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5-3


 翌日、教室に入ると山田さんが駆け寄ってきて、目の前にヘアバンドを突き出してきました。


「何で言わなかったんだよ!」


 山田さんが頬を赤くしています。珍しく恥ずかしがっています。


「気に入ってるのかなって」

「んな訳ねぇだろ」


 すると教室の奥に居たみやちゃんが、何か面白そうだと言わんばかりに目をキラキラさせながらやって来ました。


「何? 何? 何の話?」

「昨日、近所の小さい子が山田さん見て泣いちゃって」

「私が泣かせたみたいに言うな」

「だから可愛いヘアバンド貸してあげたの」

「あーなるほど」


 みやちゃんが、ポケットの中をゴソゴソ探ります。


「じゃあ、可愛いヘアピンあげる。髪縛るの苦手みたいだから、これ付けてれば? ガチャガチャのやつだけど」


 みやちゃんの手の上にはヘアピンが目いっぱい乗っていました。人気キャラクターのものから星やハートマークのもの、食べ物を可愛く描いたものなど様々です。


「芽生ちゃんも好きなの持ってっていいよ。家に同じやついっぱいあるし、ほらみんなも」


 数カ月に一度ある、ガチャガチャ大好きみやちゃんの在庫処分です。今回のみやちゃんのブームはヘアピンだったみたいです。近くに居た女子の他にも姉や妹のいる男子と、似合うかもしれないからと一人っ子の男子にまで配り歩きます。

 手の上にあったものがなくなったかと思ったら、またポケットから出てきます。黒姫さんより、みやちゃんのポケットの方がお化けじみています。


 私も、勢いに押されて白い花のヘアピンを貰いました。山田さんは暗めの色の星を取ろうとして、みやちゃんに「駄目駄目! もっと可愛くて目立っやつじゃなきゃ」とパンケーキのヘアピンを押し付けられていました。


「あの、みやさん、学校にあまり関係のないものを大量に持ってくるのは」

「固いよゆりあさん。ほら、ゆりあさんプードル好きでしょう? これあげる」


 みやちゃんが有無を言わさずに、ゆりあさんの前髪にプードルを付けます。


「最近流行ってるらしーよ。このキャラクター」


 ゆりあさんは、何かを諦めたようにされるがままになっています。

 山田さんが何かを思い出したように、はっとします。


「あ、そうだ。あんたに訊きたかったんだけど」


 山田さんがゆりあさんに話しかけると、ゆりあさんはびっくりしていました。山田さんからゆりあさんに話しかけるのは、私が知る限りこれが初めてです。


「あんたを階段から突き飛ばした奴は背が高かった? 髪はストレート? ウェーブ?」

「ええっと」


 ゆりあさんの表情が曇ります。あまり思い出したくないことなのでしょう。


「逆光で良く見えなかったけど、背が高かったり髪がウェーブだったら山田さんと間違えなかったと思うし……あの時は本当にごめんなさい。確証もないのにあんな……」

「別にそんな昔のこと、どうでも良いだろ」


 ケロッとした山田さんの対応に、ゆりあさんがまた驚いています。

 後頭部に蝶々を付けられた男子が呟きます。


「そういえば、妹が言ってたな。黒姫さんに種類があるって」


 近くに居た男子が加わってきます。


「それ、うちのも言ってた。見たって奴がさ、髪がストレートだったっていう奴とウェーブだったってのが居て喧嘩になったって。本当はどっちなのって訊かれても分かんねぇよ」

「なんかストレート派とウェーブ派に分かれてきてるよな。ストレートは山田だとしても、ウェーブ髪って誰なんだろ」

「そっちが本物?」

「まさか」

「フード被ってるってのも聞いたけど」

「それはもう黒姫さんじゃなくない?」


 チャイムが鳴ります。先生が教室に入ってきたので、皆自分の席に戻りました。

 一時間、二時間、授業は進み、体育館での授業だった体育の三時間目が終わって教室に戻ります。


 カツン、と何か軽いものを蹴飛ばしてしまいました。見るとお化け屋敷に落ちていたらしい、あの青い猫のキーホルダーが付いた鍵でした。


「何? 何? 可愛い!」


 みやちゃんが食いつきます。


「落ちてたの。誰のだろう」

「あー、それ堂本のだよ」


 通りすがりの星くんが答えました。堂本くんはまだ戻ってきていなかったので、堂本くんと仲の良い男子に鍵を渡しました。


「みやちゃん、あの猫のキャラクター知ってる?」

「私は知らないなぁ。あんなに可愛かったら忘れないと思うから、見たことないキャラだと思うよ。ハルちゃん知ってる?」


 ハルちゃんも知らないようで首を振ります。


「マイナーなキャラなのかな? 後で堂本くんに訊いてみよー」


 みやちゃんは新しいおもちゃを手に入れたかのように、目をキラキラ輝かせていました。


 昼休みになると、迷いのない足取りで歩く山田さんを見かけました。嫌な予感がした私は、山田さんの跡をつけました。

 山田さんが向かったのは、松岡くんの席でした。


「なぁ、お前この町で起こった事件エグいほど調べて夏休みの自由研究にして、ドン引きされたらしいな」


 山田さんは、何故か得意気に仁王立ちしています。


「良く知ってるね」


 対する松岡くんは、びっくりするほど涼しい顔です。


「で、何かな? 君も山本沙那の行方不明事件について知りたいの? 流石に僕でも知らないよ」

「それはいい。私が知りたいのはサンサンバーベキュー場の火事」


 すると、いつも表情を変えない松岡くんの目が、ほんの少しですが大きく開きました。


「随分と古い話だね。一応調べてはあるけど、生まれた年の事件だからそこまで詳しくないよ」


 思わず口を挟んでしまいます。


「事件? 事故じゃなくて?」


 急に話に入ってしまったからか、松岡くんが不思議そうに私を見ます。


「佐倉さんって、もしかして……」


 ガタン、


 と背後で物音がしました。後ろには、リボンやフリルがいっぱいの服を着ている姫ちゃんが居ました。よく知念くんと一緒にいる女の子です。


「姫、何にも聞いてないから!」


 机から落ちてしまったペンケースを机に戻して、逃げるように去って行きました。慌てていたのか、ペンケースを違う机に戻しています。


「何だあれ?」


 山田さんと松岡くんが首をひねります。


「さぁ、最近あそこのグループも様子がおかしいけど、良く分からないんだよね。取り敢えずさっきの話は、改めて別の場所でにしないかな。佐倉さんも来る?」


 一瞬ためらいましたが、頷きます。山田さんが満足げにニマニマ笑って、こっちを見てくるのは少しムカつきました。


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