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4-5

 目を覚ますと全身びっしょりと汗をかいていました。心臓もバクバクしていて、苦しいほどに呼吸が乱れています。喉もカラカラに渇いていました。


 部屋はぼんやりと薄暗くて、夜と朝の間の時間のようでした。取り敢えず水を飲もうとキッチンへ向かいます。コップ一杯の水を一気に飲んで深呼吸をすると、少しずつ心臓の鼓動が元に戻っていきました。

 別に怖い夢を見たわけではありません。結局はただの夢です。でも最近見るこのお化け屋敷の夢は、普通の夢ではない気がします。


 普通の夢は、時間が経つとぼんやりとして忘れていってしまいます。しかし、お化け屋敷の夢はどれもはっきりと覚えていて、それも同じ夢をちゃんと続きから見ています。こんなことは今まで一度もありませんでした。

 目を閉じて夢のことを思い返します。澄んだ青空に真っ白な綿菓子みたいな雲、草の臭い、コンクリートブロックのザラッとした感触、あの女の子の手のひらの体温……本当に体験したことのように鮮やかに思い出せます。私には、この夢が特別な何かだとしか思えませんでした。だとしたら最後のあれは一体何だったのでしょうか。


 山本沙那、なぜ彼女の持ち物があんな所にあったのでしょうか? もしかして実際のお化け屋敷の庭にもあの小袋が……いえ、それならば草刈りで見つかっていないのはおかしいです。キーホルダーよりも、小袋の方がずっと見つけやすいはずですから。


 訳が分かりません。でもこんなこと信じてもらえそうになくて、誰にも相談できません。


 結局あれから眠ることができずに、私は寝不足のまま学校へと向かっていました。学校では昨日の音楽の授業であったことが、かなり盛られて回っていました。


 黒姫さんが、黒姫さんか……いつの間にか黒姫さんが出たことになっていました。

 当時は黒姫さんに結び付けられてなかったので、子供の声のようなものではなかったのでしょう。でも今この学校で良くない不思議なことが起こると、全て黒姫さんのせいにされてしまうようでした。


「ねぇ、知ってる? 昔、うちの学校の子供が行方不明になったって話」

「聞いたことあるけど、本当の話なの?」

「それ知ってる。居なくなったの、お母さんの弟のクラスの子だって」

「本当だったんだ」

「やっぱり黒姫さんのせいなんじゃ……」


 もう止まりません。


 今日の理科は理科室での授業です。私達はいつものように理科室の前で係りの子が鍵を持ってくるのを待っていました。やって来た係りの子は慣れた手つきで鍵を開けて、引き戸の引き手に手をかけます。


 その時でした。お調子者の星くんが、ぼそっと言いました。


「ドア開けて黒姫さんが立ってたらどうする」


 自由にお喋りしていたクラスメイト達が、ピタッと黙って静かになりました。係りの子も引き手に手をかけたまま動きません。


「え、いやいや冗談だって」

「ちょっと変なこと言わないでよ」


 みんなも冗談を笑うように苦笑いをしていましたが、誰も動こうとしません。


 理科室の引き戸には、向こう側が見えるようなガラス窓は付いていません。それどころか廊下側には天井近くにしか窓はありません。つまり引き戸の向こうに誰かが立っていても私達には分からないのです。多分居ないのでしょうが、居るかもしれないのです。


 恐ろしいことが起こりました。星くんがヘラヘラしながら言った一言で、みんなが呪いにかかってしまったかのように動けなくなってしまったのです。


「早く開けろよ」


 男子が言います。


「じゃあ、あなたが開けてよ」


 係りの子が反論します。


「なんだよ、怖いのかよ」

「怖いよ。だからあなたが開けてよ」


 男子は何も言い返さずに後ろへと下がってしまいました。他の子もそれに釣られるようにジリジリと引き戸から離れていきました。

 一人、人を押しのけて引き戸に近づく子がいます。山田さんです。山田さんは引き手に手をかけると、バァンと躊躇なく豪快に開けました。


 引き戸の向こうには、もちろん誰も居ません。


 唖然とするクラスメイトをよそにスタスタと歩き出した山田さんは、一度振り返って「ふん」と得意気に鼻で笑っていきました。その姿を見たクラスメイト達は、ようやく金縛りが解けたように歩き出します。


「結局居なかったな、黒姫さん」


 お昼休みの図書室で山田さんが残念そうに呟きました。


「居た方が良かったの?」

「だってどんな奴か見てみたくないか? あと一言文句を言わないと気がすまない。私は迷惑をかけられてるんだから当然だろ」


 山田さんは、相変わらず卒業アルバムを眺めて黒姫さんらしき人を探しています。でも飽きてきているらしく、時々眠そうに首をコクリコクリとさせていました。まぶたがトロンと重そうに閉じていき、あ、本当に寝そうだなと見ていると急に山田さんの目がカッと見開きました。


「あっ」


 山田さんが興奮ぎみに立ち上がりました。


「いた、いたぞ。見ろ」


 卒業アルバムを大きく開いて私の顔に押し付けてきます。


「近すぎて見えないよ」

「そう?」


 首を傾げながら山田さんは卒業アルバムを机の上に置きました。卒業生の写真がずらりと並んでいるページの、ある一人の写真を指差します。

 長い黒髪に白い肌、他の女の子とは雰囲気の違う女の子です。写真の下には小島万里と書かれた文字があります。


「見つけた。これやっぱり小島万里が黒姫さんのモデルで間違いねぇだろ。これはアレだな、嫉妬だな。美少女過ぎて嫉妬されてお化け扱いされたんだろ。分かるわー、私もよく嫉妬されるから」


 確かに万里さんはとても綺麗な女の子でした。山田さんと違って穏やかそうで、夢の中に居たあの子に少し似ていますが、やっぱり別人です。

 でも、それよりも気になることがありました。


「お父さん」


 万里さんの写真の隣に父の名前がありました。そこにあった写真は小学生の頃のものなので自信はありませんが、左目の下にあるほくろが仏壇に飾ってある写真の顔と同じでした。


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