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雨続きだった日々が嘘のように晴れの日が続いています。気温も上がって夏らしくなってきてクラスの雰囲気も良くなったのに、何かが足りません。
気が付きました。山田さんが居ません。
月曜日から木曜日の今日まで、山田さんが学校を休んでいます。丈夫そうなのに体調でも崩したのでしょうか?
学校から帰って家でお茶を飲みながら一息ついていると、新しいノートが必要なことを思い出しました。外はまだ明るいし、ノートの売ってる店までは車通りの多い人目のある道ばかりです。お母さんには一人で出かけないよう言われていましたが、ちょっとぐらいなら大丈夫でしょう。
店には五冊セットの安くて可愛いノートが売っていました。そのノートを手に持ちながら、他の文房具も見て回ります。ハルちゃんに貰ったお守りのお礼にハルちゃんの好きそうなものを探します。
ふと、お化け屋敷に落ちていたという青い猫のキーホルダーを思い出しました。ハルちゃんの好きそうな可愛いキャラクターでした。店中を探しましたがあの猫の描かれたものは見つかりませんでした。有名なキャラクターではないのかもしれません。ハルちゃんには別の可愛いキャラクターのメモ帳を買いました。
帰り道にある信号を待っていると、少し離れた所に山田さんを見つけました。相変わらず真っ黒な服を着ていて、機嫌が悪そうにムスッとしています。知り合いらしい大人が近くに何人か居ましたが、その人達も黒い服を着ています。誰かに呼ばれたらしい山田さんが料理屋さんに入っていきました。
金曜日も学校に来なかった山田さんですが、月曜日からは普通に登校してきて、いつも通り悪態をついています。
学校帰り、すっかり暑くなってしまった気温にまだ体が慣れずにクラクラします。もうすぐ夏です。でも、このままだと家から出られない夏休みになってしまうかもしれません。山本沙那さんが見つかればお母さんも安心してくれるかもしれませんが、今のところ何かが進展したという話はありません。
大通りの交差点で信号が変わるのを待ちます。待っている間に他の地区の集団も来て、混み合ってきました。
「本当に見たもん!」
他の地区の小さな女の子が叫びました。低学年の子供達が何やら揉めているようです。
「嘘だ! そんなの居ないもん」
「嘘じゃないもん! 居たもん」
顔を真っ赤にした女の子が「嘘だ」と言った子に飛びかかります。危うく車道に出てしまいそうになったのを高学年の数人で止めました。
「馬鹿! 何やってんだよ危ないだろ!」
顔の赤い女の子は、目からポロポロと涙を流しながら言い返します。
「居たもん! 見たもん!」
どんどん涙声になっていき、聞き取りにくくなっていきます。
「しろ……て、くろい髪……おばけみた……もん、もじゃも……つれてかれちゃう」
わーっ、と大声で泣き出してしまいました。その子と、同じ地区らしい子が手を引いて青信号を渡っていきます。私達の地区のみんなは、暫くぽかんとしてしまいました。
家に帰り、隠していた父の事故の記事のコピーを開きます。何かを閃くことも内容が変わったりすることもありませんが、これが日課になってしまいました。
ピンポーン、とチャイムが鳴りました。そしてインターホンを無視した大声がドアの外から聞こえます。
「おーい、いるー?」
山田さんです。ドアを開けたら、やっぱり勝手に入ってきました。奥の部屋までずんずん進み、仏壇の前で止まりました。
「確かに同じほくろだ」
「何の用? ほくろ確かめるだけ?」
山田さんは、持っていた大きめの鞄をゴソゴソ漁ります。
「なぁ、昔うちの学校の児童が行方不明になったって話、知ってるか?」
「その噂は聞いたことあるけど、本当かどうか分かんないよ」
漁っていた鞄から雑誌が出てきました。パラパラと山田さんはページをめくり、あるページを私に見せます。
「見てみろ」
そのページには『沙那ちゃん母、弟も小学生の頃に行方不明』と、でかでかとした見出しが書かれていました。山田さんならこれくらい自作しかねないと思いましたが、この雑誌は本物のようです。
雑誌の記事によると、今から二十五年前の夏休み中に当時小学二年生の小泉和兎くんが忽然と消えてしまったのだそうです。未だに手掛かりすら見つかっておらず、今回の沙那さんの事件と関係があるのでは? と、どこか面白がっているように書かれていました。
「これ、本当なの? こんな話、大人は話してなかったよ」
「隠してたんだよ。臭いものに蓋ってやつ? それか、やましいことがあんのか分かんねぇけど。ネットとかにも情報ねぇんだよな。子供が消えてんのに」
登下校の時に見かける大人達の顔が、ふと頭に浮かびました。子供を集合場所に連れてくる保護者、旗を持って道端に立ってる人、皆難しい顔をしていました。子供達が心配でそんな顔になっているのだと思っていましたが、考えてみれば怯えているようにも怒っているようにも見えました。
「で、これな」
さらに紙を一枚差し出してきます。それは、万里さんと父の写真の載っていた卒業アルバムの、ページを写した写真を印刷したものでした。本当はコピーも、写真を撮るのもいけないことですが、もう注意する気持ちが湧いてきません。
「お前、父親について知りたくないな? 私は全部知りたい。だから一緒に調べないか?」
はっきりとした強い目で、私をじっと見ていました。いつものヘラヘラとした顔ではなく、真剣な顔でした。
「全部って、黒姫さんとか芝原さんとか、この雑誌に書かれている昔の行方不明事件のことも?」
「うん」
「山本沙那さんのことも?」
「できるんなら」
「火事のことも?」
「それは一番関係ありそうだしな」
「……火事のこと知ってたの?」
「ちょっと調べた」
考えます。あの山田さんの提案に乗ることは、とても危険な気がします。そもそも警察にも分からないことを、ただの小学生が解決できるとは思えません。
でも、それでも……気にはなります。お母さんは何故、父のことを何も教えてくれないのでしょうか? 夢の中で会ったあの子は何者なのでしょうか? それに芝原さんは一体何処に居るのでしょうか? 何で居なくなってしまったのでしょうか?
「ちょっと考えさせて」
「分かった」
飲み物を用意するためにキッチンへ向かいます。冷蔵庫から取り出したお茶の容器がチャプチャプ揺れます。私、緊張してるみたいです。
ガラッと窓を開ける音がしました。山田さんが開けたのでしょうか? 微かに風が動きます。




