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6-9


 ────


 秘密基地の中は思っていたよりも綺麗でした。

 ちゃんと掃除されていて、座る所には汚れのないバスタオルが敷かれていて、テーブルにはテーブルクロスがかけられています。置きっぱなしのマンガやボードゲームなども、きちんと整理されていました。


 和兎くんがクーラーボックスから紙コップと、見たことないパッケージの麦茶のペットボトルを出しました。女の子はお菓子の封を開けて並べています。


「ここって……この町って、和兎くんしか居ないの?」

「うん。しばらくは誰も居なかった。たまに知らない人が現れるけど、いつの間にか居なくなってる。あ、でもいつも居る子も居たよ。町中うろついているみたいだから、あんまり会わないけど」

「この町は一体何?」

「僕も良く分からないんだけど、町の記憶っていうか名残っていうか、そういうのが集まった場所なんじゃないかな? 他の人が来た時はその人に関わる場所だけその時間になったりしたし」


 思い出が強い方の時代になるということでしょうか?


「和兎くんはずっとここに居たの? あの、えっと……」


 話して良いのか迷いましたが、思い切って言ってしまいます。


「私、眠ってる時だけここに来れて、起きてる現実だと、えっと……和兎くん、二十五年前に行方不明になってるよ」

「えっ、もうそんなに経ってるの」

「佐倉樹生って分かる? 私その人の娘」

「ぇええええ!!」


 驚き過ぎて立ち上がってしまっています。


「じっ、じゃあ、みんな大人になってるの! みんなどうしてる? みんな元気?」

「あ」


 その答えは、和兎くんが望むものではないでしょう。とても話しにくいですが、話します。下手に気を使われて隠される方がモヤモヤするのを知っていますから。

 最初は楽しそうにはしゃいで聞いていた和兎くんも、次第に表情を曇らせていきました。私が一通り話し終わると和兎くんは力なく、すとんと座りました。


「そっか、何か思ってた未来と違ったな」


 とても寂しそうに和兎くんが目線を落とします。


「私、まだ取り返せるものは取り返したいし、おかしくなってる空気を元に戻したい。和兎くん、協力してくれないかな」


 ゆっくり、和兎くんが顔を上げます。


「うん、僕も結斗兄ちゃんや姉ちゃんの子供助けたい。協力する」


 私と和兎くんで握手をしました。良く分かっていない女の子は、私と和兎くんを交互に見て両手を突き出してきました。何となく握手してたのとは反対の手で握ります。輪になりました。


「ところで君のこと、芽生ちゃんじゃない方の子は、何て呼んだらいい?」

「分かんない」

「じゃあ名前決めようか」


 和兎くんが秘密基地にあった少女マンガ雑誌を開きました。マンガのキャラクターから決めるつもりみたいです。

 色々と候補が上がる中、決まったのは「しぃちゃん」でした。名前というよりはあだ名っぽいなと思いましたが、しぃちゃん自身が気に入っているみたいなのでそうなりました。


「しぃちゃんの名前も決まったし、早速和兎くんに訊きたいことがあるんだけど」

「いいよ」

「和兎くんはここに来る前は何処に居て、どうなってここに来たの? 万里さんの家に向かってたのまでは分かってるんだけど」


 和兎くんが考え込んでいます。


「確か万里ちゃんの家が留守だったからお宝の倉に行ったんだ。そこから覚えてなくて、気づいたらここに居た」

「お宝の倉?」

「この秘密基地メンバーの一人の家にあった倉だよ。お宝みたいた古い物がたくさんあるの」

「それってどの辺?」


 私は持っていた地図を机に広げました。


「うーん……この辺かな? 行けば分かるんだけど」

「そもそも誰の家の倉?」

「えーっと、誰だっけ? みんな自由に出入りしてたからなぁ」

「じゃあ行ってみよ!」


 しぃちゃんが目をキラキラさせています。


「そうだね、行こっか」


 私達は秘密基地を出ました。出入り口の正面には人が通れる道がありました。あのトンネルを使わなくても出入りはできたようです。道を抜けるとビニールハウスがあり、そこも抜けて道路に出ます。


 田んぼだらけの道を、今度は三人で進みます。まだ青い稲がサラサラ揺れています。


「そうだ和兎くん、葉月さんって知ってる? 女の子の」

「姉ちゃんの友達かな。葉月小百合(さゆり)ちゃん」

「他にお姉さんの友達で名前分かる人いる?」

「他は名前くらいしか分かんない。佐里菜さりなちゃんとまどかちゃん……円ちゃんはちょっと苦手」

「じゃあ秘密基地メンバーで他の人は?」

「他はあだ名しか分かんない」


 聞いたあだ名は、あまり名前に関係なさそうなものばかりです。もし私の家に父の卒業アルバムがあるのなら、後で確認してもらいましょう。


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