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3-3


 トントントン……包丁で野菜を切る音が聞こえます。どうやら私は洗濯物を畳んでいる途中で眠ってしまったようです。夢を見ていたのです。そうです、夢です。夢じゃなかったら廃屋に忍び込もうなんて考えるはずがありません。

 時計を見ると、すっかり夜でした。私は掛けられていたブランケットを畳み、お母さんの居るキッチンへ向かいました。


 翌日、図書室でサボテンの育て方の書かれた本を借りました。学校が終わるとすぐに教室を出て、帰り道にあるコンビニへ向かいます。慣れないコピー機に苦戦しながらサボテンのページをコピーしていると、背後から声をかけられました。


「あんた真面目そうだけど性格悪そうで、でも真面目だな」


 山田さんでした。今のは悪口だったのでしょうか?

「だって枯らしたくないもん」


 コピーが終わったので、本とコピーした紙をしまってコンビニを出ます。


「あれ、何も買ってかないのか?」

「そんなにお金持ってきてないから」


 私の通っている学校では、いざという時の為に少額のお金を持ってきて良いことになっていました。しかし、山田さんが持っているビニール袋に入っているお菓子の量は、私の思っている少額とだいぶズレがあるようです。


「一個恵んでやろうか?」

「その一個の恩でこき使われそうだから、要らない」


 山田さんは生返事をしながら、袋からアイスを取り出します。アイスの入った二つの容器がくっついていて、パキッと二つに分けられるやつです。

 パキッと分けて片方を私に突き出します。


「アイス一個でクラスの勢力情報と交換でどうだ?」

「安いし、勢力ってつまり何の話をすればいいの」


 要はクラスの人間関係について知りたいようでした。私は数十円くらいのアイスを受け取って、分かる限りのクラスメイトのことを話しました。


 ゆりあさんは真面目な人です。ルールを守るというよりも曲がったことが嫌いという感じです。時々周りが見えなくなるほど感情的になってしまいますが、基本的には皆から信頼されています。


 堂本くんはとても活発でクラスの中心にいる男の子です。中島さんは自分こそクラスのリーダーだと思っていたみたいですが、実際にはゆりあさんと堂本くんがクラスの皆をまとめていました。


「あんたいつも一人で帰ってるけど、友達居ないの?」

「山田さんに言われたくない。ハルちゃんとみやちゃんとは仲良いけど、ハルちゃんは家反対方向だし習い事で忙しいみたいだから学校の外ではあんまり会わない。みやちゃんも家の店で忙しいみたい」

「ふーん。じゃ、あの派手なグループは? 男女混ざってて金髪が居る」

「知念くん達は良く分かんないよ。あの人達いつもあのグループで固まってて他の子と交流しないから。あ、茶髪でいつもキラキラな髪飾りを着けてる子は隣のクラスだよ」

「あー、だからあいつだけ居たり居なかったりしたのか」


 ゴールデンウィークが終わってすぐの時に、こっくりさんをしていたグループです。あの日は全員動揺していましたが、今では何事もなかったように過ごしているので大丈夫だったのでしょう。


「他に目立つ奴いる?」

「うーん……うちのクラスって結構バラバラだから」


 ゲームやアニメの話ばかりしている男子のグループと女子のグループ、お洒落が好きなグループと多分スポーツの話をしているっぽいグループ……あまり話をしたことがない子は良く分かりません。後はいつも一人でいる松岡くんでしょうか。


「まあ、大体分かった」


 山田さんがまとめていた髪を解き、綺麗な髪がサラッと広がります。


「また悲鳴上げられちゃうよ」

「もう家に帰っただろ。髪縛るの苦手なんだよ。何か引っ張られるのが」


 手に持っていたビニール袋をグルグル振り回しながら山田さんは離れて行きます。このまま私と別れるつもりなのでしょう。バイバイと言う仲でもありませんから、それで良いのでしょう。私も山田さんにならって家に向かって歩き出します。


「なあ」


 振り向くと、山田さんは屈託のない晴れやかな顔をしていました。


「お化けって楽しそうだな。イタズラしまくっても罪に問われないんだぜ」


 ランランと目を輝かせる山田さんの頭には恐ろしい計画が浮かんでいるようでした。


「でもお化けって物に触れられないからできること限られてるよ。知らないけど」

「じゃあ目指すのは透明人間か」


 山田さんは勝手に大笑いした後「じゃあな」と言って走って行きました。本当に良く分からない人です。


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