第六話 納言さんと図書委員
「今日はこのあと委員会があるので、入っている人は忘れずに参加するように。じゃあ、挨拶」
「起立」
定子さまが、挨拶の号令をなさる。
さようならー、と礼をしたあと、私と定子さまはチラリと視線を交わした。
定子さまは、同じ学級委員、そして恋人でもある一条さんと一緒にいらした。
目線だけでも、定子さまが「頑張って」と仰っている(はず!)ことが伝わってきた。
私も、「頑張ってください!」と念を込めて視線を向ける。
そして、私はこのクラスのもう一人の図書委員を探すべく、キョロキョロと周りを見た。
「あっ、いた。世尊寺、図書委員だよね。一緒に行ってもいいかな」
「ああ、もちろんいいですよ」
彼の名は、世尊寺行成。
いかにも真面目そうな黒縁の眼鏡をかけた男子だ。
彼とはまだ接点がなく、上手くやっていけるか不安なのだが、悪い奴ではなさそうだ。
「委員会の場所、図書室だっけ? ええっと、どこにあったかな?」
「あっ、自分、わかります。ついてきてください」
さすが真面目くん、頼りになる。
私は世尊寺に案内され、図書室にたどり着いた。
入ると、暖かみのある木製の本棚に所狭しと本が並んでいて、しばらく圧倒されていた。
そこには、もう多くの人が来ているようで、ザワザワと話し声が聞こえている。
委員会の先生は、私たちも教えてもらっている、国語の赤染先生。
しっかりした大人、という感じで、カッコいい。
「一年一組さんですね。ここに座ってください」
先生が示したのは、テーブルの一番手前の席だった。
そこにテーブルを挟んで向かい合って座るらしく、他のクラスに倣って私たち二人も座った。
すぐ隣には、二組が座っている。
隣の女子は、眼鏡から覗く賢そうな瞳をキラキラと輝かせていた。
視線の先を辿ると、本棚がある。
なるほど、この子は本が好きなのか。
だが、その女子は同じクラスの男子に話しかけられた途端、ビクンと震えてカクカクと頷いた。
あー、これは人見知りするタイプの子だな。
そんなことを考えていたら、
「では、全員揃ったようなので、委員会を始めたいと思います」
と先生が言った。
「まずは委員長を決めますね。二年生の中から選びます」
先日の学級委員決めのように、演説してから投票を行った。
落選した先輩は副委員長を任されることとなり、今回の決めるべきことは決まった。
「では、委員長・副委員長も決まったことですし、学級文庫を作りましょう。図書室の本を自由に選んで、このコンテナに入れて教室に持って行ってください。それが終われば、今日は流れ解散で構いません。それでは、始めてください」
仕事の説明を聞き、私は一人ワクワクしていた。
だって、クラスに置く本を自分で決められるんでしょ?
「リスト、もらいました。決めたら、ここに書き入れるようです」
「ありがと! 欄は二十個ある。じゃあ世尊寺、ノルマは十冊! 探してきましょ!」
「了解です」
世尊寺は、眼鏡のブリッジをクイっと上げてから、本棚に向かって行った。
よし、私も。
私はニッと笑うと、本棚の森に入って行った。
―――
約五分後。
テーブルに戻ってきた私は、リストに本のタイトルを書き入れていた。
『おもしろい日本の歴史』などの勉強になる系や、メディア化で話題の作品まで、バリエーションのある本棚になりそうだ。
「お待たせしました。えっ、もう十冊集めたんですか?」
「へへ、そうよ。世尊寺は?」
「あと二冊です」
世尊寺がテーブルに置いた本を覗き込んでみる。
ふむふむ、『動物とのふれあいかた』、『かわいい折り紙』、……『書道が上手くなる本』、『水墨画図鑑』?
思わずジッと世尊寺を見ると、ワタワタと手を胸の前で振った。
「あの、これはその、実は僕の家は書道教室でして……」
「えっ、スゴ」
私が素直に驚いていると、
「あっ、すみません、今リストに書きますね」
世尊寺は、筆箱からシャーペンを取り出して、リストにサラサラと走らせた。
その字は、バランスよく、読みやすい。
簡単に言うと、超上手かった。
「えっ、上手すぎない⁉︎」
「いえ、そんなことは……」
そう言う世尊寺は、照れているのか、顔を少し赤くしていた。
その後、本を全部集め終えた私たちは、教室にコンテナを運び、帰るために土間まで歩き出した。
そういえば、今日は帰る人がいない。
靴箱を見ると、定子さまの靴がある。
ということは、まだ委員会かな。
私は、靴を履く世尊寺の方を向き、話しかけた。
「ねえ、今日一緒に帰らない?」
「……えっ?」
世尊寺は、驚いたようにレンズの奥の目を見開いた。




