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私は知らない人の家の庭に立っていました。お化け屋敷の隣の家です。念願のお化け屋敷まであと少しです。でもその前に確かめたいことがあります。
来た道を戻り、お化け屋敷の横の小道まで急いで戻ります。女の子がいました。一体何処で手に入れたのか分かりませんが、角砂糖を一つ地面に置いて群がる蟻をぼーっと眺めています。
「ねぇ」
私が話しかけると、彼女はパッと顔を上げました。
「あなた、小島万里さん?」
彼女は首を傾げました。
「じゃあ、黒姫さん?」
彼女はもっと首を傾げました。
「じゃあ……あなたは誰? 名前は?」
彼女は少し考えたあと、とても澄んだ綺麗な声で「分からない」と答えました。
当てが外れてしまいました。こんな不思議な夢に思わせぶりに出てきたのだから、てっきり小島万里さんか黒姫さんのどちらかだろうと考えていたのですが、違いました。ファンタジー小説の読み過ぎだったみたいです。
はあぁ、と落胆していると、また澄んだ声が聞こえました。
「あなたはだあれ?」
「私? 私は佐倉芽生」
「あなたは何をしているの?」
「私は……えっと」
彼女は大きな目で、説明できずに口ごもる私をじっと見ていました。
「それは楽しいことなの?」
その質問に、私はたじろいでしまいました。無我夢中でした。ワクワクしてました。人の家に勝手に入るのを楽しむなんて、いけないことです。でも、こんなに夢中になったのは久しぶりです。
「多分」
「本当?」
彼女は目をランランと輝かせながら、顔をグッと近づけてきました。気持ちが溢れ出したような屈託のない笑顔です。彼女の周りにキラキラと、星が舞っているかのような眩しい笑顔です。きっと少女マンガの背景にある花やキラキラは、この煌めきを表現していたのでしょう。
「私も、私もやるわ」
少し拙い喋り方が、見た目以上に子供っぽく見せます。楽しそうにはしゃぐ姿はちょっぴり山田さんに似ています。
「やるって、何を?」
「ふほうしんにゅう」
あどけなく見えましたが、ちゃんと悪い言葉も知っているようです。
私と彼女は一緒にブロック塀まで移動しました。彼女は興奮ぎみに塀に飛びかかりますが、あまり体力がないらしくなかなか登れません。仕方がないので私が下から押し上げます。
二つ目の塀も乗り越えます。お化け屋敷の庭へと飛び降りる前に、庭一面を眺めました。背が高い雑草に埋もれている庭ですが、よく見ると結構な量のものが隠れていました。そこを先に庭に入った彼女が走り回っています。
「草に隠れて色んなものが落ちてるから気をつけなよ」
「へーき、へーき」
彼女は棚の一つにぴょんと飛び乗りました。そして飛び降りて、またぴょんと乗ります。一体何が楽しいのか分かりませんが、彼女は飽きることなくそれを繰り返しています。
一つ目の棚にようやく飽きたかと思ったら別の棚にぴょんと飛び乗り、同じように飛び降ります。しかし着地に失敗したらしく、コロンと雑草の中に消えていきました。
「大丈夫!」
驚いて彼女の元へ駆け寄りましたが、彼女はケラケラと楽しそうに笑っていました。怪我などはしていないようです。彼女の手を取って立ち上がらせて、ワンピースに付いたほこりをパンパンと払います。
「危ないからここで走ったり飛んだりしないの」
「うん」
そう元気に答えた彼女ですが、言ったそばからまた走り出してしまいました。彼女が走り回ったせいで折れたり、千切れたりした草が青臭い臭いを漂わせています。
彼女を追いかけようと一歩足を踏み出すと、カツンと足に何かが当たりました。古い手鏡にボロボロになった紐が括り付けられています。
キラリと光っていたのはコレだったのでしょうか? なんだと少し拍子抜けでしたが、よくよく考えるとコレは一体何の為にここにあったのでしょうか?
辺りを探してみると、手鏡からはだいぶ離れていましたが何かが落ちています。お化け屋敷の管理をしていたおばさんが見せてくれたものと同じ、青い猫のあのアクリルキーホルダーでした。近くには小袋もありました。
小袋はランドセルの横にあるフックに付けるようなものでした。私の学校ではお箸セットとランチョンマットを入れていますが、他の学校でもそうなのでしょうか? そもそも何でこんな所にあるのでしょうか。
手鏡と違って小袋は新しいものでした。中にはお箸セットとランチョンマットが入っています。お箸セットには名前の書いてあるシールが貼られていました。
山本沙那。そう書かれていました。
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