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3-1

 ゆりあさんの一件は、いつの間にか「学校の児童が黒姫さんに襲われた」という噂になっていました。あっという間に学校中に広がり、校庭を歩いていてもトイレへ行っても誰かしらが黒姫さんの話をしていました。とは言え、あまり怖がっている様子はなくて、娯楽のようなものでした。


 山田さんはあれから髪をまとめるようになりました。山田さんが行く先々で小さな子がお化けと間違えて悲鳴を上げるからです。流石の山田さんもうんざりしていました。

 私にとっても困ったことが起こりました。学校が終わると、すぐに帰るように先生達に言われるようになってしまったのです。教室に残ろうにも、先生は児童全員が教室から出るまで教室から出ませんし、何処か別の所に居ても見回りの先生に見つかってしまいます。今まで全然気にしてなかった癖に、急に目聡めざとくなって困ります。仕方がないので、ここ数日はダラダラ遊びながら家に帰ります。


 学校近くから蹴り続けていた小石を見失って仕方なくパッと顔を上げると、帰り道の先のお化け屋敷近くに人影が見えました。近づいてみると山田さんでした。お化け屋敷の中をじーっと見ています。

 嫌な予感がしたので気づかれないようにそーっと通り過ぎようとしましたが、駄目でした。


「なあ、ここ黒姫さんってのの家なんだろ」


 山田さんはお化け屋敷を指差しながらニコニコ笑っています。


「そういう噂があるだけだよ」

「ふーん」


 山田さんの目は、今まで見たことがないほどキラキラと輝いています。私は構わずに山田さんの横を通り抜けようとしましたが、山田さんに「ねぇ」と呼び止められてしまいました。流石に無視はできません。


「あんたの家の隣の人、行方不明になってベランダが酷いことになってるんだろ? 見たいから付いて行っていい?」


 イラッとしました。芝原さんのことを面白がってると思いました。


「嫌」


 私は山田さんを無視して歩き出しました。後ろから山田さんが付いてくるのは分かっていたのでデタラメな道を進み、時間いっぱいかけて遠回りをしました。

 空はすっかり色を変えてぼんやり暗くなっていき、山田さんの気配も消えました。もう大丈夫だろうと家へ帰ると、何故か山田さんが私の家の前に立っていました。


「遅かったな」


 開いた口が塞がりません。


「もうベランダ見終わったから帰るなー」


 山田さんはそのまま私の家から離れて行きました。私の今までの苦労は一体何だったのでしょうか? 呆然と山田さんの後ろ姿を見ていると、急に山田さんが振り向きました。


「そうだ、これ見つけたんだけど」


 私に見えるように掲げたそれは、黄色い小さな植木鉢に植えられたサボテンでした。


「それ、どうしたの?」

「生き残り」

「ベランダに入ったの!」


 信じられませんでした。他人の領域に無断で入るなんて私には考えられない行為でした。それを山田さんは悪びれもせずにやったのです。しかもそこにあったものを持ち出したのです。


「何してんの、泥棒じゃん」

「じゃあ、こいつも枯れるまでほっとくの?」

「それは……」

「見殺しにするんだ」

「……」


 よその家のベランダに入ることは良くないこと、そこにある物を持っていくことも良くないことです。でも命を粗末にすることの方が悪いことのように感じます。

 植物が枯れてしまいそうでも持ち主の許しがなければ何もしてはいけないのでしょうか? それはその植物が持ち物扱いだからでしょうか? でもそれは人間が勝手に決めたことで植物にとっては関係ないことで、それで命の危険に晒されるのは……頭がこんがらがってきました。


「いいよいいよ、私が持って帰るから。草の世話なんてしたことねぇけど」

「待って」


 山田さんの大きくてはっきりとした目が私を見ています。思わず後退りをしてしまいそうでしたが、ぐっとこらえました。


「芝原さんが帰ってきたらすぐに返したいから私が預かりたい」

「ふーん」


 ぽん、とサボテンを渡されました。私の知ってる芝原さんなら、全部枯れてしまっていたら悲しむでしょう。良いとか悪いとかじゃなく、ただせめてこのサボテンだけは守りたいと思いました。


 山田さんは帰りました。私もサボテンを抱えながら家の玄関へ向かいます。途中目に入った祠には、何故かフルーツの形の飴がピラミッド型に積まれていました。

 山田さんのイタズラでしょうか? お供え物でしょうか? 灰色の髪のお兄さんの可能性もあります。気にはなりましたが、お供え物かもしれないものを勝手に片付けるのも悪いので放って置くことにします。


 ドアを開け、誰も居ない部屋に「ただいま」と言います。取り敢えずサボテンをテーブルの上に置いてランドセルを片付けます。お母さんはまだ帰りません。

 お母さんはとても忙しい人です。何故なら父も頼れる親戚も居ないからです。お母さんはいつも仕事に追われていて、家に居ても忙しなく動いています。お母さんはこんなにも頑張っているのに家の中には余裕がありません。


 私にできることは掃除や洗濯物を取り込むことくらいです。せめて晩ご飯でも作れれば良いのですが、お母さんが料理をすることを許してくれません。私はそんなにも頼りないのでしょうか?

 洗濯物を取り込みます。取り込むといっても平日は部屋干しをしているのでただ下ろすだけです。洗濯物を畳みながらサボテンのことを考えます。勢いで預かってしまいましたが、世話の仕方が分かりません。


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