8話 これからのお仕事について
悪魔狩りがやって来た次の日……
「あの悪魔狩りの三人、ようやく止まったみたいだね」
昨日、マルに唆された悪魔狩り三名は勝手に潰し合いを始めた。
一人は正義の為、一人は身勝手な動機、一人は元の生活に戻る為。
しかし、最後は三人仲良く全滅するという結果に終わった。実に呆気ない幕引きだ。
「三人は綺麗にお掃除しといたから安心してねぇ!」
昨日は自室で眠りにつき、翌朝に大広間に現れた私とルートの前に、掃除用具を抱えた悪魔のマルが姿を現した。
マルの衣装は昨日と変わっていた。派手な服装から、シンプルながらもオシャレなものに変化していた。ヒラヒラは相変わらず付いていたけど、昨日と比べれば控えめだった。
「あ、マルお疲れ様〜」
「はいはーい! ジギちゃん、ルートくん、好きにさせてくれてありがとっ! お陰でスッキリしたよ!」
マルは洒落た衣装をヒラヒラさせながら私達にお礼を言う。
「マル様、我々とご一緒に朝食でも如何ですか? 積もる話もあるでしょう」
「いいの!? 食べる食べる! 君達のことも知りたいし、こっちにとっては願ったり叶ったりだよ!」
ルートのお誘いにマルは快諾。こちらとしても、この世界事情をよく知りたかったのでマルの参加は非常にありがたい。
「ルート、朝食は何にするの?」
「バイキングです」
「おぉー! いいねぇ!」
バイキングと聞いたマルは大はしゃぎ。どうやらこの世界にもバイキング形式の食事は存在するようだ。
「失礼します」
ルートが指をパチンを鳴らすと、大広間に長テーブルが出現した。それと同時に大広間の大きな扉が開かれ、料理を乗せたワゴンを運ぶ大量のゴーレムが現れた。
「おぉ〜! テンション上がる〜!」
「いいねぇいいねぇ! すっごく美味しそうな料理ばかりで、僕も大興奮だよ!」
私とマルは次から次に運ばれてくる豪華な料理に大興奮。つい昨日、ここで悪魔狩りが発生したとは思えないほどのはしゃぎぶりである。
オムレツやベーコンなどの朝食らしいものから、天麩羅、ローストビーフ、キャビア乗せクラッカーなどの豪華な料理もあった。
ゴーレム達による準備が終わり、ついにバイキングの準備が整った。
「これよりバイキングを始めます。お皿を手に持ち、お好きな料理をお選びください」
「「はーい!」」
ルートの宣言に元気よく返事をした私とマルは、大きな皿を手に取り大急ぎで料理の元へと移動した。
「何にしよっかな〜! ……あっ、グラタンあるじゃん! 沢山持ってこ!」
私はグラタンの美味しそうなコゲ目がついた部分ごと掬い上げては皿に乗せていく。
「久しぶりの食事にこんな豪華なバイキングを用意してもらえるなんて……!」
マルは大喜びしながら料理を見て回り、バイキングの料理を吟味しているようだ。
「じゃあ僕はお肉でも……ええっ!? これってまさかドラゴン肉!?」
「ジギさんが狩猟したブルードラゴンの肉です」
「ジギちゃんブルードラゴン狩れるの!? あの大きな奴を!? すっごく強いんだねぇ……!」
マルは私を見つめながらドラゴン肉を皿へと移していく。
「まあ、地獄で罪人やら悪魔を相手に戦ってたからね! それなりに腕に自信はあるよ!」
「ジギさんの戦闘スタイルは全体的に滅茶苦茶ですが、とても優秀です」
「へぇ〜! ってことは、結構なお年だったりする? 年上の先輩?」
「いや、別にそこまでじゃないよ。ただ好奇心旺盛で誰よりも勤勉だったから強くなった感じで……」
私達は会話しながら大量の料理を皿に盛り付けていく。一方ルートは、様々な料理をバランス良く盛り付け終え、既に席についていた。
私も好きな料理を取り終えたので、大急ぎでテーブルについてご馳走を食べる。どの料理も最高で大変美味しかった。
「う〜ん……最高っ!」
久しぶりの食事にありつけたマルは、席から飛び上がる勢いで大喜び。
大盛りの料理を次から次へと口に運んでは大喜びしていた。
朝食後……
「ご馳走様! あーお腹いっぱい!」
食事を摂り終えたマルは大満足な様子でお腹をさする。なんとマルは、バイキングで運ばれた料理を全て食べ尽くしてしまった。
私達が満腹だと宣言した途端、枷を切ったかのように大量の料理を皿に盛り付け始めたマルを見た時は、私もルートも好奇心に駆られてマルの動向を最後まで見守った。
実際、彼はいい食べっぷりだった。
「何もかも最高だったよ! ジギちゃん、ルートくん、ありがと!」
「いえいえ、満足いただけたようで……こちらとしても喜ばしい限りです」
大喜びで食後の紅茶を嗜むマルと、顔より大きなジャンボパフェを丁寧に食すルート。
(なんか……見た目的にも「逆」って感じがする……)
「……あ、そうだ。マル」
「ん? ジギちゃんどうしたの? この世界の地獄がどうなってるのか知りたいのかな?」
「そうそう。天使も悪魔も、善良な魂すら狩るこの世界の人間について、簡単に教えてほしいなって思って」
「分かった!」
マルはティーカップを丁寧にソーサーに置き、この世界の人間とあの世についての簡単な話を始めた。
「えーっと……あ、そうそう。この世界の人間は、天使や悪魔や死神をまとめて「魔神」と呼んでるよ。その魔神が狩られる原因となった事件についてお話するね」
私とルートはマルに顔を真っ直ぐ向ける。
「かつてこの世界の生き物は、天使や悪魔を視認できる人は少なかった。だけど……ある日突然、殆ど全員の魔物や人間が天使や悪魔を視認できるようになったんだよ」
「ある日突然……?」
「恐らくその現象は創造者の仕業でしょう」
どうやら創造者は、この世の生物が魔神を見れるような仕組みに変えてしまったらしい。
(そう言えば、この世界に来た瞬間にドラゴンに食べられたなぁ……)
「僕らが人間に視認できるようになったある日、ベテラン冒険者は魂を連れて行こうとする天使を討伐してしまったんだ」
「ええっ!? 天使を!?」
「なんかね、天使が魂を持っていくから人が死ぬと思っちゃったんだって。亡くなったベテラン冒険者が言ってたよ」
(本人から直接話聞いたんだ……)
「で、天使を倒しちゃった人は、とりあえず天使を解体して」
「解体したの!? 初めて見る天使を!?」
「その天使の素材で防具や武器を作ったみたい」
「武器や防具を!? 初めての天使で!?」
「うん」
地球生まれの私からしたらとんでもない話だった。
「で、天使の武器や防具を身につけたベテラン冒険者はすっごく強くなっちゃって……そのベテラン冒険者は、魔物狩りの側で魔神狩りをするようになったらしいよ」
「なるほど、その影響で魔神装備が広まったのですね」
「ベテラン冒険者の強さの源が天使だと知ったら、他の人もそりゃ魔神狩りに走るよ……」
強くなれば、今まで討伐できなかった強敵も余裕で倒せるだろう。魔物狩りを生業とする冒険者なら、絶対に食いつく話題だ。
「ベテラン冒険者の力によって魔神はどんどん討伐されて……魔神の研究も進んだよ」
「人間って恐ろしいなぁ……」
「魔神を閉じ込めるチャームが開発されたり、魔神素材で作成された武器や防具、チャームの力を維持する為には魂が必要だって分かって……それからは魂もターゲットになった」
マルは悲しげな表情を見せながら話を続ける。
「そうしていくうちに、魔神の力は周りにどんどん広まっていったよ。ベテラン冒険者や貴族みたいな、とにかく金を持ってる奴らが、オークションで売られている魔神チャームを購入できるようになったし……」
やはり、力を得られるチャームは高額で取引されるようだ。
「で、人外の力を得た人間は金稼ぎの為に、天使や悪魔を狩猟して……チャームに閉じ込めたり、素材にして売り捌いたりするんだよ」
「まあそうなるよね……」
人外の力があれば天使や悪魔、死神も討伐できるだろう。
「で、現世で彷徨う魂もチャームや魔神武器の素材になるから……魂も取引されるようになったんだ。で、現在はもう大変なことになってるんだ。天使も悪魔も、相当なことが無い限りは人間界に出るなって上からお達しが出たし……」
どうやらこの世界は、想像以上に恐ろしいことになっていたようだ。
「善良な魂が転生できずに消費されるなんて……」
「それ以前に、このままでは世界が成り立たなくなります。この世界の魂は、転生して新たな人生を歩んだり、マナとなり世界中に広がり森羅万象を支え、精霊に生まれ変わり自然を育む……」
「えっ!? すごく大事じゃん!?」
この異世界における魂は、かなり重要な役割を果たしているようだ。
「ルートくんの言う通りだよ。人間もマナも精霊も、何度も生まれ変わって別の人生を歩んで世界を支えてるんだ。その流れを支える為に天使や悪魔がいるんだけど……」
「このまま放置したら、この異世界に未来は無いでしょ……」
「魔人狩りを止め、魂の保護をすることが我々の仕事……ジギさん、この世界での我々の仕事の重要性は理解できましたか?」
「十分過ぎるくらいに分かったよ……」
少なくとも、異世界に転移して早々にバーベキューをして盛り上がっている場合ではなかったと思う。
「でも、ここまで荒れてる異世界をどこから直せば……」
「まずは魔神を保護しましょう。魂を保護する存在をこれ以上減らすわけにはいきません」
いつのまにかパフェを食べ終えたルートが、魔神保護の提案をする。
「魔神を保護するって……どうやって保護するの?」
「各地に巨大ダンジョンを作成します」
ルートは席から立ち上がる。
「巨大ダンジョンを作成し、そこから発生するマナや魔物で天使や悪魔、死神、精霊を保護するのです」
ルートは壁まで移動し、今度は壁を歩き始めた。
「マナは魔物や精霊を成り立たせる存在であり、魔物を狩る人間にとっては迷惑な存在です。その上、人間は多量のマナを摂取し過ぎると魔物と化してしまうのです」
「へぇ……」
つまり、人間が来られないほどに強力な巨大ダンジョンを作成すれば、少なくともその巨大ダンジョン付近に人間は現れないということだ。
「なるほど、巨大ダンジョンから現れる魔物で魔神保護をねぇ……! 強いダンジョンから生まれた魔物はダンジョンから外に出れるって聞いたことあるし、巨大ダンジョンがあれば幾らでもボディーガード作れちゃうかもね!」
マルは笑顔で喜ぶが、幾つか問題がある。
ダンジョンから生まれた魔物は果たして、魔神装備で身を固めた人間に勝てるのか。それと……
「ねえルート、思ったんだけど……」
「どうしました?」
「そんな強いダンジョンって、すぐに作れるの? 材料集めるのも大変そうなんだけど……」
「作れますとも」
どうやらルートは、巨大ダンジョンを作成する計画は既に練っていたようだ。
「お二人の助けがあればすぐにでも完成すると思いますが……ジギさん、マルさん。手伝って頂けますか?」
「もちろん私も協力するよ! この楽しそうな異世界をこのまま放置して駄目にしたくないからね!」
私は元気よくそう宣言して、天井に立つルートに向かって声を届ける。
「僕もやるよ! 生まれ故郷であるこの星を守りたいから! 出来ることなら何でもする!」
「お二人とも、ありがとうございます」
マルも真面目に宣言する。その様子を見たルートは満足そうに頷いた。
「……で、ルート。まずは何をするの?」
「巨大ダンジョンの核となる魔石を採取しに、魔王城へと向かいます」
「「は?」」