5-13
「いってきます」
いつもと違う道を、違和感を感じながら登校しました。
学校に着くと、わっと人が集まってきて昨日何があったのか訊かれました。訊かれても私にも分かりません。
「俺知ってるぜ」
星くんが自信たっぷりに声を上げました。
「佐倉の家の前で男がずっと土下座してたんだろ。かあちゃんのママ友が行ってた」
「え」
一体何を言ってるのでしょうか?
「お前のとーちゃん、火事で死んだんだろ。で、この間の授業参観で階段から落ちた奴が自分達のイタズラのせいで死んだから怒ってるんだーって、許してくれーって、全部話すから祟らないでくれーって」
星くんが得意気に話しています。私が最近ようやく知ったことと、私の全く知らないことを得意気に話しています。
父のことも、芝原さん達のことも、お母さんのことも知らない星くんが、得意気に、話しています。
頭が真っ白になりました。
バチン。
山田さんが星くんをビンタしました。
「知ってるか? 人のプライベートをべらべら喋るのはガキらしいぜ」
「はぁ? だって本当のことだろ、祟りが……」
星くんが、ガクンと後ろに引っ張られます。知念くんが星くんの首根っこを掴んでいました。
「おい、ちょっ……何す……」
騒ぐ星くんを無視して、知念くんは無言のまま星くんを教室の外まで引きずって行ってしまいました。
「気にすることないよ。きっと頭のおかしい人だったんだよ。最近多いし」
みやちゃんに言われても、気になるものはどうしようもありません。
いつの間にか黒姫さんに、消えた子を捜すと殺されるという祟りが追加されました。……祟りの最初の犠牲者が黒姫さんのモデルなのに、もう訳が分かりません。
理科の授業も何とか乗り切り、学校が終わって家に帰る時間です。ドキドキしながら下校します。
アパートも家の中もいつも通りでした。ただ違うのは、お母さんが既に家にいたことくらいです。
「心配かけてごめんね。もう大丈夫たから」
「ねぇ、何があったの?」
お母さんは少し困ったような顔をしました。
「何て説明したらいいのかしら……学校の保護者の一人が何ていうか、ちょっとおかしくなっちゃって、迷惑をかけたと思った人に謝って回ってて……それがちょっと過激で、その人の家族や友達も集まって話し合いをしたのよ」
「お母さんはその人にどんな迷惑をかけられたの?」
「……昔のことだから忘れちゃったわ」
そう、目を赤く腫らしたお母さんが答えました。それ以上、何かを訊く勇気はありません。
その後は特に何もありませんでした。
夏休み前、最後のお休みも何事もなく終わりました。ただ、今まで普通だった近所の人も突然おかしくなってしまうのかもと思うと、怖くて迂闊に外に出られなくなってしまいました。登下校もドキドキします。
「不審者の件、一応大体のことは分かったけど、聞く?」
松岡くんが耳打ちしてきます。迷いましたが、私は頷きました。
松岡くんが歩き出します。私はその後に続きます。山田さんは当然のことのように付いてきます。階段の一番上、いつも鍵がかかっている屋上のドアの前まで来ました。
「不審者っていうのは授業参観で怪我をして救急車で運ばれた人、星くんの言った通りなんだけど、どうやらバーベキュー場の火事の時の酔っぱらいの一人だったそうだよ。彼ら、火事の直前まであの小屋で遊んでたらしくって、その時引き戸に物を詰まらせて中にいる人を閉じ込めるイタズラをしていたんだって。そして火事が起こった時、引き戸は彼らのしたイタズラで開かなくなっていた。もしかしたら外すのを忘れていたのかもと思ったけど、怖くて言い出せなかったそうだよ。そして祟りの噂を広めたのも彼ら。バレたくなくて話を逸らしたかったんだって」
私はまるで他人事のように話を聞いていました。ムカつくとか悔しいとか、許せないとかの感情よりも「は?」という疑問の方が上回っています。
「あと階段から落ちたのは万里さんの幽霊を見たからって言ってたらしいけど、山田さんあの近くに居た?」
「……居た」
チャイムが鳴ります。私達は足早に教室へ戻りました。
学校が終わって下校して、地区のみんなと別れます。アパートの敷地に入ったところで怒りが込み上げてきました。
黙っていた? 自分達のせいで炎の中に閉じ込められた人がいるのに?
バレたくなかった? 人が死んでるのに、自分達を守る為にあんな酷い噂を広げた?
それに今更謝るって何なんですか?
それも理由が祟りが怖いからです。どこまで自分の為なんでしょうか。そもそも祟りの話を広めたのは自分達じゃないですか。
イライラが止まりません。わーっと叫びたいです。その辺にある物を蹴り飛ばしたいです。でも叫んだらご近所に迷惑ですし、蹴り飛ばされる物には何の罪もありません。我慢するしかありません。




