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空には、相変わらず綿菓子みたいな雲が浮かんでいます。
「やっと来た。早く行こう」
女の子がまたブロック塀の側でぴょんぴょん飛び跳ねています。
「分かったから待って」
女の子が塀を越えるのを手伝います。私も乗り越えて隣の家の敷地に入ります。女の子は家の裏のブロック塀に向かっていました。
「待って、多分こっちから出られるよ」
隣の家の門扉には鍵がかかってなかったので簡単に開きました。女の子は意気揚々と走り出しましたが、逆方向だったので呼び戻します。
町並みはとても不思議でした。ほとんどは毎日通っている現実のものと同じですが、所々に知らない建物があったりおんぼろな橋があったりしました。
「これってお店?」
「かな? でも電気点いてないからお休みじゃないかな」
木造の古いお店がありました。看板は文字が掠れて良く読めませんが、商店と書かれているのだけは分かりました。ガラス戸から見える店内は薄暗く、手前に置いてある駄菓子しか見えません。
「お菓子屋さん?」
「どうなのかな、私この店知らないし」
現実の町にこのお店はありませんでした。この場所には普通の一軒家があったはずです。私の住んでいるアパートがちゃんとあるのか不安になってきました。
国道まで来ました。現実では車通りの激しい道路ですが、今は一台も走っていません。気が付くと空から綿菓子みたいな雲は消えていて、ぼやけた雲が所々に広がっています。雑草の元気もなくなっている気がします。
「何か変わった車があるね」
道路の端にデザインの古い車が停まっていました。現実では見たこともないほど古い車です。周りを良く見ると建物も何だか違います。
建て直して新しくなったはずの家が昔のものに戻っていたり、かと思えば外壁をリフォームしたばかりの家は新しい状態のままです。もしかして、色んな時代がごちゃごちゃに交じってしまっているのでしょうか。
アパートは無事、ありました。ポケットに入っていた鍵を使って家に入ります。
家は私の家でした。でも、どこか変でした。凄く小さい頃に使っていた小さな椅子や動物のイラストの描かれたポスターがありますが、どれも今の家にはもうないものです。
「お菓子どこー?」
「ここだよ」
いつもお菓子を入れている戸を開けます。中には最近も食べたものから、見たこともないパッケージのものもありました。どれも賞味期限の部分は白紙です。食べても大丈夫でしょうか?
「じゃあ、秘密基地探しに行こう」
「その前に準備だよ」
クローゼットを開けて、丁度いい鞄を選びます。ハンカチ、ティッシュ、要るのかどうか分からないけどお財布に、ノートとペンケースも一応入れておきましょう。
女の子にはリュックを渡しました。幼稚園児の時に使っていたクマの顔のリュックです。気に入ったらしくて、背負った姿を鏡で何度も見ています。
「あ」
天井近くにある戸棚が目に入りました。夢の中ならお母さんに見つかる心配はありません。
「ちょっと待ってて」
家で一番大きな椅子を戸棚の下に持っていきます。椅子の上に立つと、ギリギリですが戸棚に手が届きました。中には段ボール箱が入っていましたが、流石にそこまでは手が届きません。
「これ乗せる?」
女の子が子供用の小さい椅子を持ってきました。
「流石に危ないよ。そうだ」
アパートの敷地内には小さい倉庫がありました。その中に脚立があったはずです。女の子と二人で倉庫に向かいます。幸い倉庫には鍵がかかっていませんでした。
苦労しながら脚立を戸棚まで運びます。
「しっかり押さえててね」
「分かったー」
脚立を登って段ボール箱に触れます。思っていたよりも物がいっぱい入っていて、ずっしりと重いです。不安定な脚立に乗った状態でこの段ボール箱を移動させるのは、あまりにも危険です。
戸棚に置いたまま段ボール箱を開きます。上につっかえて全開にはできませんでしたが、手を入れるくらいの隙間はあります。
腕を突っ込んで段ボール箱の中を漁ります。取り出せそうなものが手に当たったので出してみると、二つ折りの黒い財布でした。中にはお礼も小銭もそのまま入っていて、カード類もいくつか残っています。カードに父の名前が書かれていました。
「どうするの? 全部出す?」
「……ううん、もういいよ。秘密基地探ししようか」
私達は家を出ました。
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