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7話 仲間割れ

「急いで追いかける必要はございません。彼等はもう、この城からは出られませんので」


 悪魔狩りを追いかけようとしたマルを呼び止めたのは、いつの間にかこの場に戻っていたルートだった。


「後は煮るなり焼くなり、お好きな方法で恨みを晴らせますよ」


 ルートはマルに静かに歩み寄る。対するマルは目を丸くし、不思議そうにルートを見つめている。


「ジギちゃん、この悪魔誰?」

「私の同僚のルートだよ。魔法の腕が物凄い悪魔で、悪さしてたこの異世界の創造者を捕獲したんだよ」

「捕縛した創造者のポケットにありとあらゆる種類のネギを詰め込みました」

「どういうこと?」


 ルートの突拍子もない行為に疑問が出るのも無理はない。


「って、この世界の創造者って捕まってたの? この惨状を放置する奴だから、いつかは捕まるだろうとは思ってたけど……」

「私が捕獲し、報酬としてこの星を貰いました」

「報酬……? ねえルートくん、その話って本当に合ってる? 嘘じゃないよね?」

「ルートは本当にすごい悪魔で、変な嘘はつかないはずだよ……多分」


 閑話休題。


「さてと……あの悪魔狩りに今までのお礼しないとね!」


 マルは両腕をブンブン振り回し、張り切っている様子だ。


「マル、私達も何か手伝うことある?」

「すぐ終わるからだいじょーぶ! じゃ、行ってきまーす!」


 マルは私達に両手を振ると、後方にある扉に向かって凄まじい速さの宙返りをしながら飛んでいき、その場から姿を消した。



 一方、悪魔狩りの三名は、剣士を筆頭に城内を駆け回っていた。



「くそっ! ここも開きやしねぇ!」


 剣士は頑丈な窓を何度も殴りながら叫び散らす。


「落ち着け、冷静に出られる場所を探すんだ」

「落ち着いてられっか! 悪魔と一緒に閉じ込められてんだぞ!」

「静かに、悪魔に見つかる」


 魔法使いを背負った銃使いは剣士を宥めるが、剣士の怒りは収まらない。


「くそっ! ちんたらしてたら悪魔が来るってのに……! このリーダーはてんで役に立たねぇ!」


 剣士は悪態をつきながらズンズン走り、銃使いから離れていく。


「おい待て、ここで別れるのはやめておいた方が……」

「二手に分かれて出口探すんだよ! じゃあな!」

「悪魔がいる場で一人になるのは危ない! 心の隙間につけ込まれるぞ!」

「俺はそんな軟弱じゃねーよ!」


 剣士はそう吐き捨てると、銃使いの静止を聞かずに何処かへと走り去って行った。


「くそっ……」


 銃使いは魔法使いを背負ったまま立ち尽くす。もはや絶望的な状況だ。


『アイツはもう無理そうだ……』


 銃使いの心に、消極的な言葉がよぎる。


『アイツは実力はあるが、人間性に問題がある。リーダーの話すらまともに聞かず、自分勝手な行動を取ってチームワークを乱す……』


「くっ……し、しかしアイツは……!』


『悪魔にやられた仲間をその場に捨て置こうとした……アイツの魔法には助けられていたというのに、力を失った途端、この有様……』


 銃使いは消極的な言葉を頭から追い出そうとするが、消極的な言葉は次から次へと頭に入ってくる。


『仲間を大切にできない人間は、冒険者には向いていない……いや、冒険者にさせてはいけない。自分勝手な奴だ、いつか間違いを犯す……』


「アイツは……このままにしておけない……」


 仲間も力も失い、精神的にも追い詰められていた銃使いは、魔力が込められた悪魔の囁きによりあっという間に心を支配された。


『追い詰められたら、アイツはきっと悪魔と契約する……悪魔の傀儡くぐつと成り下がれば、どんな悪行をしでかすか分からない……自分勝手に暴れ回り、犠牲者を増やすに違いない……!』


「アイツを……アイツを止めなくては……!」


 意を決した銃使いは、魔法使いを近くの物陰に隠すと、腰につけていた予備の銃を手に走り出したのだった。


「ま、待って……」


 一人取り残された魔法使いは、力を振り絞り声を出すが、心を支配された銃使いの耳には届いていないようだ。


(ぼ、僕……まさか……捨てられた……?)


 魔力を生み出す源である魔力核を失い、頼りにしていたリーダーにまで捨てられた魔法使いは、力なく地面に倒れたまま静かに涙を流す。


『仮に外に出られたとしても、僕……まともな生活を送れない……』


 魔法使いの心にも消極的な言葉が現れ、悪い思考はどんどん膨らんでいく。


『幸いお金はある……贅沢しなければ死ぬまで生きていける、けれど……前のような華やかな生活には戻れない……』


『地味な生涯を送って、最後は悪霊に成り果てて終わる……そんなくだらない一生を過ごすのなら、いっそのこと……』


(……いや、そんなことしたら人として終わる! 悪魔と契約するなんて、死んでもゴメンだ……!)


『でも、今の僕を見たら家族も仲間も、きっと失望する……』


(うぅ……)


 弱りきった魔法使いの心は、すぐに悪い言葉で満たされる。


『死んで魂だけになっても、消滅するか悪霊になるか、天使や悪魔の餌になるだけ……どうせ最後は消滅するわけだし、何もせず消えるより……』


「……悪魔と契約して……力を得た方が遥かにマシだ……!」


 魔法使いの心は完全に折れ、負の感情に支配された。




「くそっ! ここも開かねえのかよ!」


 魔法使いと銃使いと別れた剣士は、地道に出口を探していた。闇雲に探し回り、剣士の顔に疲労の色が窺える。


「あーくそっ!」


 剣士は壁を殴りつけ、その場に座り込んでしまった。


「あの悪魔狩りが成功してたら、今頃はこの城も俺達の物だったってのに……!」


『そもそも、あのリーダーは頼りない……』


 剣士の心にも消極的な言葉が流れる。


『リーダーは油断した。雑な計画を立てて挑んだ結果、力は奪われ道具も取られ、仲間は一人駄目になった……アイツはリーダー失格だ!』


「そうだ……! 元はといえば、リーダーのヘマが原因でこんなことになってんじゃねえか……!」


 剣士は銃使いのリーダーに前々から思うところがあったのか、あっという間に消極的な言葉に支配された。


「あの野朗……! 悪魔が相手ならもっとしっかりした計画立ててけってのに! あんな雑な作戦で突撃して返り討ちに合うなんざ、冒険者リーダーの風上にも置ねぇ!」


 剣士は剣を手に立ち上がる。明らかに正常ではなく、目には押さえ切れない殺気が宿る。


「殺してやる……! アイツの魂を悪魔に持っていき、魂と引き換えに契約すれば俺に悪魔の力が戻る……!」


 完全に悪い感情に支配された剣士は、銃使いを捕える為に城を彷徨いだした。



 数分後……



「同士討ちが始まったみたいだね」


 城内に獣のような叫び声が響き、発砲音などの派手な音が聞こえてくる。人間同士が争い合っているようだ。


「力を使い、多少強引に進めたとはいえ見事な腕前ですね」


 ルートは手にティーカップを持ち、カップに注がれたゼリーを飲み干す。


「一人は悪魔と契約しちゃったみたいだけど……あんな強引な契約したら、多少は天国や地獄から苦言とか来るんじゃないの?」

「その心配は無いよ!」


 私が心配の声を上げると、私の隣にマルが姿を現した。


「アイツらは冥界から指名手配されてたんだよ。天国と地獄から「奴らを捕らえよ」との指示が出てたんだ!」

「あー、そう言えば……あの人達って、勝手に魂取ったり、天使、悪魔、死神を私利私欲で捕まえてたんだっけ?」


 悪魔をチャームに閉じ込め、無理矢理力を使用していた。私のことも捕まえようとしていた。


「そうそう! 捕まえた三人の魂は好きにしていいって事だからさ、折角だから好きにさせて貰ったんだ!」

「すごい世界だね……まさか、人間があの世から指名手配されるなんて……」


 どうやらこの異世界は相当酷い有様のようだ。

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