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朝、姫ちゃんに今日会えないかメッセージで訊いてみました。返信はすぐに来て、今すぐにでも大丈夫とのことです。
「じゃ、ショッピングモール待ち合わせにしようぜ。私、日焼け止め買いたいし」
「分かった」
一時間後にショッピングモールの中央、ベンチの置いてある場所で待ち合わせです。
準備して約束の時間よりも早く到着しましたが、姫ちゃんはすでに待っていました。ただ、姫ちゃんはいつもと違ってシンプルな格好で、髪は二つに束ねただけで靴下もチグハグです。
「大丈夫?」
挨拶よりも先にそんな言葉が出てきてしまうほど姫ちゃんは疲れ切った表情をしていました。
「みかっちと連絡取れない。れおれおは風邪引いただけだって言ってるけど、みかっち熱があってもスタンプくらいは返してくれたのに全然何もなくて……それに」
ふにふにと姫ちゃんが触っていたぬいぐるみのキーホルダーを持つ手に、力が入りました。
「姫のお母さん、みかっちは親戚の用事で居ないって、全然違うこと言った」
「少なくとも一人は嘘ついてるってか。全部嘘な気がするけどな」
「でも、それなら知念くんは本当のこと知ってるんじゃないの? 知念くんとは直接会って話したの?」
姫ちゃんが首を振って否定します。
「忙しいから会えないって。家に行ってみても居留守なのか本当に留守なのか分かんないけど居なかった」
「もう一人居たよね。王子くんは? 王子くんも三日月さん達と一緒に行動してたんだよね」
「王子は誰とも話したくないって部屋に引きこもっちゃった。お父さんお母さんとも話できなくなっちゃったって」
知念くんと王子くん。二人はきっと三日月さんの本当のことを知っているのでしょう。
「姫ちゃん、一応念の為に三日月さん達のこと……家の場所とか話せる範囲で良いから教えてくれないかな。手がかりになるかも知れないし」
「うん」
姫ちゃんは色んなことを話してくれました。三日月さんの家、知念くんの家、王子くんの家、ご両親の職業、良く遊んだ場所……忘れてしまわないように必死にメモを取ります。
「そんなに個人情報べらべら喋って良いのかよ」
「言い触らしたりしないでしょ? ガキじゃないから」
山田さんがバツが悪そうにそっぽを向いてしまいました。
「何か話したら気が落ち着いてきた。髪でも切ってこうかな」
「急だな」
「髪切ったら運気上がるって、どっかに書いてあったし」
別れる時、姫ちゃんはほんの少しだけ元気になったように見えました。
山田さんの日焼け止めも買い、折角来たからと二階をぶらぶら回ります。ヘアクリップを綺麗に陳列しているアクセサリーショップがありました。ガラスのコップのような器に立てられたヘアクリップはどれもキラキラと輝いています。
「山田さんはこういう大きいクリップで髪止めたりしないの?」
「寝転がった時、痛いじゃん」
「ずぼらだよね」
気になったヘアクリップを、一つ取ろうと手を伸ばします。近づいて気づきましたが、ヘアクリップの後ろ側にはより綺麗に見せる為か鏡が置いてありました。
「あっ」
鏡越しに目が合いました。反射的に振り返りますが、その子の逃げる後ろ姿が一瞬見えただけでした。
「どうした?」
「いや、何か鏡越しに目が合っちゃって、一瞬だったから顔とかも良く分かんないんだけど」
見られていたような気がします。でも確証はありません。
「もう帰るか」
「うん」
エスカレーターで一階に下りて、イベントが始まったばかりの吹き抜け広場の横を通り抜けます。やっぱり視線を感じます。
吹き抜け二階の手すりから、近くの小物売り場から、イベント用の席から、こちらを見ている子供がいます。山田さんも気づいたようです。
「気味悪い、あっち行くぞ」
呉服店や布団売り場など、子供があまり近寄らない方へと移動します。見ていた子供達はただ見ているだけで追いかけてはきませんでした。そのまま近くの出入り口から外へ出ます。
「何なんだあいつら」
「分かんない。一、二年生くらいかな」
ショッピングモール敷地内に車が一台入ってきました。父親らしい人が運転していて、助手席に母親、後ろの席に小さい子供が乗っていました。ニコニコ笑っていた子供が私達を見た瞬間、スッと表情をなくしました。車はそのまま走って行ってしまいました。
山田さんが無言で私の手首を掴んで進んで行きます。並木で影になっている細い坂道を下ります。
しばらく私達は何も言わずに、足早に道を進みました。暑さのせいなのか歩き疲れたからなのか分かりませんが、息が上手く吸えないような感覚が続いて苦しいです。静かな住宅街の車も入ってこれなさそうな細道まで歩き、ようやく山田さんが止まります。
「なぁ」
「うん?」
「ここどこだ?」
「……えっ!」
気づけば私も知らない場所でした。家はたくさんあるのに何処も閉め切っているからでしょうか、人の気配を感じません。進んだ方向から考えれば大体の位置は分かりますが、四方八方似た家がずらっと並んでいて、ここから出られなくなるんじゃとか良く分からない思考になってきます。
「多分あっちの方角に行けば分かると思うんだけど」
何とか住宅街を抜け出して、だだっ広い農地の真ん中を通る砂利道を歩きます。進んでも進んでも、進んでいる気がしないほどずっと続いています。
「あっっつい、日陰ぇー」
「ほら、突き当たりまで行けば林があるから」
その林までがとても遠かったです。
やっと辿り着いた林の近くには、砂利の敷かれた広場がありました。車が数台停まっていて、端にプレハブの建物が建っています。「焼きそば」と書かれていますが、営業しているのでしょうか?
「自販機ある。何か買おうぜ」
そこにあった自動販売機はメーカーのものではなく、個人が好きなものを入れて販売しているものでした。全部百円ですが、見たことのない飲み物ばかりです。私はまだショッピングモールで買ったペットボトルのジュースが残っていたので、山田さんが買うのを見ていました。
ジャリ。
真後ろから足音がしました。さっきまでのことがあったので、思わず「きゃあ」と声が出てしまいました。
「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだけど」
堂本くんでした。




