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2-4

 それから何日も過ぎて、五月ももうすぐ終わる頃になりました。私は重大な決断を迫られていました。

 教室の本棚にある残りの本がつまらないのです。


 読んでも読んでも頭に入ってきません。一体何について書かれているのかすら全然分かりません。読書がこんなにも苦痛に感じたのは初めてです。本棚の本を全部読むという目標の為に我慢して読み進めていましたが、こんなに苦しんでまで達成する必要があるのか分からなくなりました。

 本を閉じ、休憩します。今日はどんより曇っていて、肌寒いせいか休み時間の教室はいつもより人が多く居ました。今にも雨が降り出しそうですが、傘を持ってきてないので本当に降られたら困るな、と思いながらぼんやり窓の外を見ます。


 バタバタ……やたらとうるさい足音が廊下から聞こえて来ました。


「山田ぁ!!」


 耳をつんざくほどの大きな怒鳴り声でした。教室の入り口に、顔を真っ赤にしたゆりあさんが立っていました。鬼のように険しい表情で、いつも綺麗にまとめられている髪もボサボサです。


「何?」


 山田さんは机に突っ伏して寝ていました。ゆっくりと顔を上げた山田さんもまた不機嫌そうに怖い顔をしています。


「何じゃないわよ、とぼけるな!」


 普段は言葉遣いの丁寧なゆりあさんですが、怒り出すと途端に口が悪くなって手が付けられなくなってしまいます。


「はあ? 何」

「さっき階段でだよ」

「……はあ?」

「ふざけるな!」


 ゆりあさんが叫びながら山田さんに掴みかかります。教室中で「きゃー」と悲鳴が上がり、男子が慌ててゆりあさんを抑えます。「離せ離せ」と暴れ続けるゆりあさんの声はどんどん枯れていきました。


「私のこと階段から突き飛ばしておいて白々しい! 信じられない、危うく下まで転げ落ちる所だったのよ、この犯罪者! クソ野郎! さっさと捕まれ!」


 呪いの言葉のような醜い罵倒が教室中に響きます。そんな状況でも山田さんは逃げもせずにたたずみ、珍しい動物でも見るような目でゆりあさんを観察しています。


「落ち着け、山田はずっと教室にいた」


 ゆりあさんに殴られながら堂本くんが叫びます。


「山田の味方をする気!」


 唸り上げた声に、近くに居たハルちゃんが驚いて耳を塞ぎながらうずくまってしまいました。


「味方も何も本当のことなんだよ、なあ!」


 堂本くんが辺りにいた子に顔を向けると、その子は戸惑いながらも頷きます。それでもゆりあさんは信じてくれません。


「嘘よ! だって私見たもん、髪の長い奴が逃げるのを。あれだけ髪が長いのにまとめてなくて、いつも着てる黒いスカート……」


 ゆりあさんがピタリと動きを止めました。


「黒いスカート?」


 教室中がザワザワと騒がしくなりました。確かに山田さんはよく黒や紺色や深い赤などの暗い服を着ていました。でも今日は薄い水色のポロシャツに明るい青のキュロットスカートです。いくら逆光だったとしても黒には見えません。


「あれ……」


 ゆりあさんは呆然とした後に顔が真っ青になりました。


「ごめんなさい……私、勘違いして、長い髪でてっきり山田さんかと思い込んじゃって……ごめんなさい」


 山田さんはいつも髪をまとめていません。まるでシャンプーのCMのように腰まであるストレートな髪をなびかせています。他にも髪の長い子は居ますが、みんなポニーテールにするなり三つ編みにするなりしてまとめています。全くまとめずに、そのまんまなのはこの学校には山田さんしか居ません。


「でも本当に突き飛ばされたのよ。あれは一体誰だったの?」


 沢山の人があれこれ好き勝手に話し出したので、一人一人何を言ってるのか良く聞こえなくなりました。しかしある一言だけは、誰が言ったのかは分からないけど、その一言だけは何故かはっきりと聞こえました。


「黒姫さんじゃない?」


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