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6-12


 朝の九時を過ぎた頃ですが、すでに玄関の外は心が折れてしまいそうな熱気に覆われていました。山田さんと共にやっとの思いで辿り着いた複合施設は、ゾワッとするほど冷房が効いていて体に悪そうでした。


「居た居たー、こっちだよー」


 人混みの中、みやちゃんが手を振っています。


「何か人多いな」

「今日はイベントがあるらしいよ」

「じゃ、さっさと図書館行こうか」


 図書館も、エントランス周辺ほどではありませんが人が多く居ました。テーブル席が空いていないかと探していると、松岡くんが居ました。タイトルだけでも難解そうな本を読んでいます。


「お前、もしかしていつもここに居るのか?」

「本がたくさんあるからね」

「他空いてないから、ここに一緒に座ってもいい?」

「いいよ」


 取り敢えず席を確保することはできました。


「あーそうだ、みんなゆりあさんがどうしてるか知らない?」


 みやちゃんが訊きます。そういえば、ゆりあさんの話は夏休みに入ってから何も聞いていません。山田さんも松岡くんも分からないようです。


「入院してるのかどうかも分からないんだよね。お母さんも家族とも連絡取れないみたいだし、どうしちゃったのかな」

「流石に島倉先生なら知ってるんじゃないの?」

「プライベートなことだから教えられないって」

「その言い方なら知ってて話せないんじゃないのかな。瀬戸内さん側から口止めされてるのかもね」

「ええっ、大丈夫かな」

「こればっかりは話してくれるのを待つしかないんじゃないのかな」


 雰囲気がずんと暗くなってしまいましたが、気を取り直しましょう。今日は読書感想文の本を探しに来たのです。荷物を松岡くんに任せて、私達三人は本棚に向かいました。


「みや、読書感想文苦手なんだよねー。そもそも何の本読めば良いのか分かんないし」

「うちの学校は本の指定ないから、好きなので良いんじゃないかな。図鑑とか」

「そっか、小説じゃなくてもいいのか」

「いや、図鑑の感想って何書くんだよ」

「じゃあいっそこの本は? 『文章の書き方』」

「書き方を学びながら書けるね」

「ハードル上がらないか?」


 結局みやちゃんは世界の郷土料理の本を、山田さんは何故か宝石の見分け方の本を選びました。私は既に読書感想文は書き終わっていたので何となく目についた、本当にあった事件や事故についての本を手に取りました。何か参考になればと思ったのですが、思っていたよりも内容が怖くて、読むのをすぐに諦めてしまいました。


 そうだと思い、夢の中で倉のあった山本家の場所をスマホで検索してみました。山本家の大き過ぎるお屋敷はありましたが、倉と近くのお手伝いさんの家はなくなっていました。

 お昼になりました。フードコートはイベントのせいで大混雑だったので、私達は諦めて外へ出ました。ちょっと歩いた所にコンビニがあるはずです。


 外はびっくりするほど暑かったです。でも数分の距離なので我慢してコンビニへ向かいます。


「松岡もコンビニか」

「他に選択肢ないでしょ」


 コンビニまで何とか辿り着き、食べ物と飲み物を買います。問題はこれを何処で食べるかです。


「エントランスに入ってすぐならベンチあるんじゃない?」

「流石に外じゃちょっとね」

「あれっ」


 みやちゃんがコンビニの前を通る道路をじっと見ています。私もそっちに目を向けると、道路の向こう側にある花壇の前で誰かがしゃがんでいます。


「あれ、ハルちゃんじゃん。どうしたんだろ、気分悪いのかな? ちょっと見てくる」


 みやちゃんがコンビニを出てハルちゃんの所へと向かいました。みやちゃんに声をかけられて振り返ったハルちゃんの手には、何故か花が握られています。

 ハルちゃんとみやちゃんが話をしています。遠いので流石に何を話しているかは分かりません。ただ、ハルちゃんの顔はにこやかで、具合が悪いとかではなさそうです。しばらく話をして、二人は手を振って別れました。ハルちゃんが角を曲がって姿が見えなくなると、みやちゃんが血相を変えて戻ってきました。


「ヤバいヤバい」


 山田さん以上に動じないみやちゃんが動揺しています。


「何か、何か花びら集めて袋に詰めて人形にすると、黒姫さんを誰かになすり付けられるって、嫌いな人とかどうでもいい人にこの人形を押し付けると安心だよって、花ブチブチむしりながら、すっごい笑顔で言ってて」


 え、何でそんな変な冗談言うの? と一瞬思いましたが、みやちゃんはそんな冗談を言う子じゃありません。冗談を言っているような様子でもありません。私もサーッと血の気が引いていきました。


「黒姫さんを擦り付ける?」

「何かそう言ってた。黒姫さんは花に寄ってくるからって」

「蜜蜂かよ」

「どうしよう、ハルちゃん変になっちゃった」


 みやちゃんがこんなに狼狽うろたえているのを見たことがありません。


「取り敢えずあの人達に言ってみる? ほら六年生の自警団」

「そうだね、何か知ってるかもしれないし」


 コンビニの迷惑にならないよう外へ出ます。気温なんか気にならないほど混乱しています。

 みやちゃんが自警団の人と連絡を取っている間、私はアパートで見た花のイタズラを思い出していました。黒姫さんは花に寄ってくる。あれも押し付けの一種だったのでしょうか? だとしたら……ゾッとします。


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