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聖女巡礼録 追放された聖女は敵国を旅することにした  作者: 深雪
序章 祈りの果て、旅の始まり
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序章 第3幕:旅立ち 第7話 後編

カミーユは色鮮やかな織物が並ぶ露店の前で足を止めた。雷雲に向かって飛ぶ鳥の模様、稲妻を模した鋭いジグザグ、渦巻きと波線が絡み合う文様、小さなひし形が連なる幾何学模様──それぞれが異なる空気を纏って、風に揺れていた。

「これ、どこのものでしょうか?」

店先に佇む商人に尋ねると、彼は布を整えながら答えた。

「ブリッツシュラーク群島から来たんだよ。雷と海の島々さ」

「すごく綺麗ですね。模様には、何か意味があるんですか?」

「あるとも。模様は織られた島を示してるんだ。雷雲に向かって飛ぶ鳥はツークフォーゲル島、稲妻のジグザグはドンナーフェルス島といった具合にさ」

カミーユは感心しながら、棚に並ぶ織物のひとつを手に取った。ラベンダー色とキャメル色が美しく調和した布地──だが、端の一部が焦げているのに気づいて、眉をひそめる。

「これ……不良品ではないでしょうか?」

商人は目を丸くして、すぐに笑みを浮かべた。

「お客さん!これはただの不良品じゃありませんぜ。雷神さまが直々に印をつけてくださった、唯一無二の織物なんです。焦げてる?いやいや、これこそ神意の証拠でさ!」

カミーユがじろりと睨むと、商人は肩をすくめて苦笑した。

「まぁ、実際はこの時期、雷がひどくてね。持っていく最中に落雷が起きることもあるんですよ。どうしても、こういうのができちまう。でも逆に言えば──今しか手に入らない、雷季限定のレアもんってわけで!」

カミーユは織物の焦げ跡を指先でそっと撫でながら、静かに言った。

「それは……大変ですね」

商人は肩をすくめて、苦笑交じりに答えた。

「ええ、まあね。でも雷季を超えたら、魚のうまい季節になるんですよ」

「魚……?」

カミーユが目を上げると、商人は嬉しそうに頷いた。

「群島の魚は、雷が海をかき回したあとに脂が乗るんだよ。特に小さな島ほど、潮の流れが複雑でいい魚が集まりやすい」

カミーユは興味深そうに耳を傾けた。

「それなら、旅人にも人気がありそうですね」

商人は苦笑しながら首を振った。

「いや、それがね──そういう小島の漁師たちは余所者に魚を渡すことは滅多にないんですよ。島の味は島の者だけのもんだって考えてる」

「閉じてるんですね」

カミーユが静かに言うと、商人は頷いた。

「ブリッツシュラーク群島は、他の地域と接してないから、どうしても閉鎖的になる。雷も多いし、海も荒れるし、外との行き来が難しい。だから、こうして他国にまで商売に出る俺みたいなのは、珍しい方なんだ」

カミーユは織物の焦げ跡をもう一度見つめた。雷の印と、閉じた海の味──その両方が、この布に刻まれているような気がした。


カミーユは足を止めることなく、隣の店へと視線を移した。ふわりと甘い香りが風に乗って漂ってくる。その香りにつられるように、マリーとクララも自然と彼女のそばへと歩み寄ってきた。

店先には水色に着色された硝子の小瓶がずらりと並んでいる。 棚の一角には、小瓶を包むための布が丁寧に畳まれて置かれている。布には雪の結晶を模した繊細な刺繍が施されており、冬の静けさと清らかさを思わせる意匠だった。

クララはそっと一歩近づき、瓶のひとつに指先を伸ばした。硝子越しに覗き込むと、淡い光を宿した結晶が静かに沈んでいる。ラベルには、王国語で『氷蜜』と丁寧な筆致で記されていた。

その文字を目にした瞬間、クララは驚きに目を見開き、思わず店主に声をかけた。

「氷蜜って……貴族の贈答品じゃなかったですか?」

氷蜜──それはアイスツォプフェンなど雪深い地域でしか採れない、結晶化した蜂蜜。砂糖よりも上品な甘さを持ち、薬効もあることから、庶民の手には滅多に渡らない。王都では金貨一枚以上の値がつく、高級品として知られていた。

店主はにっこりと笑い、瓶をそっと持ち上げて答えた。

「ええ。確かに貴族向けのものはもっと大きな瓶に入っていて、保存用の箱もついてます。でもこれは庶民向けの贅沢品。小さめの瓶だから、銀貨一枚で手に入るんですよ」

クララは瓶の中の結晶を見つめながら、静かに息を吐いた。

「……それでも、手に取れる距離にあるなんて、ちょっと夢みたいですね」

店主は満足げに頷いた。

「贅沢は、ほんの少しでも心を豊かにしてくれますからね。雪国の恵みを、どうぞお試しあれ」

そういって店主は大きめの瓶から氷蜜の欠片を木製の匙で取り出し、3人に渡した。ほんのりと甘さが口いっぱいに広がり、雪のように静かに溶けていく。

クララは驚きながら呟いた。

「……これが庶民向けなんですか?」

店主は笑みを浮かべて頷いた。

「ええ、小瓶だから庶民に届けることができるんですよ」

カミーユは不思議そうに呟く。

「家で買ったものよりも自然な甘さが感じますね」

「瓶詰の際に低温で丁寧に封じてます。だから、ここ数年はより現地で味わうのと近い自然な甘さが楽しめるんですよ」

マリーは店主に尋ねる。

「アイスツォプフェンは雪深い地域なんだよね。ここまで運ぶの大変じゃなかったですか?」

店主は瓶を荷車に戻しながら穏やかに答えた。

「ええ、冬の間は道も凍ってしまうので、運ぶのは難しいですね。でも最近は雪解けが進んで、南部はだいぶ過ごしやすくなってきましたよ。とはいえ、八月くらいまでは夜は冷え込みますけどね」

クララは興味深そうに耳を傾けながら、ふと空を見上げた。

「寒い夜って、星がよく見えるんですよね」

店主は少し目を細めて、懐かしそうに言葉を継いだ。

「ええ、空気が澄んでいるから星もよく見えます。運が良ければ、オーロラも見られますよ」

「オーロラ……?」

マリーが目を丸くすると、店主はにこりと笑った。

「アイスツォプフェンでは、春先の夜に緑や紫の光が空を流れることがあるんです。風が静かで空が晴れている夜に限りますけどね。まるで天から垂れた絹のように揺れるんです」

カミーユは瓶の中の結晶を見つめながら、静かに呟いた。

「そんな景色の中で採れる蜜だから、こんなに澄んだ味がするんですね」

店主は満足げに頷いた。

「自然の恵みは景色も味も、どちらも贈り物ですからね」

店主の話に耳を傾けながら、クララは瓶をそっと手に取った。淡い結晶が光に透けて揺れている。

「……旅の道中に風邪とか引いた時のために、氷蜜、買っておこうかな」

クララがぽつりと呟くと、マリーも頷いた。

「喉に効くって書いてあるし、甘いものは気分も上がるしね」

カミーユは微笑みながら布の刺繍を撫でた。

「贅沢だけど、こういうのがあると安心できますね」

店主は三人の様子を見て、嬉しそうに瓶を包み始めた。

「旅の荷にひとつ、雪国の恵みを。きっと役に立ちますよ」

3人は銀貨を店主に渡して、その場を後にした。


露店の一角に分厚い書物がずらりと並んでいた。革装丁に金の箔押し、見慣れない文字が背表紙に並ぶ。『都市構造と魔力供給網の発展史』『占星術における天体運行の基本法則』『古代語入門 ガルブレイス編』どれもが基礎分野で重要な書物であることが並べられた姿からも伝わってくる。リュカは眉をひそめながら、商人に声をかけた。

「……これって、こんな田舎で売っても大丈夫なんですか?」

商人は笑いながら、書物のひとつを軽く叩いた。

「平気平気。これ全部、勉励院の新入生向けの教科書なんだけど、版の切り替えで売り残っちゃったやつなんですよ」

勉励院――フェアギストマインニヒトにあるヴェルナーラ皇国の最高学府。魔術、理学、言語、歴史など多岐にわたる学問を網羅し、皇国中から優秀な若者が集まる場所だ。国外からの留学生も多く、学術都市としての顔も持つ。

商人は続ける。

「これらのためにわざわざ王都から来る学者もいるし、僕は王国中を回って売る予定なんです。こういう場所でも、案外買い手はいるんですよ」

リュカは書物の背表紙を指でなぞりながら、静かに息を吐いた。田舎の露店に並ぶにはあまりにも重厚な知の気配が漂っていた。リュカは書物の背表紙を眺めながら、ぽつりと呟いた。

「……勉励院って、入るの難しいんですよね」

商人は肩をすくめて笑った。

「まぁね。でも、入学するよりも卒業するほうが大変らしいですよ。途中で論文に潰される人、けっこういるって聞きます」

リュカは目を丸くした。

「そんなに……?」

「ええ。特に魔力理論とか古代語研究は、教授陣が厳しくて有名ですから」

商人は声をひそめていった。

「でも、論文を読むくらいなら入学してなくてもできますよ。申請すれば閲覧許可が出ますし、地方の図書館にも複製が回ってくることがあります」

リュカは少し考え込むように言った。

「……じゃあ、勉励院に行かなくても、勉励院の知識に触れることはできるんですね」

商人は満足げに頷いた。

「そう。ただ、閲覧許可が出るまで結構時間がかかるから皇国の人たちは本屋で買っちゃうんです」

リュカは書物の並ぶ露店を見回しながら、ふと首をかしげた。

「……なんでこんなところで売ってるんですか?」

商人は肩をすくめて、苦笑まじりに答えた。

「今は雨季でね。フェアギストマインニヒトは湿気がひどくて、本がすぐにダメになるんですよ。紙が波打って、インクも滲むし、保管にも気を使う。街道も水浸しで今の時期は馬車なんて使えたもんじゃない。移動はほとんどボートです。だから、本を管理するのも一苦労でね。それで、少しでも乾いた土地に逃げてきたってわけです」

リュカは驚いたように書物を見つめた。

「じゃあ、ここに持ってきたのは……」

「雨季の間に他国に売りさばくんです。ここなら空気も乾いてるし、保管も楽。それに皇国ではこういう本はもうある程度普及してるからね。学者や学生が多い都市部じゃ、あまり動かないんですよ」

商人は革装丁の一冊を指先で撫でながら続けた。

「コネッサンスなんかでも皇国の専門書はまだ珍しいし、価値も高いんです」

コネッサンス――モン・ルミエール王国最大の学術都市。 魔術から哲学、工学まで幅広い知識が集まる場所だ。リュカはその名を思い浮かべながら、少し驚いた。あれほどの都市でも皇国の学術書はまだ希少なのか。リュカは革装丁の本を手に取りながら、少し考え込むように言った。

「じゃあ、皇国の学問って……まだ外には広がってないんですね」

商人は首を横に振り、軽く笑った。

「いや、広がってはいるんですよ。翻訳されたものは各地に出回ってるし、勉励院の授業の講義録なんかも流通してる」

彼は指先で背表紙の金文字をなぞった。

「でもね、原典を欲しがる人は多い。訳されたものじゃニュアンスが抜けるって言って、わざわざ皇国語を学ぶ学者もいるくらいです」

リュカは感心したように頷いた。

「……知識って言葉の奥にもあるんですね」

商人はにっこり笑った。

「ええ、だからこそ本は旅をするんです。言葉の壁を越えてね」

リュカは露店の書物を眺めながら、ふと尋ねた。

「今度、皇国を旅するんですけど……おすすめの本ってありますか?」

商人は少し考え込み、棚の奥から分厚い一冊を取り出した。

『ヴェルナーラ皇国史叢書:創世記編』――革装丁に銀の箔押しが施された重厚な書物だった。

「これですね。勉励院に来る留学生向けの歴史の教科書の一冊目なんです。皇国の神話と建国伝承を学術的に整理してあるんですよ」

リュカは表紙を撫でながら、驚いたように言った。

「神話が教科書になるんですか?」

商人は笑って頷いた。

「ええ。ヴェルナーラは技術も制度も進んでるけど、根っこでは神話が生きてますからね。政治や魔法の思想にも影響してる。だから、留学生にはまずこれを読ませるんです」

リュカは本の厚みに目を丸くした。

「……読むのに時間かかりそうですね」

「旅の途中で少しずつ読めばいいんですよ。夜の宿で神話の始まりを辿るのも悪くないでしょう?」

リュカは商人の勧めた本を購入し、革装丁の重みを腕に感じながら次の店へと足を向けた。


しばらく歩いていたリュカは、露店の一角で店員と話しているアンリの姿を見つけた。そっと背後に回り込み、いたずらっぽく彼の背中を押す。アンリは肩を跳ねさせて振り返り、すぐにリュカの頭を小突いた。

「……急に触るな。気持ち悪い」

リュカは頭を押さえながら、悪びれもせず笑った。

「えー、兄弟に背中押されたくらいでそんな言い方する?」

アンリはため息をつきながら、釣り竿を指さした。

「旅に行くならこれを持っといた方がいいって言われて、色々吟味してるところ」

店員がすかさず口を挟む。

「ゼンマイ仕掛けで自動で糸を巻き上げるんですよ。初心者にも使いやすい設計で、今なら浮きに小魚の自動人形もつけます。魚が寄ってきやすくて評判なんです」

リュカは目を丸くした。

「ゼンマイ仕掛けって、モン・ルミエールじゃあんまり見ないよね。すごいなこれ」

アンリは釣り竿を手に取り、重さを確かめるように振った。

「……まぁ、使えそうなら買う。無駄にはしたくないしな」

リュカはふと尋ねた。

「アンリって、釣りやったことあるの?」

少し間を置いてから、アンリはぼそっと答えた。

「……昔、爺さんに連れて行かれたことがある」

「爺さんって……母方の?」

「そう」

アンリはゼンマイ部分を指先でいじりながら、視線を逸らした。

「そんなことあったっけ?」

「離婚した後の話だ。お前は父さんに引き取られたから、知らなくて当然だろ」

リュカは少し黙ってから、釣り竿の先端を見つめた。自分の知らない時間の中で、アンリが母方の家族と過ごしていたことにほんの少しだけ距離を感じた。

「……そっか。爺さん、釣り好きだったんだね」

「別に好きってほどでもなかったと思う。ただ、暇だったんだろ」

アンリは素っ気なく言いながら、釣り竿を持ち直した。

「……フリューゲルまでの道中、補給が滞ったら困るしな。使えるなら買う」

アンリがぼそっと言うと、リュカは浮きの小魚人形を眺めた。唐辛子に似た奇妙な形をしている。

「見た目はちょっと面白いけど、魚が寄ってくるなら十分役立つね」

「見た目はどうでもいい。釣れるかどうかだ」

「でも、釣れたら僕が捌くから安心して。焼くのも任せて」

「お前が捌けるなら、俺は釣るだけでいい。合理的だな」

アンリが代金を支払うと、店主は棚の下から一冊の冊子を取り出した。

表紙には『水都月報』と金文字が印刷されている。

「金貨一枚以上のご購入者様にはこちらをおまけで差し上げてます。今月号ではなく、あえて先月号にしました。モン・ルミエールの方なら、気になる()()()()が載ってますからね」

アンリはちらりと店主を見て、素っ気なく言った。

「その事件なら王国で聞いたから、もう十分だよ」

リュカも頷く。

「経緯も裁定も、だいたい把握してるしね」

それでも店主は笑みを崩さず、冊子を押し出した。

「ええ。でもこれはゴシップかもしれませんけど、面白い情報が載ってるんですよ。関係者の証言とか、裁判の裏話とか……真偽はともかく、読み物としては楽しめます」

アンリは少しだけ眉をひそめたが、冊子を受け取った。

「……読み終わったら捨ててもいいってことか」

「もちろん。荷物になるようなら、焚き火の火種にでも」

リュカは冊子をめくりながら、目を細めた。

「……火種にするには、ちょっと気になる見出しだな」

ページをめくる音が静かに響く中、店主は興奮気味に語り始めた。

「この事件の決闘裁判、ほんっとうに盛り上がったんですよ。見物人が決闘場の外にまで溢れてました」

「……決闘裁判?」

リュカが眉をひそめると、店主は頷いた。

「判決に不服があるときに申し込む制度です。裁判所が認めれば、刑事でも民事でも決闘が行われます。刑事では水神さま側の代理人と被告が戦い、民事では原告と被告が直接対決することも。勝者が判決を確定させるんです」

アンリが腕を組みながらぼそっと言った。

「じゃあ、水神さまが自ら戦うなんて、普通はないんだな」

「ええ、代理人を立てるのが基本です。でも今回は違いました。軍人たちが『水神さまは日和ってるのか?』と挑発して、ついに本人が土俵に立ったんです。『戦えばいいんでしょ』って」

リュカは静かに息を吐いた。

「……制度を理解してない挑発は、軍の恥だな」

「代理人たちは必死に止めましたが、水神さまが何か小さく囁いた途端、誰も止めなくなった。剣を差し出され、静かに道が開いたんです」

アンリは目を細めた。

「……剣を持つ前から勝ってたってことか」

「まさに。決闘は一時間半、軍人十人を次々と倒していったそうです。華奢な体なのに素晴らしい剣さばきだったって」

「……それで決闘場は?」

リュカが尋ねると、店主は笑みを浮かべた。

「お酒とフードの売り上げは過去最高。屋台は長蛇の列、歓声と拍手。決闘場って完全予約制のはずが、噂が広まった途端に空席チケットが売り出されて、あっという間に満席。立ち見まで出ました。あれはもう裁判じゃなくて祭りでしたね」

リュカはぽつりと呟いた。

「……軍人が裁判を祭りに変えたなら、それはもう敗北だな」

アンリは無言で冊子を鞄にしまった。その手つきは、どこか慎重だった。店主は語りの熱が冷めないまま、冊子を指で弾きながら言った。

「なので、シュプリューレーゲンに行ったら、普通の裁判と決闘裁判、どっちも見に行った方がいいですよ。静かな法廷と、熱気のある決闘場、両方見てこそシュプリューレーゲンの司法って感じですから」

アンリは少し考えるように目を伏せてから、問いかけた。

「他に、見ておくべきものはあるか?」

店主は即座に頷いた。

「工業地域の夜景ですね。水面に映る灯りが綺麗で、遠目から見る分には幻想的です。ただ、近づくと機械油の匂いや騒音が結構強いので、苦手な方は注意した方がいいかもしれません」

リュカは興味深そうに耳を傾けながら、ふと冊子の端を指でなぞった。

「工業と水の都ってあまり結びつかない印象なんだけど……」

店主は笑みを浮かべて言った。

「そう思われがちですが、意外と自然もあるんですよ。水路沿いには湿地帯や水草の群生地もありますし、郊外には水鳥の保護区もあります。 都市の喧騒と、静かな水辺の両方があるのがシュプリューレーゲンの魅力です」

アンリは頷きながら、ぼそっと言った。

「……裁判と夜景と湿地。妙な組み合わせだな」

店主は肩をすくめて笑った。

「でも、どれもこの街の“顔”ですから。時間があれば、ぜひ全部見ていってください」

双子は露店を後にし、少女たちを探すことにした。二人の間を穏やかな風が通り抜けていった。


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