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聖女巡礼録 追放された聖女は敵国を旅することにした  作者: 深雪
序章 祈りの果て、旅の始まり
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序章 第2幕:作戦会議 第2話 前編

二日後の午後、湖畔の空気は少し湿り気を帯びていた。ボンパドゥール家の別荘の門が静かに開き、ひとりの青年が姿を現した。長身で、黒に近い灰色の外套を羽織っている。風に揺れる無造作な黒髪は彼の気配を柔らかくぼかしていた。赤みを帯びた紫色の瞳はどこか眠たげで、歩みもゆったりとしていた。


「……唐突すぎるんだけど」

アンリ・アンヴェールは門の前で立ち止まり、ぼそりと呟いた。その声に反応して、リュカが玄関から飛び出してくる。 普段は皮肉めいた笑みばかり浮かべているリュカがまるで子犬のような表情で駆け寄った。

「アンリ……!」

リュカは勢いよく抱きつき、腕をしっかり回して離れようとしない。アンリは少しよろけながらも、苦笑を浮かべながらリュカの背をポンポンと叩く。しかし、その目には頼られたことに対する喜びが映っている。

「お前、本当に急すぎるんだけど。何があったかくらい先に言えよ」


その様子を玄関の奥からマリー、カミーユ、クララが見つめていた。クララは目を丸くし、マリーは眉をひそめる。

「えっと、二人ってこんなに仲良かったっけ?」

カミーユも静かに首を傾げる。

「リュカさんもアンリさんもいつも見ないような穏やかな顔をしてますね」

マリーは二人の顔をじっと見つめた後、あっと息を漏らす。そして、カミーユとクララに小さな声で打ち明ける。

「ねぇ、二人ってよく見たら顔が似てない?」

カミーユとクララはじーっとアンリとリュカの顔を見比べる

「言われてみれば……輪郭とか、口元とか。雰囲気もなんとなく」

「髪型と目の色とかは違いますが、立ち姿とか、仕草とかが似てる気がします」

三人の視線の先では、アンリがリュカの背を軽く叩きながら、何かをぼそぼそと話している。

リュカは笑いながら、アンリの袖を引いて何かをせがんでいるようだった。

「……兄弟とか、そういう感じなのかな」

クララの言葉に、マリーは少し眉をひそめる。

「でも、名字が違うし……リュカさん、そんな話してたっけ?」

カミーユは首を傾げながら、ぽつりと呟いた。

「なんだか、二人だけで空気が閉じてるみたいですね。誰も入れない感じ」

三人はしばらく黙ってその様子を見つめていた。


アンリはようやくリュカを引き離し、外套の裾を軽く整えると、玄関の奥に立つ三人に目を向けた。

その瞳は、眠たげながらもどこか懐かしさを含んでいた。

「マリー様はともかく……」

少し間を置いて、アンリはカミーユとクララに視線を移す。

「お前らまで辞めるなんて、思ってなかったよ」

クララは目を丸くし、カミーユは少しだけ眉を動かした。

マリーが小さく笑う。

「やっぱり、知ってたんですね。私たちが神殿を離れたこと」

アンリは肩をすくめる。

「まあ、神殿ってのは噂が回るのが早いからな。誰がどこに行ったかくらいは、だいたい耳に入る」

クララは少し照れたように笑いながら言った。

「でも、アンリさんがそんなふうに言うなんて、ちょっと意外かも」

「意外って……俺だって、多少は人のこと気にするよ」

アンリはぼそりと呟きながら、視線を逸らす。

「お前ら、神殿ではそれなりに真面目だったし。辞める理由、聞いてないけど……まあ、何かあったんだろうなって」

カミーユは静かに頷いた。

「それぞれに、選んだ道がありますから。けれど、こうしてまたお会いできて、嬉しいですわ」

アンリは少しだけ口元を緩める。

「......俺も。こうして呼ばれるの、悪くない」

その言葉に、三人はふと目を見合わせる。 アンリの気だるげな雰囲気の奥に、確かな温度があることを感じ取っていた。


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