5-10
七月になって最初の金曜日です。今日は授業参観の日です。音楽の発表会が中止になってしまったので、保護者が学校に招かれるイベントはこれが夏休み前最後になりました。
今日はお母さんも来てくれました。無理をしてまで来て欲しくはないですが、いざ学校でお母さんの姿を見ると嬉しくてたまりませんでした。
授業が終わって、いつもとは違う賑やかさに安心します。どこかで女の子達の「キャー」という黄色い声が上がっています。アミラさんが居ました。
「芽生ちゃん、先輩。うちの泉水知りません?」
「山田さんならさっきあっちに」
指差した階段の方向から男性の悲鳴が聞こえました。
「キャァァァ」
階段近くに居た大人も子供も悲鳴を上げています。校舎内が一瞬でパニックになりました。
「落ちた! 男が階段から落ちた! 誰か救急車呼んで!」
「動かないで! 頭打ってるかもしれないから、ちょっと腕取れちゃうよ、動かないで」
多分、場所は階段の下の階です。上の階に居る私達はどうしたら良いのか分からずに、救助している人と、それに交じる「許してくれ」「わざとじゃない」のうめき声を聞いていました。
ひょっこりと階段から山田さんが出てきました。「ひぇっ」と、一瞬大人から小さい悲鳴が上がります。
「もしかして山田さん何かした?」
「してねぇよ。ただ階段に居ただけだよ」
男性は、すぐやって来た救急車に運ばれて行きました。賑やかだった校舎内が違う意味で騒がしくなってしまいました。
お母さんとアミラさんは訳が分からないといった表情で困惑していました。でも何人かの保護者は何かに怯えるように真っ青な顔になっています。
そして、茶髪の女の子も震えていました。知念くんのグループのあの子です。名前は……三日月さんだった気がします。知念くんに手を引かれて何処かへ行ってしまいましたが、何だか気になります。
「なんか昨日大変だったな」
土曜日、また松岡くんと共に山田さんの家に居ます。今日は午前中からお邪魔しています。
「山田さんが男の人を階段から突き落としたんだっけ」
「ちげぇよ! 喧嘩売ってんのか松岡」
「伝言ゲームみたいになってて最終的にそうなってたよ」
「あーもうムカつく」
山田さんが和室にバタンと寝転がります。はしたないです。
「そうだ私、知念くん達のグループがちょっと気になるんだけど、何か知らない?」
「気になる? 例えば?」
「えーっと、これは結構前からなんだけど」
私は、ゴールデンウィーク直後に見たこっくりさんやオカルト本を借りていた知念くんのこと、そして昨日見た三日月さんの様子のことを話しました。
「へぇ、意外。オカルト興味なさそうなのに」
「こっくりさんね」
松岡くんが考えています。何か知ってるのかなと思って待っていましたが、次に発せられた言葉は予想外なものでした。
「こっくりさんって一度やってみたかったんだけど、やってみない?」
「お、いいな」
びっくりして私がイエスもノーも言えない間に、二人は準備を始めてしまいました。紙にひらがなを書き、十円玉も用意しています。
「いや、でもどうせ山田さんが動かしちゃうでしょ」
「動かさねぇよ。じゃあ私はボールペンで押さえるから」
「それ何か意味あるの?」
そうこうしている間に、松岡くんが紙に鳥居や「はい」「いいえ」など必要なものを書き終えました。
「できたよ」
「で、何を訊く?」
「えーっと、答えが単純な方が良いんじゃない?」
「じゃあ山本沙那が今何処にいるかとかで良いんじゃないのか」
「それ、答え簡単かな? まあいいけど」
鳥居の絵の上に十円玉を置いて、人差し指で押さえます。山田さんはボールペンを使おうとしていましたが、何か変なので普通に指で押さえさせます。
「こっくりさん、こっくりさん、おいで下さい」
……十円玉はぴくりとも動きませんでした。
「動かないね」
「まあ、そりゃそうか」
ちょっとがっかりした空気が漂います。すると、廊下から足音が聞こえてきました。
「ケーキ持ってきたよー。開けてー」
アミラさんです。大変です、こっくりさんの紙を隠さないといけません。山田さんが慌てて、和室の端に束ねられていた広告の一枚をバンと、こっくりさんの紙の上に広げます。
「……どうしたの、マンションの広告なんか広げて」
「もうすぐ夏休みだから、自由研究の話をしてた」
「え、一体何の研究するの?」
「秘密」
絶対におかしい話ですが、アミラさんはそれ以上訊いてはきませんでした。
「もうすぐお昼だけど、二人は何食べたい?」
「あ、私お弁当持ってきてるので」
「僕も」
「そっか」
アミラさんは少し寂しそうに微笑みました。
お昼を食べて、松岡くんが持ってきていたタブレットPCで動画を見ます。主にオカルト系の考察動画です。
「松岡くんって、こういうの好きなの?」
「うん、不思議だとか謎だって思うものが分かるようになるのは楽しいよ」
山田さんが起きました。寝ていたことにも気づいていませんでしたが、起きました。
「そういやさ、あんたの父親の持ち物あった?」
「え、あー……それらしいのがありそうな場所は分かるんだけど、ちょっと子供じゃ出すの難しい場所なんだよね」
「じゃあ、この後お前の家突撃しても無理そうか」
「いや、やめてよね」
それから帰る時間になるまで一応勉強をしました。勉強をしながら、だらだらと話をします。
「あ、そうだ。この前から芝原さんの旦那さんについて聞き回ってきたんだけど」
松岡くんの恐れを知らない行動力にびっくりです。
「芝原旦那さん、行方不明になる前にサンサンバーベキュー場火事について聞き回ってたらしいよ」
「そうなの?」
「そのせいでまた祟りがってなったらしくて、もう誰もまともに話してくれなくなっちゃった」
「……それってさ、芝原の失踪も事件絡みってことか?」
「分からない。でもその祟りのせいか山本沙那さんの捜査にまで支障が出てるそうだよ」
滅茶苦茶です。そもそも祟りって何なんですか。消えた人を捜したら、なんで祟られなくてはいけないのですか。そんなことが許されたら誘拐し放題じゃないですか。
もしかして、その為に祟りの噂を広めたのでしょうか? ……いえ、考え過ぎです。そんな自分勝手に作られた噂が、都合良く広がってくれるとも思えません。




