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聖女巡礼録 追放された聖女は敵国を旅することにした  作者: 深雪
序章 祈りの果て、旅の始まり
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序章 第一幕:見捨てられた聖女 第8話 前編

「マリー様、荷物のお片付けは終わりましたか?」

昼下がり、温かな日差しが差し込む中、リュカはマリーの部屋を訪れた。扉の向こうから声をかけると、少しして中から返事が聞こえた。

「だいたい……終わったと思う。カミーユとクララが手伝ってくれたから結構、捗ったの」

マリーが扉をあけて、彼を部屋の中に招いた。彼が部屋に入ると前に来たときとは違い、綺麗になった部屋がそこにはあった。リュカは部屋を見渡しながら、彼女に微笑んだ。

「それは心強いですね。お二人とも、頼りになる方ですから」


マリーは一瞬だけ躊躇し、そして、言葉を選ぶように口を開いた。

「あの、リュカさん。一つ、お話ししたいことがあって……」

「はい、なんでしょうか」

「その……リュカさんの他にカミーユとクララも一緒に行くことになったとしても、大丈夫ですか……?」

彼女は彼の表情を探るように視線を向けた。彼女の声色には不安が滲んでいた。自分の決断が彼の負担にならないか、それだけが気がかりだった。リュカは驚いたように彼女を見つめたが、すぐに微笑む。

「もちろん。むしろ、心強いです。あなたが信じる人たちなら私も信じます。カミーユさんとクララさんも、あなたの側にいるべき人たちだと思います」

マリーはほっと息を吐く。胸の奥にあった小さな棘がすっと溶けていくようだった。

「ありがとうございます……!」

彼女の声はすこしだけ柔らかくなった。


リュカは窓枠に腰掛け、窓の外に目を向けながら静かに呟いた。

「これで、4人目ですね。なんか、賑やかな旅になりそうですね」

マリーはリュカの言葉に少しだけ笑みを浮かべる。

「……そうだね。今までは静かな神殿にいたからちょっと不思議な感じ」

彼女は床に座って、指を膝の上で組んだ。

「クララはおしゃべりで好奇心旺盛だし、カミーユは意外と適応能力高いし……」

「そして、あなたは意外と肝が太い」

リュカがそう言うと、マリーは目を見開いて言った。

「そんなふうに見えてたんですか?」

「ええ。だって神殿を追われた直後なのに、ちゃんと荷造りをして、行き先まで決めてらっしゃる。普通なら、もっと取り乱してもおかしくない状況ですよ」


そう言って、リュカは再び窓の外に視線を戻す。風が枝を揺らし、遠くで鳥が囀っている。マリーは少しだけ視線を落とし、膝の上の指をぎゅっと組みなおす。

「……取り乱す余裕がなかっただけだと思う。怖いとか悲しいとか感じる前に決めなきゃいけないことが多くて」

その声には静かな疲れと静かな誇りが混じっていた。

「それでも、決めたのはあなたです」

彼は彼女をまっすぐ見つめる。

「誰かに言われたからじゃなくて自分で選んだ。だから、肝が据わっているって言ったんです」

彼女は目を伏せたまま、ふっと笑った。

「そう言われると、少しだけ救われる気がします」

「それにカミーユさんとクララさんがついてくるって聞いた時、あなたはすぐに”迷惑かけちゃったかな”って心配したでしょう?」

「えっ、見抜かれてた……」

「ええ。でも、彼女たちはあなたのために動いている。それを受け止めるのも強さのひとつです」

マリーはゆっくりと顔を上げた。リュカの瞳には静かな誠意が宿っていた。その視線にマリーはすっと背筋を伸ばした。

「……じゃあ、ちゃんと、受け止めてみます。みんなの気持ちも、自分の選択も」

「それでこそ、旅のリーダーですね」

「リーダーって、私のことですか……?」

「ええ。私はただの護衛ですから。決めるのはあなたです」

マリーは目を見開き、少しだけ笑った。その笑みは聖女だったころよりも力強い笑みだった。


窓の外の風が旅の始まりを告げるように静かに吹き抜けていった。リュカはその風の音に耳を傾けながら、ふと目を傾けた。

「そういえば、どこに行くか教えてもらえませんか?」

マリーは一瞬だけ悩む素振りを見せたが、すぐに答えた。

「ヴェルナーラです」

その言葉を聞いた瞬間、リュカの表情が固まった。まるで時が止まったかのように彼は瞬きを忘れた。

「……ヴェルナーラ、ですか……?」

「はい。何か問題でも?」

マリーは少しだけ首を傾げて、リュカの反応をうかがうように目を合わせた。リュカは窓枠に手を置きながら、ゆっくりと息を吐いた。

「いや……てっきり、もっと穏やかな場所を選ぶかと。アルメニア共和国とかエルナード王国とか……」

「でも、この前、フリューゲルの騎士団の方々に助けてもらった際にそんなに悪いところじゃないのではって思って。それを自分の目で確かめたいと考えたんです」

マリーの声は落ち着いていたが、その奥には確かな決意が宿っていた。


リュカは眉をひそめ、少しだけ視線を逸らした。

「ヴェルナーラは……あまり旅人に優しくないですよ。地理としても、国民性としても」

「そうだっとしても、行きます」

マリーの言葉は静かで、揺るぎなかった。リュカはしばらく沈黙した。その間に窓の外の風が強くなり、木々の葉がざわめいた。

「……想定外でした。正直、他の国を選ぶと思ってました」

彼はそう言って、マリーに向き直る。

「でも、あなたが決めたなら、私は従います。護衛ですから」

マリーは小さく笑った。

「ありがとう。でも、リュカさんが驚いているの、ちょっと面白い」

「驚きますよ。ヴェルナーラは僕にとっても……いろいろある場所ですから」

その言葉には過去の影がちらりと差していた。マリーはその気配に気づいたが、あえて深くは聞かなかった。

「じゃあ、いろいろある場所に、一緒に行きましょう」

リュカは目を細めて笑った。

「ええ、覚悟はしておきます」

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