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第一話 納言さんと定子さま

 清々しい春の朝。

 私はいつも通り学校に登校した。

 一年一組の教室に入り、そばにいる子たちと「おはよー」と挨拶を交わす。

 前から四番目の席に荷物を下ろすと、「おはよう、納言さん」と通路を挟んで隣の席の定子さまが話しかけてくださった。


「おはようございます、定子さま。今日はよく晴れて、気持ちのよい朝ですね」


「そうね。あっ、今日は英語がある……」


 定子さまは、時間割表を見て困ったように眉を下げた。

 もしかして。


「定子さま、英語が苦手なのですか?」


「……実は、そうなの。文法とかがよくわからなくて」


 こっ、これはっ。

 お近づきになれるチャンス、なのでは⁉︎

 私は、思わず身を乗り出した。


「もっ、もしよろしければ、私が教えて差し上げましょうかっ」


 すると、定子さまは驚いた顔をした。


「納言さん、英語できるの?」


「ええ、特別得意というわけではないのですが、それでもよろしければ」


 入試の順位は二位だったので、学力には多少自信がある。

 こんな私でもお役に立てることといったら、これくらいしかないのだ。

 前のめりになったまま定子さまの答えを待っていると、定子さまは感心したように言った。


「さすが納言さんだわ……。そうだ、納言さん」


 定子さまが、ポンと手を叩いて仰った。


「私の、家庭教師になって!」


 花が芽吹くような笑みに、私は眩しいと目を細め――。


「え? か、家庭教師? 私が⁉︎」


「そう、家庭教師。お願いできる?」


 私はワナワナと手を震わせながら、確認する。


「そ、それは、私が定子さまのお宅にお邪魔して、教えて差し上げる、ということでしょうか?」


「ええ。あ、お父さまに相談しなければいけないから、OKが出たら、だけれど」


 定子さまの、お父さま。

 その方の名は、藤原道隆(ふじわらみちたか)さま。

 とても偉い政治家で、今の総理大臣だ。

 そんな方に、私のことを話すの⁉︎

 なんだか恐縮してしまう。

 でも。

 私が、この方のお役に立てるのなら。


「やらせてください。私に、家庭教師を」


 私は、定子さまの目を真っ直ぐに見てそう言った。

 すると、定子さまのガラスのようにお綺麗な瞳が、キラリと楽しそうに瞬いた。


「ありがとう! まだ決まりかはわからないけれど――」


 そして、ニコリと微笑んでこう仰った。


「よろしくね、納言諾先生」


 その笑顔が、私にはどんな宝石よりも輝いて見えた。


 その日、私は珍しく授業に集中できなかった。

 なぜなら、朝のあの一件があったからだ。

 定子さまの、家庭教師……!

 総理大臣の娘だから、ではなく。

 私は、藤原定子というお方その人に惹かれてしまったのだ。

 入学式の日に出会ってから、私は定子さまのことが大好きになった。

 定子さまは、緊張しっぱなしの私にも、明るく話しかけてくださった。

 そんな優しく美しい方の家庭教師なら、喜んでお受けするに決まっている。

 私はその日、ずっとにやけ気味だった。

 周りから気味悪がられたことは、言うまでもない。

 かくして、私・納言諾は、総理大臣の娘・藤原定子さまの家庭教師になることになったのだった。

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