6-13
自警団の人の情報によると、花を使った黒姫さん対策は夏休みに入ってから爆発的に流行り始めてしまったものらしいです。
「ただ、玄関前に花を置くってのは聞いたことがなかったよ。他にも見かけたって人いる?」
「みやは見たことない」
「僕もないな」
そういえば山田さんの家の近くでも見たことがありません。
「まだその地区だけなのかな。広がる前に何とかできるといいけど……情報ありがとう。何か分かったら知らせる。後、変になっちゃったお友達は刺激したいように。下手に否定したり説得しようとすると逆効果だから」
「分かりました」
通話が終わります。
「どうしようか」
「あの人達に任せるしかないんじゃないかな。私達が変に動いても邪魔しちゃうだけかもしれないし」
「そうだな。あんなん、どうしようもねぇだろ。ほら」
山田さんが指差した先には、小さな子供が数人集まっていました。さっきハルちゃんが居た花壇で花を探しています。
「……もう行こっか」
私達は複合施設に戻りました。ここにも小さな子供がたくさん居ましたが、ほとんどが学校へ行く前の幼い子ばかりで、何も知らずに無邪気に笑っています。あの子達まで「黒姫さん」って言い出したら、もうおしまいな気がします。
「まるで宗教みたいだね」
エントランスのベンチに座って、ぼんやり出入り口を眺めていた松岡くんが言います。
「黒姫さんって祟り神から身を守る為の宗教。こうやって宗教って生まれてくるのかな」
「いやいや、宗教って大袈裟な。子供の戯言ってやつだろ」
「……子供の間だけで収まってれば良いんだけど」
「……」
にいなママや不審者騒ぎのことが頭を過ぎります。大人が率先して祟りだ呪いだと言っていたら子供だって信じてしまいます。この問題は大人を先に何とかしないといけません。でも、どうすればいいのでしょうか……。
「山本沙那さんが無事見つかれば祟りとが全部あやふやになる気がする」
思ったことが、つい口からでてしまいました。
「そうだね、本当に行方不明事件が起きちゃったからここまで悪化したんだろうしね」
「事件解決するまで待つしかないってことか? 一体いつになるやら」
「そういえば沙那さんのお母さん、精神がおかしくなって遠くの病院で入院してるそうだよ。彼女も祟りだなんだって言ってたらしい。弟に続いて娘まで消えちゃったら仕方がないとは思うけどね」
「そうだ松岡くん、山本沙那さんの母親の……旧姓だと小泉さん? の友達って分かる?」
「小泉礼子さんね。大体は分かるけど、一人はみんな知ってるにいなちゃんのお母さん、安倍円さん。今は土井さんかな」
「はぁ!」
「ええっ!」
山田さんとみやちゃんが驚き過ぎて飛び退きます。私も驚いてはいたのですが、二人の方にびっくりしてしまいました。近くを通る数人が、不思議そうに私達を見ています。
「そうなの?」
ちょっと小声になりました。
「らしいよ。ノートくれた人が言ってた。後は名前しか知らないけど大場佐里菜さんと、葉月小百合さん」
「葉月!」
山田さんがまた叫び、また周りから注目されてしまいました。
「葉月に心当たりがあるの?」
「そいつは……」
山田さんの服をぐっと引っ張ります。
「姫ちゃんとの約束」
「チッ、分かったよ。許可を取れば良いんだろ」
山田さんはスマホを手にして離れて行きます。見ているとツンツンと肩を突かれました。振り返ると、みやちゃんが心配そうな顔をしていました。
「みや、何のことかさっぱり分かんないないけどさ、力になれることなら何でも協力するよ」
「……うん、ありがとう」
山田さんが戻ってきました。
「何か、姫こっち来るって言ってんだけど、松岡時間ある?」
「あるけど、姫って小川姫さん?」
山田さんがこちらを向きます。
「名字知らねぇけど、合ってる?」
「合ってるよ」
「山田さん、あの子と仲いいの? みやも話したことないのに」
「別に仲良い訳じゃねぇよ。あ、あんた口堅いか? 軽い人なら困るんだけど」
「みや、秘密って言われたものは喋んないよ。ってか、みやと芽生ちゃんはそろそろ時間だから行かないと」
今日はみやちゃんのお父さんのお見舞いに相乗りさせてもらって、病院に連れて行ってもらうことになっていました。
「じゃ、ここで別れるか」
私とみやちゃんは病院へ、山田さんと松岡くんは姫ちゃんと会うことになりました。




