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聖女巡礼録 追放された聖女は敵国を旅することにした  作者: 深雪
序章 祈りの果て、旅の始まり
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序章 第2幕:作戦会議 第12話

地図の上に広がる線たちが、まるでそれぞれの未来を示しているかのようだった。

誰もが黙り込む中、マリーがそっと声を上げる。

「……今回の目的は、ヴェルナーラを巡る旅に出ることなんです」

彼女の声は静かだったが、確かに場の空気を揺らした。

「だったら、無理して冒険するより、安全なルートにした方がいいんじゃないかなって……思って」

アンリが眉をひそめる。

「安全って言っても、退屈な道になるかもしれないぞ。せっかくの旅なのに」

マリーは少しだけ笑った。

「退屈でも、無事に辿り着けるなら、それも素敵な思い出になると思う。景色を見たり、人と話したり……そういう時間も、旅の一部だから」

クララが頷く。

「うん、わたしもそう思う。セレリス山脈の道なら、途中に村も点在してる。人の気配があるって、安心できるよね」

リュカは地図を指でなぞりながら、冷静に言った。

「補給地点も多いし、天候の急変にも対応しやすい。戦略的にも、悪くない選択だ」

アンリは少し口を尖らせながらも、地図を見直す。

「まあ……湖越えはロマンあるけど、今の時期は賭けすぎるか。水位が変わったら終わりだしな」

カミーユは微笑みながら、マリーに目を向けた。

「よく考えましたね。安全を選ぶことは旅を長く続けるための賢い選択です。無理をして誰かが傷ついたら、それこそ本末転倒ですから」


窓の外では、風が丘陵を撫でていた。その風が、彼らの決断を静かに後押ししているようだった。

アンリが地図の上に指を置く。

「じゃあ、セレリス山脈ルートで決まりか。……ま、途中で寄り道くらいは許してくれよな」

マリーは少し驚いたように目を見開き、それから嬉しそうに笑った。

「もちろん。寄り道も、旅の醍醐味ですから」

その笑顔に、場の空気がふわりと和らいだ。旅の始まりは、こうして静かに、しかし確かに動き出した。


「じゃあ、どこで物資を補給するべきか話し合おうか。どこで補給するかで結構変わると思う」 リュカが提案する。その目つきは天才軍師の頃の鋭さをわずかに残していた。

アンリが頷きながら地図の端を指でなぞる。

「ブラン・ド・ノワール村とか?あそこならモン・ルミエールの文化とヴェルナーラの文化が混じってるし、物資も情報も両方手に入るはず」

カミーユはアンリの意見に頷く。

「あそこの村はここからの距離とヴェルナーラとの距離のちょうど中間地点にありますし、ちょうどいいかも知れませんね」

クララが椅子の背にもたれながら、少し考えるように口を開いた。

「でも、ブラン・ド・ノワールって、交易は盛んだけど、最近治安が不安定って噂もあるよ。盗賊が出るって話、聞いたことない?」

リュカは目を細め、地図の上に指を滑らせた。

「確かに、南側の街道沿いで襲撃があったという報告がいくつかある。村の北側から入れば比較的安全だが、時間は余分にかかるな」

アンリが眉をひそめる。

「うーん……安全を取るか、効率を取るか。どっちにしても、補給は必要だし、情報も欲しい。リスクを承知で行く価値はあると思うけど」

カミーユが静かにメモを取りながら言った。

「もし村に立ち寄るなら、滞在は最小限にして、必要な物だけを素早く調達するのが良さそうですね。情報収集も、信頼できる筋に絞って」

リュカは皆の意見を聞き終えると、地図を折りたたみながら言った。

「よし、ブラン・ド・ノワールに立ち寄る方向で進めよう。ただし、警戒は怠らず、滞在は短く。準備は万全にしておくこと」

その声には、かつて戦場で数々の決断を下してきた者の重みがあった。部屋の空気が、次第に旅の緊張感へと染まっていく。


「そろそろ出発するんだろ?最低限必要なものは確認しとこ。時間も物資も限られてるし、優先順位はつけとくべきだ」

アンリが提案すると、カミーユは手帳を開き、落ち着いた口調で項目を読み上げる。

「まずは、カレンベルク侯爵が送ってくださった探検家組合の推薦状と、ビザ関連の書類。皆さま、記入は済んでいますか?」

全員が頷くのを確認すると、彼女は次の項目に目を移した。

「食料は三日分を基本に、保存がきくものを中心に。水は最低でも水筒一本分。村で調達できるものは、現地で補充しましょう」

クララは指を折りながら数える。

「たぶん、途中で野宿になるよね。毛布は持って行った方がいいと思う。あと、何かあった時のために着替えは一セットは必要かな」

アンリは床に置いてあったポーチを引き寄せる。

「地図と、侯爵からもらったガイドブック、火打石、ロープ、筆記用具はこの中に入れてある。薬箱には包帯と薬草、簡易治療道具も揃えた」

少し間を置いて、彼は静かに頷く。

「それと、大きめの天幕を持っていく。最低限、雨風はしのげるようにしておきたい。食料が尽きた時のために、鍋も入れておこう」

カミーユは手帳を閉じ、柔らかく微笑んだ。

「これで、必要なものは揃いましたね。今日中には準備を終えられると思います」

リュカが窓の外に目を向けながら、静かに言った。

「明日の朝には出発できる。風も落ち着いてきたし、天気も悪くなさそうだ」

クララがカップを持ち上げ、少しだけ笑みを浮かべる。

「いよいよだね。なんだか、胸が少しだけ高鳴ってる」

アンリは立ち上がり、ポーチを肩にかけながら言った。

「じゃあ、荷物の最終確認してくる。出発前に忘れ物したら笑えないからな」

それぞれが静かに動き出す。部屋の空気には、旅の始まりを前にした緊張と期待が、ゆるやかに満ちていた。

序章 第二幕終わりです。次は5人の旅路のために、誰かが静かに動いていた。そんな一幕を、そっと挟んでみました。お楽しみに。


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