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妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む  作者: 月焔 レイ
第一章(2)【士官学校編】
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第十五話 過保護な大人たち


 アッシュ達との買い出しの日。

 官舎の前にはなぜかルークとノエルの他に、私服姿のリア先輩とウィル先輩も立っていた。


「なんで先輩たちもついてくるんですか。」

「だってー。ルークとノエルが初めて友達と遊びに行くんだよ!?ここは姉として、ちゃんと着いていかないと!ちょうど私休みだし!」

「誰が姉だ!?」

「ねぇ、俺いらなくない?帰っていい?」

「ダメに決まってるでしょ!ルーク達の友達は私たちが見極めないと!」


 気合を入れているリア先輩のことは、無視するのが一番だ。とルークは割り切った。

 これは何を言ったところでついてくるだろう。


「楽しみだねー。どんな子たちだろ?」

「兄さんとそっくりですよ」

 と失礼なことを言う弟を蹴飛ばしながら、士官学校へ向かう。


 ミアとシルフィも、いつも通り元気にキラキラと光を撒きながら飛んでいる。

 二人はいつも二人でキャッキャしていて楽しそうだった。

 

 基本的に、二人っきりにならないと話しかけてこないのだが、長年見えていなかったからか、それでつまらなそうにしている様子もない。ふと目が合うと、嬉しそうに笑いかけてくる。


「おはよう!ルー…リア先輩!?!?」

 

 驚きと緊張のあまり声が裏返っているアッシュに、本気で好きだったのかとルークは苦笑した。

 

「お、おい。どういうことだよ。なんでリア先輩が!?」アッシュに隅に引っ張られ、耳元で囁いてくる。どうでもいいが、近い。近すぎる。

 

「なんかついてくるって言って聞かなくて…嫌なら帰そうか?」「滅相もない!ルーク様!」と拝んでくるアッシュの頭を叩いて皆の元へ戻った。


 リア先輩たちにアッシュたちを紹介する。

 

「こいつが、アッシュで、小柄な方がリオ。リオは優しくていいやつ」

「俺は!?」

「お前はうるさい。」


 アッシュといつものように話していると、


「えー!ルークがなんか年相応!戯れてる!可愛い!」


 ぎゅーっとリア先輩に抱きつかれた。

 なされるがままにされていると、ウィル先輩にペリッと引き剥がされた。


「引っ付きすぎだ、ルーク」

「いや、俺なんもしてませんよね?見てましたよね?」

「そんなに抱きつきたいなら俺が抱きついてやる。ほら」

「わー、いらない。本当にいらないんで離してください」

「…お前、なんかいい匂いするな?」

「あー、昨日シャンプー変えたんでそれでですかね?」

「え?ほんと?ほんとだ!いい匂い!それ今日貸して!」

「ダメに決まってんだろ。」


 騒いでいる3人を横目に、「ルークっていつもあんな感じなの?」とアッシュとリオがノエルに尋ねる。


「んー。おおむねあんな感じかな?兄さん揶揄うのが楽しいらしくて、皆に構われてるよ。たまに僕も巻き込まれるから基本は逃げてる」という答えに、「愛されてんだな…」と遠い目をしていた。


「そろそろ行くよ」というノエルの掛け声に、一行は出発する。

 軽く昼食をとってから、雑貨店や食料店を巡る。


 流石、戦場経験がある双子の意見は、非常に参考になった。

 参考になりすぎて、少しずるをしている気分にもなった。しかし、人脈も実力のうちだ。しなくていい苦労はしなくていい。


 そんな訳で、なんやかんやあった買い出しは無事に終了した。


 ⸻⸻


 夕食の席。リア先輩は自慢げにみんなに今日の話をしていた。


「ルーク達の友達、素直な子たちだったよ。」

「なんだ、お前たち。本当に着いて行ったのか。弟離れが出来てないな。」

「えー。中佐までそんなこと言うんですか。酷い。」


 泣いたふりをしているリア先輩は、皆から無視されている。


「校外授業か…懐かしいな…」

「俺たちの時は、ブラッディラビットが出てきて大変だったんだよ…」

「え、ヴァイスさんのとき、本当に出たんですか?」

「ああ。あの時は、レオン、あ、中佐が結界魔術で防いでくれてさ。その隙に必死で逃げたり、攻撃したりしてなんとか仕留めたんだ。」


 大変だった…と遠い目をしたヴァイスさんの目は疲れていて、本当に大変だったのだろう。


「意外と奥まで行くからさ、結構魔物も出てくるんだ。ルークたちは魔術があるから大丈夫だろうけど、気をつけてね。」

「はーい」

「分かりました。気をつけます」


 食事を終え、順番にシャワーを浴びた。

 廊下を歩いていると、ふっと人の気配がし、不意に腕を引っ張られた。


 ”パタン”と扉がしまる。


 ふわっとしたハーブの匂いに全身が包まれた。


 温かな感触に、なんだか懐かしい温度がした。

 

 周囲を見渡すと、隙間からしか見たことがなかった中佐の部屋だった。

 「初めて見た」と部屋の中を見回していると、「はぁ…」と中佐のため息が降ってきた。


「お前な…少しは警戒しろ。女の子だろ。」


「警戒しろと脅す意味で連れ込んだのに、なんだか気が抜けた」と顔を手で覆っている。


「取り敢えず座れ」とソファーを指さされ、ソファーに腰を下ろす。


 高いソファーなのか、スプリングが効いていてふわふわする。

 気持ちがいい。


 そのまま跳ねていると、呆れたようなため息がまた降ってきた。


「お前なぁ…」

「だって…警戒しろって、中佐だよ?」


 立ったままの中佐を見上げると、自然と上目遣いになる。

 少し息を呑んだ中佐は、トンと肩を押し、体重をかけてきた。


 気づいた時には、背中は柔らかいソファーに押し付けられていた。

 

「え…え?」

 

 状況が理解できず困惑していると、耳元で中佐の低い声が響いた。

 

「私でも、一応は男だ。

 

 お前は、いくら外に男だと言い張っていても、もう13だ。

 そろそろ隠しきれないことも出てくる年頃だ。


 それは少し、もう少し、自覚しろ。」

 

 心配なんだ。と囁く至近距離にあるアメジストの瞳がゆらゆら揺れている。

 

「こうして簡単に連れ込まれて、座れと言われたら素直に座る。

 押し倒されても抵抗せず大人しく囲われている。


 分かるか?どれだけ危険な状況か」

 

 俺も、皆も、お前に傷ついてほしくない。なのにお前はこの調子だ。とため息を吐かれる。

 

「だって、中佐はしないじゃん、そういうの」

「私はしないかもしれないが、友達や同級生、先輩は分からんぞ。

 そのくらいの年頃だと、男でも手が出る奴は出る。」

 

 だから用心しろ。頬に、そっと熱を落とされた。

 そっと引っ張り起こされた。


 ん?熱?

 

「ほら、そろそろ寝ろ。ちゃんと用心しろ。頼むから。

 娘が心配でたまらない父親の気持ちが、今なら痛いほど分かる」

「父親って歳でもねーだろ」

「例え話だよ、例え。」

 

 中佐にそっと背中を押され、部屋から追い出された。


「おやすみ、ルシア」

 

 耳元で囁いた吐息混じりの声が脳を揺らし、パタンと背後で扉が閉まる音がした。

ルークは一人、廊下に取り残される。


「はぁ!?!?」

 

 遅れてやってきた熱が顔に上がり、暑くてたまらなくなる。

ずるずると床に座り込んだ。ひんやりしていて冷たい。


 初めて感じた全身の熱。至近距離の瞳。全身を包んだハーブの匂い。


 なんであんなに冷静でいられたのか、自分でも謎だった。


「なんだよ、もう…」


 ルークはゆっくりと手で頬を抑える。

 熱が残った場所をなぞる。いつまでも消えない温かい熱。


「ずるいだろ、そんなの…」

 

 ──それは、初めて感じた、大人の熱さだった。

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