序章 第2幕:作戦会議 第2話後編
午後の光が、レースのカーテンを透かして部屋に差し込んでいた。カップの縁に残る紅茶の跡が、時間の緩やかな流れを物語っている。クララがふと、カップを置きながら言った。
「ねえ、二人って似てるよね。兄弟?」
その言葉に、空気が一瞬止まった。 アンリとリュカは、まるで打ち合わせでもしていたかのように、同時に答えた。
「双子」
その重なった声に、マリーが目を見開いた。カミーユは手元の本を閉じ、静かに顔を上げる。
「えっ……でも、二人の名字が違うじゃない。アンリはアンヴェールで、リュカさんはロレーヌで」
マリーが言うと、アンリは少しだけ肩をすくめて、窓の外に視線を向けた。
「両親が離婚して、俺が母親に。リュカが父親に引き取られたんだよ」
その言葉は、淡々としていたけれど、どこか遠くを見ているようだった。クララは口元に手を当てながら、何かを言いかけてやめる。リュカはアンリの隣にぴたりと寄り添い、少し拗ねたような声で言った。
「気味が悪いからって理由で俺たちを引きはがしたんだよ?ひどくない?」
その「俺たち」という言い方に、マリーは息を呑んだ。 カミーユは眉をひそめながら、静かに問いかける。
「気味が悪い……って、どういう意味?」
アンリは少しだけ笑って、リュカの頭を軽くぽんと叩いた。
「昔から、俺たちが並んでると、なんか異様だったらしい。顔も声も、動きまで似てて。まるで鏡みたいだって」
「同じことを同時に言ったり、同じ夢を見たりね」
リュカが補足するように言うと、クララは目を輝かせた。
「それって、すごく素敵じゃない!双子って、そういうものなんでしょ?」
アンリは少しだけ首を振った。
「素敵って思う人ばかりじゃない。うちの親は、怖がったんだよ。俺たちが“同じすぎる”ことを」
マリーはそっとカップを持ち直しながら、言葉を探すように言った。
「でも、離れても……似てるものは似てるのね。空気まで、そっくり」
リュカはアンリの袖を握りながら、どこか誇らしげだった。
「結局、俺たちを離しても意味なかったよね。こうしてまた一緒にいるし」
アンリはリュカの手を見下ろして、少しだけ微笑んだ。
「まあな。引きはがされたって、俺たちが“俺たち”であることは変わらない」
その言葉に、誰もが黙った。窓の外では風が静かに木々を揺らし、午後の光が二人の影を並べて落としていた。
その影は、どこか一つに溶け合って見えた。
クララがぽつりと呟いた。
「運命みたいだね。離れても、戻ってくるって」
リュカはアンリの肩に頭を預けながら、目を細めた。
「運命っていうより、磁石みたいなもんかな。離れても、引き寄せられる」
アンリは少しだけ目を伏せて、静かに言った。
「それが嬉しいかどうかは……時々わからなくなるけどな」
その言葉に、誰もすぐには返せなかった。けれど、沈黙は重くはなかった。それは、過去を受け入れようとする静かな時間だった。
カミーユがそっと立ち上がり、窓辺に歩み寄る。
「ねえ、あの湖……双子の伝説があるって聞いたことがあるわ。二つの魂が、同じ水面に映るって」
クララが目を輝かせる。
「それって、まさにアンリとリュカじゃない?」
マリーは微笑みながら頷いた。
「そうね。違う名字でも、違う道を歩いても、根っこは同じ。そんな気がする」
アンリは少しだけ肩をすくめて、リュカの髪をくしゃりと撫でた。
「まあ、こいつが勝手にくっついてくるだけだけどな」
「ひどいなあ、俺はアンリが好きだから一緒にいるのに」
リュカは笑いながら言い返す。
その笑い声が、部屋の空気を少しだけ軽くした。午後の光は、まだ静かに、二人の影を並べていた。
アンリとリュカの関係性をようやく明かすことができました。この旅にアンリがどう関わっていくかは明日のお楽しみに




