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4-8


 ────


 私は、お化け屋敷の庭の真ん中に立っていました。相変わらず草がボーボーに生えていて、私の体を埋め尽くしてしまいそうでした。


 辺りを見回してみますがあの子が居ません。またどこかで転んでいるのかもしれないと目を凝らしてみますが、庭には居ないようです。

 平屋の戸が開いています。草の海を泳ぐように進み、開いているガラス戸から中を覗きます。あの子の姿は見えませんがガタガタと物音がします。平屋は薄暗くてほこりっぽいですが、怖い感じも嫌な感じもしません。窓や壁に空いた穴から光が漏れて、何だか幻想的にも見えます。


 入ってすぐの場所には土間がありました。その先に障子の開け放たれた和室があります。一歩進むと足に何か当たりました。あの子が履いていた黒くてピカピカした靴が行儀悪く散らかっています。

 四畳半の部屋の奥に六畳の部屋が並んでいます。古いテレビやタンスにはほこりがたっぷり積もっていて、壁には十数年も前のカレンダーがかけっぱなしになっていました。廊下側へのふすま、押入れ、タンスの引き出しにテレビ台の戸、全部開いているのはあの子の仕業でしょうか?


 ガタン、奥で何かが崩れる音がしました。急いで家に上がり音のした方へと向かうと、土間のように床が低くなった小部屋にある、大きな釜のようなものから足が突き出ていました。恐らく昔のお風呂です。あの子がお風呂の上にあった板の蓋に飛び乗るか何かして踏み抜いてしまったのでしょう。


 彼女を何とか引っ張り出して服についた汚れを払います。怪我はしていませんがポロポロと泣き出してしまいました。なだめても泣き止みそうにありません。

 困りました。彼女を落ち着かせようと座れそうな場所を探しますが、どこもほこりまみれです。


 廊下の突き当たりにドアがありました。暗い廃屋の奥にあったその洋風なドアは、不思議なことに汚れもなく綺麗でした。気にはなりましたが、この先に座れそうな場所があるのかもしれません。思い切って開けてみます。


 ドアの先には廃屋とは違う、今まさに使われている部屋がありました。パステルカラーの壁紙やカーテンにぬいぐるみの乗ったベッド、机の上には知ってるキャラクターや知らないキャラクターの文房具、教科書、花の図鑑、ハンガーラックにはワンピース……一目で女の子の部屋だとわかりました。


 壁には少女マンガ雑誌の付録のカレンダーがかけられていました。この部屋の方が新しそうなのにカレンダーの年はほこりまみれの和室のカレンダーよりずーっと昔でした。

 あの子が大はしゃぎでベッドに飛び込みました。泣いていたことなどもう忘れてしまったようです。反動でベッドの上にあったぬいぐるみが宙を舞います。


 知らない人の部屋は廃屋に入るよりも悪いことをしている気がします。良くないと分かっていますが気になって部屋中を見てしまいます。

 本棚の上に写真立てが飾られています。写真の真ん中には小島万里さん。周りに何人も同い年くらいの子供がいて、中には子供の頃の父も居ました。芝原さんに似ている子供と……何故か山本沙那さんに雰囲気の似た子供も居ます。他にも見覚えがあるような、ないような子供達がいます。


「これなあに?」


 いつの間にか本棚に移動していたあの子が、躊躇なくアルバムを引っ張り出して開いていました。人のアルバムを勝手に見るのは良くないのでは、とか考える間にもお構いなしにページをペラペラめくっています。


 そのアルバムには、森の中にあるおんぼろな小屋の近くで撮影された写真ばかりが収められていました。写っているのは写真立ての写真の子供達です。

 明かりの写り方のちょっと不思議な写真達は、撮影も子供がしているようでピントがずれていたり、暗過ぎて良く見えなかったり、何を撮影したかったのか分からないほど何かをアップにしたものなどがありました。それでもとても楽しそうだということは伝わります。


 アルバムの最後のページまでくると、折り畳まれた紙が挟まっていました。紙の表には”しれいしょ”と書かれています。


「何て書いてあるの?」


 彼女は字が読めないようでした。


「しれいしょって書いてあるよ」

「どーいう意味?」

「えーっと、しれい……こうして下さいってお願いを書いた紙かな」


 折り畳まれた紙を開くと、中には読めない文字が書かれていました。お化け屋敷の郵便受けに入っていたあの手紙の文字に似ています。


「これは何て書いてあるの?」

「これは私も知らない文字……暗号なのかな」

「しれいしょって書いたのとは別の字? 何で?」

「指令の内容が関係ない人に知られないようにする為かな? スパイが使ってるみたいな」

「スパイって何?」

「えーっと、相手の秘密の情報を調べたり、良くないことが起こる前にこっそり解決させたりする人かな」

「私達は今スパイなの?」

「多分違うんじゃないかな」


 そもそも私達は何かを調べている訳でも、解決させないといけない問題がある訳でもありません。私達は一体何をしているのでしょうか?


「この紙の指令、私達じゃ読めないの?」

「解読表みたいなのがないと無理じゃないかな」

「じゃあ探す!」


 そう言った彼女は、何故か外へと走って行ってしまいました。


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