように。出発」
教官の掛け声を皮切りに、ゾロゾロと校門から大きなリュックを背負い出発する。
今回の校外学習は従軍訓練も兼ねているため、目的地までひたすら歩き続ける。
さっそく飽きたのか、アッシュがゲームを提案する。
「おい、暇じゃね?」
「暇じゃねーよ。真面目に歩け。」
「真面目に歩くってなんだよ。じゃあ、四人で質問タイムしようぜ。」
「なにそれ?」
「1問ずつ質問していくゲーム。じゃ、まずはルークからな。反時計回りで行こう。」
「んで、俺?んー。なんでリオは士官学校に来たんだ?あんまり軍人って性格じゃなくないか?」
「僕は、高官とかより、軍の研究所に入りたいんだ。士官学校出だと入りやすいらしくて」
「なるほどなー。」
一緒にいても、意外と知らないことは多い。
校外学習は、親睦を深める意味合いもあるのかもしれない。
「じゃあ、ノエルはどんな植物魔術が使えるの?」
「あれ?言ってなかったっけ?生育促進とか、大きくしたりとかそんなのだよ」
「植物ってことは聞いたんだけど、聞いていいか分かんなくて聞けなかったんだ」
「聞いてくれたらいつでも教えたのに」
「次俺!次俺!早く早く!」
「えー。聞くことないよ。アッシュはどんな子供だったの?」
「俺?俺は結構、運動も勉強もできるいい子だったよ」
「いい子?喧嘩早いが抜けてるよ」
「やっぱりそうだったんだ……」
「余計なこと言うなよ!リオ!んじゃ!最後俺な!ルークの好きな人は、リア先輩、ですか?」
「は!?んな訳ねぇだろ。リア先輩はそんなんじゃねーよ。」
「えー。つまんね。あんな可愛い人と一緒に住んでて好きにならないってことある?え、じゃあ、好きな人いねーの?」
「好きな人……?いな…」
ふわりと蘇るハーブの香り。温かい体温。熱。
「イヤイヤ、いないいない!」
「その反応でいないは無理ないか?」
「顔真っ赤になってるよ、ルーク」
「うるさい!本当にいないんだって!」
教官に怒られるまでキャイキャイ騒いでいた三人を、ノエルは後ろからじっと見てきた。
顔を赤くし、無邪気にはしゃぐルークの姿をみつめ、ノエルは小さく息を吐いた。
「僕も、そろそろ兄離れを決意すべきかな……」
遠い目をし、達観した弟の姿がそこにはあった。
⸻⸻
「到着。周辺に各自で設営!終わり次第、晩御飯を取って交代で見張りを立てて眠ること!明日の朝は日の出と共に活動を開始する。以上!」
「おい!早く行こうぜ!良い場所なくなっちまうぞ!」
急ぐアッシュに手を引っ張られながら、場所を探す。
先輩達に教えてもらった設営ポイントをルークは復習する。
等間隔に並ぶ木を探し、その間に紐を張る。そこへ雨除けのシートを被せれば、簡易的な寝床となる。
「おい!この木なんかいいんじゃないか?大きくて陰になりそうだ!」
響いたアッシュの声にヴァイスさんの声が脳内で再生される。
”大きな木の下は避けること。木に登る魔獣がいたら、上からの奇襲に気付けないよ。”
「大きい木の下はダメだ。こっちの方にしよう。」
ルークは小ぶりの木が等間隔に並んだ平地を指差した。
「下が平らの方が寝やすい。小さい木の方が設置も撤収もしやすいし、周りの視界も遮りにくい。」
と告げると、おおーと拍手される。
「全部先輩の受け売り」とルークが白状すると、「なんだよー。」とアッシュに背中を叩かれた。
設置場所が決まると早かった。雨除けとなるシートを広げ、薪を集めて火を起こす。こっそり火魔術を使って時間を短縮した。禁止されているわけじゃない。……たぶん。
初めて見る魔術に、リオとアッシュは幼い子供のように目を輝かせていた。
腰を落ち着けて一息つくと、「お、この班は早いな。よく出来ている。火にだけ気をつけろよ。休んで良いぞ。」と教官が珍しく褒めて去っていった。
⸻⸻
夜。
怪談話をしたがるアッシュを蹴飛ばして寝かし、交代で見張りを務める。
夜の森は、不気味だ。他の班の火が遠くに見えると言っても、散って設置しているので、気配などは殆どしない。
普段耳にすることのない夜行性の動物の鳴き声、木の葉が掠れる音に、胸の奥がすぅっと冷えていく。
「ミア、シルフィいる?」
他の人を起こさないように小声で呼びかけると、
「居るよー。」
「居るに決まってるわ。」
と岩の上にパッと舞い降りる。月光と焚き火の灯りを受け、妖精たちの羽はキラキラと淡く輝く。
まるで夢の中の光景であった。
「ふふ、心強いじゃん。」
「なーに?寂しくなったの?普段賑やかなところにいるからよ。」
とおかしそうに笑うミアの言葉は核心をついている。普段一緒に過ごしている彼らは温かすぎるのだ。
マナを手に集め、ミアとシルフィに手渡す。
自分は、「夜に食べてね!」とリア先輩から渡された木の実を齧った。
ほんのり甘くて少し安心する。先輩はこうなる事まで見透かしていたのだろうか。
ぼんやりしていたルークにミアが話しかける。
ミアたちはかたくなに"ルシア”と呼ぶ。
初めのうちは注意していたが、誰にも聞こえないしいっか。と開き直った。
「ルシアは、あんまり魔法使わないのね。」
「魔法?魔術のこと?使ってるじゃん。」
「違うわよ、ルシアのはマナを使う魔術でしょ?そうじゃなくて、私たちの力を借りる魔法よ。」
「は……?なんだそれ…?」
「え、まさか知らなかった……?」
ミアとシルフィは顔を見合わせ、納得したように頷いている。
「なるほどねぇ。だから使わなかったのね。
しょうがないわ、このミア大先生が教えてあげる!
あとでノエルにも教えてあげるのよ!」
と言って教えてくれた。
そもそも"魔法使い"とは妖精の力を借りて奇跡を起こす者たちのことだった。それは、"魔法"と呼ばれたらしい。
だが、妖精魔法は妖精を見える人々しか使えなかった。そのため、大気中のマナを集めて使用する"魔術"を昔の人間が生み出したのだと言う。
だから、魔術はその人の力量にもよるし、大気のマナ量等にも左右されるけど、魔法は妖精との契約なので、妖精の強さによりある程度決まってくるらしい。
「なんだそれ…」
「ちなみに、私とシルフィは金平糖を食べているから威力はとても上がってるわ!今ならドラゴンでも倒せそう!」
「は?」
「あれ?それも気づいてなかったの?私たちはマナを吸収することはできないの。だけど、何故か魔法使いがマナを変換してくれたら食べられて、成長することができるの。食べた分だけだから、使ったらその分は無くなっちゃうけど。
私とシルフィは貰うばっかりで使ってないから、どんどん魔力みたいなものを蓄積してる状態よ!つまり最強!」
ミアはくるんと宙返りし、得意げに胸を張る。イェーイ!とシルフィとハイタッチを交わしているが、こっちは頭が痛い。
「お前ら…ただの食いしん坊じゃなかったのか…」
「うーん。普通の魔法使いがくれるやつはなんか苦いって聞いてたんだけど、ルシアとノエルがくれるのはとっても甘いのよね。ほっぺた落ちそう」
「そうそう、だから食べすぎちゃう」
「「ねー!」」
「……そうですか。」
「そう!だからたまには使わせてねー!」
太りそう!とキャッキャしている二人は、太る気配はないので大丈夫だろう。流石に服がぴちぴちになったミア達は見たくはない。飛ぶのが重そうだ。
「でも、どうやって使うんだ?」
「名前を呼んで、イメージするだけ。簡単でしょ?」
そういえば最初に発動した時は、ミアの名前を呼んで、助けたいと祈ったのだ。あれが、魔法だったのだろう。
「なるほどなぁ。ありがとう。ノエルにも言っとくな」
「ありがとう!」
まだまだ夜は長い。発動してみたかったが、ドラゴンも倒せそうと張り切るミアに、どんな結果になるか分からない魔法をこの場で試す勇気はない。
「怖いなんて、思ってる時間なくなったな……」
天を仰ぐと、綺麗な満月と満天の星空が広がっていた。久しぶりに夜の空を仰いだ気がする。夜の闇はどこまでも深く、吸い込まれそうだった。
「星座…探したりしたっけ。」
幼い頃の思い出をたどりながら、夜は更けていった。
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