序章 第二幕:作戦会議 第11話 後編
「じゃあ、始めようか。作戦会議」
クララは湯気の立つカップを両手で包みながら、テーブルの中央に視線を落とした。その声は柔らかかったが、どこか芯のある響きを帯びていた。
アンリは地図を広げ、ペンを指でくるくると回しながら言う。
「まずは海路。ポール・ダルエット港からローゼンフルト港へ。イザークが言ってた通り、今は雨季で町が水浸しってのがネックだな」
「でも、船旅って魅力的だよね。蒸気船、乗ってみたいな。ローゼンフルトって響きも素敵だし」
マリーがぽつりと呟く。
モン・ルミエール王国は南側にしか海がなく、海を渡る旅は貴族や大商人に限られている。 一度でもいいから体験してみたい――そう思うのは自然なことだった。
リュカはソファに深く身を預けながら、冷静に言葉を挟む。
「幻想的なのはいいけど、現実的に動けるかどうかが問題だ。冠水してるなら、港に着いても町の中を移動できない可能性がある」
カミーユは静かに頷いた。
「それに、船の運行も不安定です。予定が狂えば、次の接続にも影響が出ます」
アンリがペン先で地図の山脈をなぞる。
「じゃあ、次。ドーブ山を越えてネーベルメーア湖を渡るルート。最短だけど、地磁気が狂ってるって話だったな」
「山を歩くなら羅針盤は必須だけど、ここだと方角がわからなくなるから詰むね。行ったことある人がいれば話は別だけど……いる?」 リュカが周囲を見渡すが、誰も首を横に振る。クララが続けて口を開いた。
「それに、ラック・ド・ブリュム湖って水位が不安定なんでしょ。もしドーブ山を越えられても、湖を渡るのはかなり大変そう」
アンリが言う。
「でも、シュプリューレーゲンに直接行けるのは大きい。あそこは物資が揃いやすい」
「どうしてなの?」
マリーが思わず問いかける。リュカはその疑問に答えるように口を開いた。
「あそこ、経済力が桁違いなんだ。工業も農業も発展してて、独立しても国としてやっていけるって言われてる。シュプリューレーゲンにないものは、ほとんどないよ」
マリーは納得したように頷いた。
カミーユが地図の端に指を置く。
「最後は、セレリス山脈を越えて、エルヴァ丘陵を抜けてフリューゲルへ。距離はあるけど、道は穏やかです」
「宿が少ないのが難点だな。補給は計画的にしないと」
アンリが言う。
「でも、風が草を撫でる道って、歩いてみたい」
クララがぽつりと呟いた。
しばらく沈黙が落ちた。窓の外では、丘陵の稜線が夕暮れに染まり、風が静かに木々を揺らしていた。
「……それぞれに良さも難しさもある。決めるのは、何を優先するか」
カミーユが静かに言った。
リュカが頷く。
「安全か、速さか、風景か。どれを選んでも、何かを手放すことになる」
アンリがペンを置いた。
「さて、これでどのルートもメリットとデメリットが出た。ーーどこにする?」




