序章 第一幕: 見捨てられた聖女 第2話 中編
女騎士は焚火のそばからマリーを連れ出し、少し離れた場所にいる仲間の女騎士の元へ歩き出した。彼女たちはマリーを見て少し驚いたようだったが、敵意は感じられなかった。
「騎士団の野営地にいたらモン・ルミエールのお偉いさんたちに怒られるだろ? 飯だけ渡すから、どっかで食べとけ」
そう言って、マリーの手にライ麦のパンと缶詰を押し込んだ。ライ麦のパンは王国で主流な小麦のパンと異なり、少し硬く、重く、見たこともない色をしていた。また、缶詰には見慣れない文字が刻まれている。ヴェルナーラ皇国の保存食だろうか。
他の女騎士たちも無言でマリーに物を渡していく。毛布、ドライフルーツ、古びた水筒、そして、歩きやすそうな靴。誰も多くは語らない。ただ、焚火の光の中でマリーの姿を優しく見つめていた。
その背後から、天籟騎士団の男たちの笑い声と祝杯の音が響いていた。木樽から麦酒を汲み、金属のカップを打ち鳴らしている。
「また、侵攻を防いだぞ!」
「乾杯だ、野郎ども!」
「モン・ルミエールが俺らに勝つのなんか千年早い!」
その声は風に乗ってマリーの耳を打った。肩が震えて、指先が冷たくなっていく。それはただの祝杯の声ではなかった。
千数百年もの間、マリーの祖国はヴェルナーラ皇国に「異教は穢れている」という理由で何度も攻め入り、そして敗れ続けていた。
歴史書の中で嘲笑され、聖女たちの祈りは届かず、民の命は風のように散っていった。
そのすべてが今、この祝杯の音に凝縮されている。
勝者の笑い、敗者の沈黙。
マリーは喉の奥が張り付くのを感じた。
渡されたライ麦のパンと缶詰の重さが、まるで祖国の敗北の重さのように思えた。
女騎士たちは何も言わず、マリーを見つめていた。
その沈黙だけが、彼女をこの場にとどめていた。
次で2話は最後です。




