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妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む  作者: 月焔 レイ
第一章 (1)【幼少期〜軍属編】
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第十話 軍に生きる覚悟


「ねぇねぇ、暇なんだけど」

「遊び行って来ていいよ」

「せっかく二人と話せるようになったのに…」

「今は無理だよ、夜な、夜」


 ルークとノエルに話しかけたミアとシルフィは、拗ねたように飛び回っている。

 二人は、人が周りにいるとあまり寄ってこない。朝食の時も、吹き抜けの上に並んで腰掛けて食卓を見下ろしていた。


「絶対ね。金平糖もね」

「ほいほい、ほら、先にやるよ」


 作った金平糖をルークがミアに向けて投げると、ミアは機嫌を直してクルクル回る。可愛い。ずっとそうしていてほしい。


「じゃ、俺らは行くから。」

「行くからじゃないわ、一緒に行くわよ」


 「当たり前でしょ。」

 と言った二人は、ルークたちの元へ急いで飛んできた。


 きっと今までもこうやって側に居てくれたのだろう。ルークとノエル、二人きりだと思っていた時間は、二人ではなかったのだ。そう思うだけで、心が温かくなる。 


 ルークたちが玄関を出ると、リア先輩と中佐の姿が見えた。


「お待たせしました」

「じゃ、行こうか。」

「レッツゴー!」


 兄弟がきょろきょろ見回すと、「ん?」とリア先輩が振り返る。

「他の方は…?」とルークが尋ねると、「準備があるから先に行ったよー。書類整理とかしてる。」と返ってきた。待たせてしまったらしい。


「ほら、ちゃっちゃと歩いて!」

 軽く蹴りながら、ケラケラと笑うリア先輩は朝から元気だ。昨日までの警戒が嘘のようで、昨日は本当に警戒されていたんだな、とルークはそっと息を吐いた。


「今日の昼ごはんはなにかなー?ノエルは何が好きなの?」

「僕ですか?うーん。ハンバーグ…ですかね。特別な日にしか食べられなかったから、好きです」

「これからはお姉さんが沢山食べさせてあげるからね!」


 リア先輩に抱きつかれたノエルは、年相応に顔を真っ赤にしている。

 ノエルも無事に馴染めそうでルークは安心した。


「いい奴らだろう。皆」


 その様子を隣で見ていた中佐がポツリと呟く。


「はい。いい人たちです。こんなに良くしてもらっていいのかと思うくらい。」


「…戦場では、私たちは一つのチームだ。お互いに命を預けるし、預けて来た。

 君たちは戦場に出るのはまだまだ先の予定だが、覚悟はしておけ。

 私たちに命を預けられるかどうか。

 

 それが、戦場で生き残れるか否だ。」


 雑談のように言われた言葉にルークは息をのんだ。


「味方を信じられない人間から、死んでいく。」

 

 そう遠くを見る中佐の目は、戦場に立つ戦士の目だった。命が散る瞬間をどれだけ見て来たのだろう。


 見上げた朝の碧い空に、鳥が飛んでいく。


 同じ空の下、戦地となっている場所では、命のやり取りが行われているんだろうか。

 知識としては知っていたはずのものが、急に生々しく身近となった気がした。


 それが、これから自分たちが歩む道なのだ。

 それでも、自分たちらしく生きてみせる。


 ルークはぎゅっと手を握り、「はい」と答えると、「今は、とにかく慣れなさい」優しい低い声とともに、頭に大きな手がポンと置かれた。

 中佐の、不器用な優しさだった。


 ⸻⸻


「リア、来るのが遅い。」

「帰りたーい」

「殴ってもいい?」

「殴ったら泣いちゃう。」


 騒がしい始業の合図。それは双子の戯れからいつも始まるらしい。この隊のムードメーカーはきっと二人なのだろう。


「兄弟はこっちだ。調書を作る」


 中佐に呼ばれ、執務室に続きに作られた応接室にルークとノエルは入った。

 廊下側にも扉があるところを見ると、そちらからも入ることが出来るようだ。

 二人がソファーに腰掛けると、ヴァイスさんが紅茶を持ってきてくれた。

 

「コーヒーより、こっちかなって」

「こんなの、ほとんど飲んだことないですよ。いつも水です」

「そういえば、孤児院だったっけ…所作とか綺麗だし、意識しないと全然わかんないんだよね。」

「両親がしっかり仕込んでくれましたから」

「優しいご両親だったんだね。」


 ヴァイスさんは、ルークとノエルが村の生き残りであることは知らない。ルークの発言から、事故か何かで亡くなったと解釈したのだろう。

 優しい目をしたヴァイスさんは優しくルークの頭を撫で、部屋から出て行った。

 ここの人たちは、頭を撫でるのが好きらしい。


「どこまで書くか…悩ましいな。」

「魔術が使えることは、書いていいですよ。」

「お前たち、軍の中で魔法使いがどう扱われているかは聞いたことが?」

「んー。軍属になるくらいしか聞いたことないです」


 そう答えると、中佐は簡単に説明をしてくれた。

 まず、魔術が使えると言うだけで一旦軍属になるらしい。それは知っていた。だから逃げ続けていたのだから。


 そこから、魔法使い(魔術が使える人間)は特級、上級、中級、下級へと試験結果により分けられるらしい。


 特級は国家レベル。

 上級が地方上級レベル。範囲魔法が使える程度。

 中級が地方下級レベル。簡単な戦闘魔法等が使える程度。

 下級が日常生活レベル。高官や王都の王城で働くことが多いらしい。


 魔法使いというだけで、生活は保障され生涯安泰だそうだ。そんな生活は望んでいないけれど、もう逃げることはできない。腹を括るしかない。


 そこまで考えたとき、ルークはふと疑問が浮かんだ。


「あれ?そういえば、中佐は魔術使えるんでしょ?階級なに?」

「私か?私は特級だ。」

「え、すごいじゃん。」

「凄くはない。君が昨日見せたようなレベルの魔術は使えない。」

「いや、俺も無理だぜ?あれは、必死だったから発動しただけ?まぐれ?もっかいって言われても無理だから、そこら辺も宜しく。」

「そうなのか…」


 と顎を撫でる中佐に、ルークはさらに質問を重ねる。


「じゃあさ、中佐はなんの魔術なの?」

「私は、結界魔術の使い手だ。そういう君たちは?」

「俺は水。」

「僕は植物です。」 


 兄弟の答えに、興味深そうに中佐の目が細まる。


「なるほど。どの程度できる?」

「俺は、ウォータージェットで、精度は低めだけどある程度の物を切れるくらいなら。弱い魔獣くらいなら倒せる」

「僕は、グロウフラワーで植物の成長を促進させるくらいですね。蔓を伸ばして拘束するくらいなら大丈夫です。」

「であれば、ルークは上級、ノエルは中級といったところか…?だがなぁ。」


 腕を組み、天井に視線を彷徨わせた中佐は何かを考えている。二人はそれを邪魔しないよう、黙ったまま見守った。


「よし、決めた。君たちの軍での設定はこうしよう。


 ルークは、12歳。男。中級魔法使い。試験では、遠くの的に当てる程度の実力でいくように。

 ノエルは、11歳。勿論男だ。下級魔法使いで、試験では少し植物を伸ばすくらいで止めよう。


 実力よりも低くみせる理由は、目をつけられないためだ。

 その年齢で上級と中級の魔法使いは目立ちすぎる。 


 あまりにも目立つと私でも保護できなくなるからな。ルークの事情もある。

 私の手元にいた方が安全だろう。何より、私が手放すつもりがないからね。もう少し私が出世するまで待っててくれ。


 ノエルが12歳になったら、二人とも士官学校に行ってもらう。原則は士官学校の宿舎に入ることになるが、お前たちは既に軍に住んでいるようなものだ。そのままアルグレイ隊の宿舎から通うように。 その方がルークも性別を偽りやすくていいだろう?」


 最大限にこちらの要求を飲んでくれる中佐の姿勢に、逆に警戒してしまう。

 そんなに差し出されても、素直に受け取れるほど兄弟は純粋ではなかった。


「何が目的…?」

「昨晩と先ほども伝えたとおり、君たちには私の手元にいて欲しい。私はもっと上に行く。

 力になってくれたら嬉しい。」


 力になれ、ではなく、なって欲しい…か。


「俺らは、他の人たちみたいに中佐のために命はかけられないぞ。」

「まだ信頼関係も何もないところで、命をかけますと言われるより余程誠実だな。」


 ああいえば、こういう。だが、悪い気分じゃなかった。


「分かりました。これから宜しくお願いします。」

 

 ソファーから立ち上がり、ルークは頭を下げた。

 上官になるからには、口調も改める。ルークなりのけじめだ。


 隣に座ったままのノエルに、お前はどうする?と目で問いかける。これは、自分だけの選択だ。誰にも強制されるべきものではない。

 

「僕に出来る限り、力になります。既に皆さんには良くして頂いてますし、これからもきっとしていただけるんでしょう。善意には全力で報います。」


 そう話す弟は、いつの間にか大きく成長していた。誰に言う訳でもないが、胸を張って自慢できる。泣いてばかりだった弟は、こんなに大きくなったんだぞ。と。


 だが、誇らしい気持ちで見守っていた弟が不穏な言葉を付け加え始めた「ただし」と。

 何を言い始めるつもりだとハラハラしていると、


「ルシアのことは――認めません。」


 弟は、強い視線で中佐を貫いている。

 ルークは弟の言葉の意図が分からなかった。

 

「ルシア?お姉さんの名前かね?」


 チラッと中佐はこちらを見た。


 最近、その名前をよく聞く。

 聞くはずのない名前だったはずなのに。


「私にも、守備範囲というものがあってね。流石に範囲外だよ」


 中佐はノエルにそう伝え、ヒラヒラ手を振っている。「そうですか。」と納得してなさそうな弟は、それ以上何も言わなかった。


「よろしくお願いします。」


「ああ。こちらこそ、よろしく頼む。平凡な人生では無くなるだろうが、まぁ、退屈はさせないよ。」


「こちらで調書は仕上げておくから、君たちは士官学校についてノアや双子に聞きなさい。彼等も卒業生だ」と執務室に戻された。


 

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