序章 第二幕:作戦会議 第三話 後編
書斎の窓の外では、湖の水面がきらりと光っていた。風がページをめくり、皇国語の文字がふと目に留まる。その言葉は、遠くの国の空気を運んでくるようだった。似ているけれど違う。懐かしいようで、少しだけ異質な響き。マリーはその違いに、旅の予感を感じていた。
廊下を抜けると、空気が少しだけ賑やかになる。
リビングでは、クララとリュカがアンリを囲んでいた。窓が開け放たれ、風がレースのカーテンを揺らしている。テーブルには紅茶と焼き菓子が並び、クララの笑い声が軽やかに響いていた。
「ねえアンリ、一緒に行こうよ!」
クララが身を乗り出して言う。
「たくさん人がいた方が楽しいし、あなたがいたら絶対安心だもん!」
「そうそう!」とリュカも続ける。
「アンリがいれば、道に迷ってもなんとかなるし、変な人が来ても睨んでくれるし!」
アンリはソファに座ったまま、少し困ったように眉を寄せていた。
「……いや、俺は別に行かなくても。君たちだけで十分だろう?」
「えー、そんなこと言わないでよ!」
クララは頬を膨らませる。
「みんなで行くから楽しいんじゃない。ね、リュカ?」
「うん。アンリがいないと、なんか物足りないっていうか……」
そのやり取りを、マリーは書斎から戻ってきたばかりの静かな足取りで見つめていた。彼女は手にした本をテーブルに置き、ふとアンリの方へ視線を向ける。
「そういえば、アンリさんって……ヴェルナーラ語、話せるんですよね?」
その声は穏やかで、芯のある響きを持っていた。
アンリは少し驚いたように顔を上げる。
「え? まあ……使節の方々に教わってたから、多少は」
マリーは微笑みながら、本の表紙を指でなぞった。
「この本、皇国の儀礼について書かれていて、原文も多いんです。通訳がいないと、意味を取り違えそうで……」
彼女は一歩近づいて、言葉を継いだ。
「通訳として、ついて来てくれたら嬉しいんだけど……」
アンリはしばらく黙っていた。
クララとリュカが、期待に満ちた目で彼を見ている。
マリーの声には、押しつけがましさはない。ただ、静かな信頼が込められていた。
「……仕方ないなぁ」
アンリはそう言って、肩をすくめた。
「通訳が必要なら、行くしかないか。君たちだけじゃ心配だし」
クララがぱっと笑顔になり、リュカが「やった!」と声を上げる。
マリーは静かに微笑みながら、テーブルの本を開いた。風がページをめくり、皇国語の文字がふと目に留まる。その言葉は、遠くの国の空気を運んでくるようだった。アンリはその文字を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「この語、王国語では“誓い”だけど、皇国語では“心を結ぶ”って意味なんだ。似てるけど、違うんだよね」
マリーはその言葉に、静かに頷いた。 言葉の違いが、旅の意味を少しだけ深くしていく。そして、アンリの参加が決まったことで、旅の輪郭がようやく整い始めたように感じられた。
新しい仲間が増えました。 よかったね




