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6-10


 朝、山田さんに頼んで家に帰るのに付き合ってもらいました。

 家に忘れてきてしまったノートと、郵便受けに何か届いていないかチェックしなければなりません。あと、祠も気になります。日陰とはいえ連日の暑さで供えた花はすぐに萎れてしまいます。お母さんが怪我をしてから一度も取り替えていないので、今頃花はへにょへにょでしょう。


 家の近所まで来ました。たった数日しか離れてないのに凄く久し振りな気がします。アパートが見えてきて、各部屋のドアが並んでいるのも見えてきます。


「え、何これ?」


 ドアの前に花が置かれていました。お花屋さんで売られているような立派なものではなく、雑草や花壇で育てられているような馴染みのある花です。それが一階の全てのドアの前に二、三本ずつ並んでいます。


「あー、またやられてる」


 二階から灰色の髪のお兄さんが覗き込んでいました。


「最近そのイタズラ流行ってるらしくて、一軒家の玄関前とかでもやられてるらしーんだよ」


 お兄さんが一階に下りてきて花を集めます。


「やっぱり、また祠の花でやられてる。今日替えたばっかだったけど、何かしばらく花供えるのは難しいな」


 驚いて祠を見ます。確かに祠の花瓶には何も入っていません。


「犯人見つけてめっちゃ怒れば? カメラ付いてるんなら分かるだろ」


 山田さんが防犯カメラを指差します。


「何か一人じゃなくて毎回違う子供が来るらしくて、すぐにはどうこうできないらしいよ。学校には話いってるみたいだけど、バタバタしてて手が回らないって。まぁ、そのうち飽きるでしょ」


 お兄さんが、まだ元気のある花を祠に戻します。


「もしかして、お兄さんがお花替えてくれてるの?」

「まぁ、俺も夏休み入って暇増えたし、気が付いた時だけだけど」


 嬉しくて、顔がニヤけてしまいそうでした。祠のことを気にかけてくれている人がちゃんと居たのが、嬉しいです。


 お兄さんと別れて私の家に向かいます。鍵を開けてドアを開くと、むわっとした熱気が室内から溢れ出てきました。つい癖で明かりのスイッチを押してしまいましたが、ブレーカーが下がっているので点きません。


「うわっ、窓開けるぞ窓」


 シャーっとカーテンが開くと、暗い室内がぐっと明るくなりました。外もそれほど涼しくないのに、開けられた窓から入ってくる風がひんやりと感じます。

 私がノートを捜している間、山田さんはあの天井近くの戸棚をじっと見ています。


「あれだよな。ちょっと覗いていいか?」

「いいけど覗くだけだよ。取ろうとしたら危ないからね」


 椅子を踏み台にして戸棚を開けています。中には夢で見たのと同じ段ボールが入っていました。


「確かにこれは考えねぇと取れねぇな。卒業アルバムとか解読表とかあったら良いんだけど、仕方ねぇ」


 珍しく諦めの良い山田さんがパタンと戸棚を閉めます。

 実は、もう解読表はあります。日が経つごとにあの夢を見る頻度は多くなって、夏休みに入ると毎日見るようになっていました。夢の長さも増えている気がします。なので夢を見るたびに解読表を覚えて起きたら覚えていたものをメモ、を繰り返して完成させました。


 ただ、いざあの手紙を解読したら、何というか……ラブレターでした。他人が読んじゃ駄目なやつでした。


 ノートを鞄にしまい、ついでにお母さんの昔のスマホと充電器も持って行きます。窓の鍵をチェックして、郵便受けに入っていたお店のイベントを知らせる葉書を取って外へ出ます。戸締まりをしっかり確認して、いざ帰りましょう。


「あ、芽生ちゃん」


 向かいの家の大学生のお姉さんが居ました。お姉さんは大学の近くで一人暮らしをしていますが、夏休みなので帰ってきたのでしょう。


「聞いたよ、お母さん大変だったね。何かあったら協力するから遠慮なく言ってね」

「はい、ありがとうございます」


 見ない間にキラキラでお洒落になってしまったお姉さんに、ちょっと気後れしてしまいます。


「ああ、そうそう。中学生くらいの女の子が訪ねてきたみたいだけど心当たりある?」

「えっと、ないです」


 中学生に知り合いがいる覚えがありません。もしかしたらこの地区の卒業生かもしれませんが、だとしたらお姉さんも顔くらいは知っているはずです。


「ドアの前に立ってたんだけど、部屋を見間違えたかな? 多分、川の向こうにある中学生の制服だったんだけど……まあいいか。今日は暑くなるみたいだから早く帰ったほうが良いよ」


 お姉さんは家の中へと入っていきました。

 お昼に近づいてきた外の気温は、どんどん上がっていきました。目眩がするほどです。日陰に入っても全然暑くて休憩なんてできません。


「これ、行方不明も黒姫さんもなくても夏休み中外出れないのは変わんなかった気がする」

「熱中症になる前に早く帰ろうぜ」


 私達は猛暑という新しい敵から逃げるように山田さんの家へと帰りました。



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