表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む  作者: 月焔 レイ
第一章(2)【士官学校編】
13/29

第十三話 士官学校、入学


「なかなか似合うじゃーん。」


 パチパチと拍手するリア先輩に、満足げに頷いている男性陣。皆、似合うと思ってくれるらしい。

 ノエルと並んで敬礼のポーズを取ってみると、皆畏まった顔で敬礼を返してくれた。ルシアは思わず吹き出す。

 

 黒の軍服を模した、深いグレーの士官学校制服。赤色のタイがかっこいい。飾り紐がお気に入りポイントだ。


「じゃ、行ってきまーす」

 

 出かけようとした二人に、ヴァイスが声をかけた。


「中佐は来賓で、私は副官として付いて行くので、入学式では会えます。

 大丈夫だと思っていますが……特にルーク。気を抜かないように。

 あなたたちはアルグレイ隊の一員です」

「はい!気をつけます!」

「頑張って兄さんを見守ります!」

「どういうことだよ。」

「そのままの意味だけど?」


 肩をすくめる弟がむかつく。

 俺の方が年上だって、こいつは本当に分かってるのか。とルークは少しだけ腹が立った。


 玄関口で喧嘩をする二人に再びヴァイスから叱咤が飛ぶ。


「ほら、そういうとこ。早く行きなさい。」


「初日から遅刻じゃ洒落にならないよ」と急かされ、士官学校までの道を急ぐ。

 司令部に近い官舎は、士官学校にも程よく近い。歩いても十五分ほどで着く距離だ。


「やっぱ、でかいよな…」

 支部の士官学校とは思えない。それは、ルークたちが住むフェルンベルクの成り立ちに理由があった。


 ルークたちが住む街、フェルンベルクはマレディア王国の西部に位置する、西部最大の街だ。

 マレディア王国は三方を海で囲まれ、西方には大陸一の帝国、アストリア帝国が広がっている。

 かつてこの国は、ルミナリア王家が治める「旧ルミナリア王国」と呼ばれていた。

 だが今から十五年前、王家は崩壊。現王家であるマレディア王家が新たに国を興し、マレディア王国が誕生した。


 混乱の中で、国土の一部はアストリア帝国に吸収された。

 その名残から両国の関係はいいとはいえない。それでも、国民同士の交流は活発で、国境に近いフェルンベルクも交易都市として大きく発展していた。

 

 その関係で、軍事拠点としての役割も強い。士官学校の規模が大きいのもそのためだ。


⸻⸻


「入学生、一同起立」


 敬礼をしたまま直立不動で立っていると、来賓であるフェルンベルク司令部中将と、アルグレイ中佐が入室してくる。

 いつもの雰囲気とは違い、ピリピリとした雰囲気を纏い、髪は左右に流してセットしている。

 なかなかにかっこいい。ん?かっこいい?

 ルークが自分の感想に眉をひそめていると、中佐の後ろから入室してきたヴァイスさんにしっかり睨まれた。ヴァイスさんの冷たい視線に、ルークの背中に冷や汗が伝った。


「君たちの、これからの軍事生活には…」


 中将の長い祝辞を聞き流す。ずっと敬礼で聞いておかなくてはいけないなんて、あまりにも非効率だ。


「敬礼、直れ。礼。」


 アナウンスに沿って身体を曲げるが、ギシギシと身体が軋みそうだった。

 

「続いて、アルグレイ中佐より祝辞を頂きます。」


 中佐の姿に背筋を伸ばし、気合を入れる。なんと言っても、ほぼ身内だ。一年でそう思える程度にはなっていた。


「君たちは、これから、軍人としての心構えをここで4年間、学ぶ。

 理不尽なことも、苦しいことも沢山あるだろうが、どうか歯を食いしばって欲しい。軍人になると、理不尽な出来事は山程ある。報われることは殆どない。だが、それでも我々は立ち続けなければならない。

 国民を、守るために。

 そのために、共に歯を食いしばれる仲間を、どうかここで見つけて欲しい。

 君たちの軍事学校生活に、幸あることを祈っている。」


──短い祝辞だった。


 きっと中将の半分以下の時間だっただろう。

 凄い人だとは思っていた。

 頭の回転や勘の鋭さに舌を巻いたのは、一度や二度ではない。


 だが、今回のは次元が違った。


 これが、彼の、カリスマか。


 【漆黒の守護者】


 司令部内で、彼をそう呟く声を聞いたことがある。

 防衛魔術に優れているから─そう言われているのだと思っていた。

 だが、きっと、それだけじゃない。


 人を惹きつけ、心を掴み、命を預けてもいいと思わせる。

 彼の在り方全てが、この男の異名を形作っているのだろう。


 初めて第三者の視点から見る中佐は、とても遠かった。本来なら、とても手が届かない人なのだ。それを突きつけられた。

 いつもルークを映してくれるアメジストのような瞳は、ルークを捉えることはない。

 その視線は、どこか遥か遠くを見ていた。

 同じ空間にいるのに、ルークの声は中佐に届かない。


 それは、なぜだか中佐がとても遠くに行ってしまったようで。

 胸に、小さな穴が空いたような気がした。


 その様子を、ノエルはそっと横目で見つめていた。


 ⸻⸻


「ルーク・フェルンです。12歳。通いになります。よろしくお願いします」

 

「ノエル・フェルンです。12歳です。兄と同じく、通いになります。よろしくお願いします。」


 この日は各教室に分かれ、自己紹介を済まし、解散となる。1クラス15名、2クラスだ。二人は同じクラスだった。幹部候補のため、狭き門らしい。

 ルークとノエルは中佐の推薦のため、試験は受けていない。


 教官が解散を告げ、明日の集合時間と持ち物を告げる。


 今日はなんだか疲れた……帰って夕飯の準備をしよう。

 ノエルに声をかけてルークが帰ろうとすると、斜め後ろの席の同級生に絡まれた。

 

「おいおい、お前が中佐のお気に入りかよ。魔術使えるって本当なのか?ちょろっと水が出るとか、そんなんじゃねーのかよ。」

 

 面倒くさい。心底面倒くさかった。

 時々司令部内でも絡まれていたが、その軍人たちはまだ大人だった。こいつらは子供な分面倒だ。


「やめなよ、アッシュ。入学初日くらい大人しくしたら?」


 大人しそうな男の子が、後ろから制服を引っ張っている。歳は…12歳だったか?確か名前は…リオ・エルヴァだった気がする。

 ルークは記憶力が抜群だった。一度聞いたことはほとんど忘れない。


「なんだよ、リオ。邪魔すんなよ、いいじゃん。話してるだけだろ?」

「アッシュのは話してるんじゃなくて、喧嘩売ってるって言ってんの。気になるなら気になるって素直に言えばいいのに、そんな言い方したら誤解されるよ?」

「誤解ってなんだよ!知らねーよ!」


「もう行くぞ!」と鞄を持ってドタドタと去っていく背中を呆然と見送る。嵐のような男にルークはあっけにとられる。


「ごめんね。君たちに会えるの、楽しみにしてたみたいなんだ。今度話してあげて」と囁いたリオは、名前を呼ばれ、小走りで去っていった。


「なんか…嵐みたいだったね。」

「おう。俺らも帰るか」

「そうしよ。帰ろう帰ろう」


 ノエルと肩を並べて帰る。年齢が違っても同じ学年で通えるのが士官学校の良いところだ。


 歯を食いしばれ──か。


 今まで一切厳しいことは言わなかった、君たちはまだ子どもだから。と口癖のように言っていた上官の姿に、気を引き締めろ。と言われた気がした。


 やってやろうじゃねぇか。見てろよ。

 この四年で、成長してやるよ。


 その日の夕暮れは、全てを赤く染めていた。

 空には、やけに大きな夕日が沈みかかっていた。

 

ここまで読んでくださりありがとうございます!

面白かったらブックマークやいいねしていただけると励みになります!


毎日朝7時に投稿しています。

応援、よろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ