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妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む  作者: 月焔 レイ
第一章 (1)【幼少期〜軍属編】
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第十一話 見習いのはじまり


「おかえりー。」


 ルークとノエルが執務室に戻ると、リア先輩とカイルさんがいた。

 ヴァイスさんとウィル先輩は会議に行っているらしい。


 リア先輩が「適材適所!二人はアルグレイ隊の頭脳担当ね!ちなみに私は可愛い癒し担当!」と言っていたら、遅れて執務室へ入って来た中佐に頭をはたかれていた。


「来年、兄弟は士官学校に入れる。宿舎から通わせるが、そのつもりで準備と説明を頼む」

「イエッサー!」

 

 元気よく返事をしたリア先輩を横目に見ると、中佐は部屋を出て行った。

 中佐が出ていくのを確認し、リア先輩は机に突っ伏した。


「へー。士官学校に入るんだ。私はもう行きたくなーい」

「大変なんですか?士官学校」


 机でばたついているリア先輩に向かって、ノエルが問いかけた。


「大変なんてもんじゃないよー。馬鹿みたいに走らされるし、時間厳守。お菓子も禁止だし、最悪だった」


 膨れているリア先輩に、グレインさんが鼻で笑った。


「リア少尉が緩かったから教官に目をつけられたんじゃないんですか?」

「なんで分かるの?グレイン天才?」

「見ていれば誰でも分かりますよ。」


 グレインさんの言葉にますます膨れたリア先輩は、遂に椅子を蹴り始めた。


「ウィルはそこら辺要領良かったから、見つからなかったんだよね。怒られるのいっつも私。同じことしてるのに。解せない」


 リア先輩の士官学校はどうやら大変だったらしい。怒っているリア先輩にルークは苦笑する。

 そろそろ一度話題を変えようと、部屋に入って来てから聞かなければと思っていた質問を投げかけた。


「そういえば、呼び方はどうしたらいいですか?」

「呼び方ー?」

「はい。軍に入るのに"さん付け"じゃ不味いですよね?」

「っていうか、何その敬語?気持ち悪い」


 せっかく気合を入れて丁寧に話したルークは、リア先輩には気持ち悪いと言われてしまった。少しだけ肩が落ちた。


「いいよー。外の目があるところで、ちゃんと呼んだり、話したりすれば。

 実際、今までも中佐も生意気言ってても怒らなかったでしょ?中佐にあの口調はなかなか勇気あるなと思ってたんだけど」 


 そう指摘され、ルークは顔が赤くなるのが分かった。

 子供じみているとはルーク自身も思っていたのだが、どうしても反発する喋り方がやめられなかったのだ。

 だから気合を入れて改めようとしたのに。


「まぁまぁ。だからさ、いいんだよ、いつも通りで。

 “ちゃんとしろー!”なんて言われたら、私潰れちゃう。だからアルグレイ隊で良かったーって思うんだよね」


 セーフとリア先輩が両手をスライドさせると、ショートカットのオレンジ色に近いブラウンの髪が揺れる。

 毛先が遊んでいる?とよく見ると、ミアとノエルが風を送って遊んでいた。何をしているんだと少し呆れた。


「士官学校ってどんなところですか?」


 たった今指摘もされたし、少し砕けた口調でいいだろうとルークは肩の力を抜いた。

 暫くはルークもこの話し方でいいだろう。ノエルについては元々丁寧な口調だから心配ない。


「んーとね。皆で訓練して、戦術の勉強して、現地で実習?たまーーーーに行事もあるって感じ。軍の学校だよ。んで、4年間通ったら卒業。一応試験もあるよ!卒業出来たら、少尉からスタート!私とウィルは二年前に出たから、まだ少尉なの」


 分かりやすい説明だった。つまり、階級を飛び級できるのか?


「でも、ルークもノエルも魔術使えるんでしょ?なら中尉か大尉くらいにはすぐなるかもね。魔法使いは昇格早いし。」

「そうなんですか?」

「そうだよー。だって、魔法使いが一人いたらそれだけで戦術が全然変わるんだよ。貴重だよ、そんな存在。」


 パタパタと忙しなく動く手足に、クルクル変わる表情。それなのに、ちゃんと仕事は進んでいっているようなのが解せなかった。リア先輩は一体どうなっているのだろう。


「ただいま。あ、話終わった?整理ついた?」


 リア先輩の器用さに半ば呆れていると、ヴァイスさん達が帰って来た。


「説明しますか?」とルークが聞くと、「どうせあとから中佐から書類で回るからいいよ。」と返ってきた。


 この人たちは、本当に中佐を中心に回っている。

 彼の言葉が、すべてなのだろう。


「それで、何話してたの?」


 ヴァイスさんがグレインさんに尋ねる。


「リア少尉が、士官学校の先輩風を吹かせてました」

「グレイン!何よ、その言い方!」

「はいはい。ちゃんと仕事してねー。リア少尉。」

「もう!ヴァイスさんまで!」


 キー!と叫んでいるリア先輩は、どこまでも皆の中心で、その存在は眩しく見えた。


「ん?どうした?少年よ。」


 目が合い、「お姉さんの魅力にやられたかね?」と腰に手をやり、覗き込んできたリア先輩は、ウィル先輩に引っ張られていった。


「街の巡回計画見直せって」

「えー。私らが?」

「しょうがねーだろ。指名だ」

「ふーん。」


 頭を突き合わせて書類を見始めたリア先輩たちはあっという間に計画の練り直しを進めていく。頭の切り替えが早い。


 その様子を呆気に取られてルークが見ていると、

「元気だねー。」とノエルは楽しそうに笑っていた。素直な弟が微笑ましくて頰が緩む。


「それで?士官学校に入るの?二人とも」


 ヴァイスさんが先程の話で気づいたのか、ルークたちへ話しかけてくれた。その問いにノエルが答える。


「僕が11歳なので、来年の春入学予定です。」

「そっか。寮に入るの?」

「いえ、魔術の勉強もあるから宿舎から通うよう手配すると」

 

「なるほどな。スムーズな囲い込みだ。」というボソッとしたヴァイスさんの呟きと黒い笑みに、「ん?」とルークが首を傾げると、「なんでもないよ。」といつもの笑みに戻り、ヴァイスさんが首を振った。


「じゃ、今年一年は見習いね。あそこの机使っていいから、魔術の勉強と、基礎体力付けときな。士官学校の訓練は結構しんどいよ。」

「分かりました。ありがとうございます!」

「ありがとうございます。」


 ヴァイスさんが使っていた教科書がまだ家にあるため、今度貸してくれるらしい。

 また、魔術の本を中佐が持っていると聞き、ルークとノエルは興奮が隠せなかった。


「え!?魔術の本あるんですか!?」

「それはね。中佐も一応特級魔法使いだよ。」

「聞いてはいたんですけど、そこには気づいてなかったです」


 考えてみれば当たり前である。ノエルと顔を見合わせて笑うと、目を細めたヴァイスさんは、「中佐に後で言っとくね。」と笑っていた。

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